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チュート殿下 97 学園での生活 1

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 キーンコーンカーンコーン……。

「……」

 何とも聞き覚えがあるようなないような鐘の音が聞こえる。

 こんな音を聞いてしまうとここがつくづくゲームの世界なのだなぁと変な確信が生まれてしまい嫌になる。

 この鐘の音は、朝の一限目が始まるときと、昼の休憩が始まるとき、午後の授業の始まりと終わりの計四回鳴らされる。

 今の鐘は昼休憩の始まりを告げる鐘の音だ。

 取りあえずの説明のノルマは終わったのか、担任教師も手にしていた冊子を閉じて頭を下げた。

 ほかの生徒たちも手にしていた筆記具を置き立ち上がり頭を下げる。

 全員一緒に「起立、礼」はしないようだ。

 俺はどうしたらいいのかな、取りあえず頭だけは下げたほうがいいのか?こちらのことはきちんと認識できないことにはなっているし、一応王子様な俺は起立まではしなくてもいいのか?

 昨日の用務員の言を信じれば……身分を笠に着てはいけないようだから、皆と同じことをすればいいのか?

 と考えている間に、ちらりとこちらに視線を向けた担任はそのまま教室を出ていった。

『大丈夫、相手が望んだような行動をとったように認識させたから』

 頭の上から声がして、キールが机の上に腰を掛けていることに気が付いた。

 誰にも見えないけれど、俺と同じ制服を着た格好で年齢も俺と同じくらいに見える。

 冒険者をしていた時よりも若い人間の恰好に少し違和感。いつもは、少し年上の感じに見える姿なので、これも一種のキールの遊び心か。

 そう言えば……昼食はどうするのだろうか?

 俺はしっかりと朝リフルが準備された大きめのバスケットを馬車に積み込むのを見たから、今日の昼食を抜いて午後を迎えることは無く済みそうだが、寮から通うことが基本の学生たちは昼食はどうするのかな?

 さっき担任がその説明をしていたのかも知れないが、聞いていなかった俺が悪いのだが……。

「まぁ、俺には関係ないことか……」

 鐘の音と、担任から合図があったのだろう、隣の控室から大きなバスケットを抱えたリフルが顔をのぞかせていた。

 ほかの生徒たちも、教室の一番後ろに陣取ったままの俺の方を気にしながら、教室を三々五々出ていく。

 数人の塊ができているのは、俺以外の生徒たちが皆中級学校から持ち上がりの顔見知りだからだろう。

「さてと、ボッチ飯をどこでいただきましょうかね」

 誰にも聞かせるつもりがなかった独り言を、近くにやってきていたリフルが拾ったようで、

「ぼっちめし?」

 聞きなれない言葉に首をかしげる。

 何でもないと首を振り、椅子から立ち上がると、どこで食べるのか聞きながら教室を後にする。

「殿下のお食事の場所は、この教室棟を出て特別棟の中にあるそうです」

 あまり物事にこだわらないところがリフルのいいところだ。改めて聞き逃した言葉について聞くことなく、すぐに気持ちを入れ替えて俺が求めていることを忠実に行おうとしてくれる。

 何棟もの建物を備えているこの学園の中には、いくつかの食堂やカフェテリアのようなものもあるようだが、食事の様子をみられるのも、食事中に話しかけられるのも好きではない俺は、食事をする場所についてはどこか用意をしてもらえるようにマーシュに伝えていた。

 そもそもマーシュも俺が食事や休憩を心置きなくできる空間を学園内に設けることは考えていたようで、このことは王族であれば我儘とみられるようなことではないらしい。

 この学園にももちろん存在する生徒会に所属すれば、その元の身分に関係なく専用の部屋を準備されるとのことだが、元々その生徒会だけにはぜったいに関わりを持ちたくない俺とすれば、他に場所を準備してもらうしかない。

 王道学園の生徒会は、やはり生徒会だけの建物があるらしい。

 その中で何が行われているのか、これから何が行われるのか……。

 これっぽっちも全く興味がありませんが……。

 考え事をしながら長い廊下をリフルの後について歩く。

「寮から通っている生徒が保護者の方と会うための部屋があるそうなのです。女子寮は特に血縁の者であろうとも、男性が寮内に入ることは禁止されているということですので、そのための物ですね」

 寮と校舎の間にそれなりに立派な建物がいくつかあり、その中でも一番校舎に近い建物の一番立派な部屋をアークのための休憩室として使用することが決まったのだそうだ。

 そう大きくはない建物であるが、もしものことを考えてこの建物一棟をアークの物として借り切ることにしているとリフルは言う。

「授業の合間など時間が空いた時にも使うことができるように、この建物自体に誰も入れないようにするためにも借り上げることにしたそうです。安心の為ですね」

 笑顔でリフルは建物の中央にある大きな扉の鍵を差し込み、扉を押し開けた。

「中の掃除はしてあます。きっちりとなにも危険な置き土産が無いように確認もしております」

 笑顔のまま物騒な事を言うリフルに少し目を見張る。彼も俺が知らないうちに十分にマーシュから教育を受けてきたのだろう。

 俺に張り付くようについてきているキールも苦笑いを浮かべたような気配がした。

 このくらいの建物であれば常時結界を張ることも「屁の河童」だろうキールは、何も伝えることは無しに入館すると共にこの建物の周りに結界を張った。

 魔力を持っていないリフルははっきりと認識することはできないであろうが、キールの結界が張られたことは感じたのかもしれない。

 今までとは全く違う空気の色のようなものが、離宮の物と同じものに変わったことは感じ取れることができただろうから。


 
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