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チュート殿下 85 遂にやって来たXデイ⁉ 2

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 リフルの嬉しい馬車ドライブは、何事もなく終わった。

 学園専用の橋を渡り、学園の敷地内に馬車が入る。

 既に保護者の馬車渋滞は解消しているようで、それでも何台か豪奢な馬車が講堂近くの広間に留まっている。

 入園式は式典の時間は短いものだから、上位貴族の中には式典のみ参加してすぐにここから帰るつもりの者もいるのだろう。

 帰りは来た時よりも馬車渋滞がひどくなるかもしれないからね。上位の貴族になればなるほど待たされることは嫌いみたいだ。

 講堂正面に一番近いところに馬車を止める。

 この馬車の御者もそして馬も、マーシュが選んで俺に着けているのだから只者ではない。

 リフルはどうかわからないが、この馬車の異常な防御の硬さについては聞いていることだろう。

 と言って、気を抜く様子もないところはプロだな。

 講堂の正面の入り口を入ったところは、円形に近い広いエントランスになっており、正面にはメインの教場にもなる演壇のある式典会場につながる両開きの大きな扉が、その左右には二階、三階につながる大きな階段がある。

 既にほとんどの参加者は式典会場に入場が済んでいるのだろう。結構な音量の話し声が両扉の向こうからきこえてくる。

 この両扉の向こうにも、入室を調整するための広間があり、その広間の一面が式典会場に入るための四枚のお大きな両扉で仕切られているのだ。

 しかし、この状態で真正面の扉から堂々と式典会場に入り、目立つなんてことはしたくない。

 広い会場に入るのに扉がここだけというわけもなく、この広間の左右についている扉は、この講堂をぐるりと囲む長い廊下に繋がっていて、その廊下にいくつもある扉の中の、俺に用意されている席の一番近くの扉から、そう目立たないように入室することが、今回の自分に課されたミッションだ。

 俺一人で入場するならば結構簡単なミッションなのだが、愛想笑いを浮かべた学園の事務官か何か言っていた奴が案内するということで、講堂のエントランスで待っていたのだ。

 リフルは会場内には入ることはできないということで従者が控えているところへ、俺は式典が終わってすぐに帰ることはできないから、俺の馬車は一旦帰すことになっている。

「薄暗くなっておりますのでお気を付けてお通り下さいませ」

 やけに腰が低い男だ。まだ何物でもない俺にここまで遜っていると、逆に腹の中のことを疑うな。

『男爵家の3男だな。学園長の腰巾着だ。以前のことから、学園の上層部が要らぬ気をまわしているのだろう』

 キールが簡単に鑑定をかけたようだ。詳しく俺に知らせないということは、それだけの人物ということ。

『座る場所もわかったから、この男いらないな』

 少し物騒な言葉が聞こえたと思ったら、少し前を歩いていた男の動きがピタリと止まった。

「?」

「ほんの少しの間意識不明になってもらった。寝たともいえる」

 立ったまま寝ているという珍しい状況の男の顔を見ると,目が半眼になっており、その場で棒立ちのままフラフラ揺れている。

 実体化したキールが男の服をつまんでその場に縫い留めていた。

「こいつの頭の中ではきちんとアークを案内したことになるから、この場において行こう」

 キールがトンっと背中を押すと、フラフラした足取りながら元来た廊下を戻っていく。

「エントランスに出る扉をくぐったら元の状態に戻るから心配するな。それより早く入場してしまおう」

 キールはまた実体化を解いて、他の誰にも見えない状態になると、迷うことなく俺を先導する。

 先ほど鑑定したときに、男の中の今回の俺の席についての情報も得たのだろう。

「ほんと、便利だね……」

『まあな』

 少しあきれを含んでかけた声に、返ってきたものもウインク付きで、味方だからよかったけど、こんなのが敵に回るかもしれない国王陛下とか大変だろうなぁと、他人事のように感じた。

『ここから入るぞ』

 演壇の近くに新入生が並んでいるのだろう、もうすぐこの廊下がなくなるぞというところに近い扉にキールが手をかけた。

 誰にも見えないし触れないし、壁の通り抜けもできるのに、キールからは触ろうと思えば触れるという不思議現象。

「……」

『なに?』

 俺は首を横に振ってから、キールの開けてくれた扉をくぐった。

【ぎぎぎぎ……】

 さび付いたような音をあげて扉が開く。

 油差しとけよなぁ、と思いながら廊下よりは幾分明るい式場内に足を踏み入れる。

 扉の上げた音に、近くにいた幾人かはこちらに意識を向けたようだが、俺たちには認識を阻害する魔法をかけているので、行動じたいに他の人の意識が向かないようになっている。

 ササッと動いて俺の座る所まで移動する。

 ここではさすがに表立っての特別扱いはしていないようで、あまり目立たないようなところに空いた椅子があった。

 認識阻害をかけたまま椅子に座り、それをすべて絶つことなく薄くかけたまま入園式に臨むことにした。
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