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マーシュ・スリート 21 『びでおじょうえいかい』
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何も描かれていないただの白い布の前に座らされて皆怪訝な顔をするばかりだ。
この余興の主役ともいえる初級学校の校長や教師たちも、訳も分からず椅子に座らされている。もちろん彼らには気づかれないように巧に誘導し、纏めて断罪できるようにすぐ近くの席に固めて座らせて、その周りはこちらの手の物で囲み逃げられないようにした。
招待された者全てが座るだけの椅子をこの場に持ち込むことはできないので、今回のことに関係のない比較的爵位の低い方々には立ち見になるのだが許していただきたいものだ。
この世界で初めてだろうその場を切り取った臨場感ある『ろくがえいぞう』というものが見られるのだから、今は納得できない顔で立っている方々も、これを見た後はそのような気持ちもなくなるだろう。
さすがに両陛下がいらっしゃるこの場で、大声で文句を言いだすものはなく、小さなざわめきのまま、『じょうえいかい』なるものを始めることにした。
小役人の
「静粛に願います。これからもこの会場の明かりをすべて落とします。真っ暗になりますがお騒ぎになられませんように、安全は両陛下もいらっしゃるこの場、近衛第一部隊が承っておりますので安心してください。それでは皆様しばしの間ご静粛に願います。……。暗転!」
その声と同時に、協力者たちがこの広間の魔石により光っていたシャンデリア等の明かりをすべて落とす。
私は間髪入れずに、ビデオカメラの『ろくがさいせい』と言うボタンを起動させる。
真っ暗になった一瞬後、壁に張られた白い布に、学校施設の一つである競技場が映し出された。
「「「おぉ~……」」」
初めは何が起こったのかわからなかった観客たる貴族たちも、目の前に映し出されたそのままの競技場に驚いた様子で声が出る。
競技場の中では子供たちが行った初級学校一年生の実技試験の様子がそのまま映し出されている。色も音声もついたもので、競技場の観客席から見ているのを彷彿とさせる映像だ。
初めに流したこの映像は、やけに競技場の観客席の上の方からの物で、競技場の全体を見ることはできるが、実技試験を行っている個人を特定するには、知っている人物以外は少し難しい距離の映像である。
音声は絞ったので、この室内には流れないようにしている、撮影者のリフルによれば、どこの貴族の従者かわからないが、すぐ近くに座っていた者たちが、自分の主についての悪口ばかりずっと話していたというのだ。
今回のことに関係のないその悪口を会場に流すことは、また違うところで不幸になるものを出すかもしれないということで、リフルのとった映像に関しては音を絞ることにした。
何が映し出されているのかを理解させたところで、私は映し出す映像を切り替えた。
今度の物は殿下が作られた魔導具の『びでおかめら』で写し取ったものとは若干違う方法で写し取られたもの。
殿下曰く「念写」というものの応用で、殿下が見て記憶されたそのままを、この『びでおかめら』の映像が残される魔石と同じものに移し、焼き付けたものらしい。その説明の意味によくわからないものがあるが、とにかく殿下の体験されたその場のそのままを写し取ったものであると考えればいいのだそうだ。
それは、従者であるリフルから離されたところから始まった。
殿下目線であるため、画像を見ている方々には誰の視線であるかはまだ分からない。
今度の物には音声付きだ。
慇懃な態度の教師の一人に先導されて、なぜか地下の粗末な部屋に閉じ込められるところが映し出される。
「うげっ!」
席のあの一団の中から、悲鳴に近い声が上がった。
自分の姿が映し出されたことに驚いたのだろう。またそのことによってこの映し出されている者が一体誰の目線なのかもわかったのかもしれない。
真っ暗な中一人閉じ込められる人物、視線の低さから子供であることが見ている誰からもわかったのかもしれない、小さなざわめきが室内に広がる。
そして、閉じ込めた男が最後に放った言葉から、この人物が誰であるかこの部屋のすべての人間に理解ができたはずだ。
「ここで順番が来るまで、一人ゆっくりとお待ちください……殿下……」
この言葉が室内に流れた瞬間、ご婦人たちの小さな悲鳴が所かしこから聞こえてきた。
この夜会に招待されているのは全て貴族である。貴族であれば今年初級学校に入学した、殿下と呼ばれる人物が一体誰であるのか……知らない者が居たならば、それは貴族ではない。
暗闇の中、遠ざかっていく教師の足音が聞こえなくなると、そこには静寂があるだけ。時々どっと人が騒いだような音が小さく聞こえてくるが、先ほどの映像と鑑みて競技中の盛り上がった観客の出す声援ではないかと推測できる、その音以外殿下の小さくついたため息が一つ、見ている我々の耳に残った。
画面は競技場の中に変わる、ここに移動する間に何かあったらしいが殿下から詳しく教えていただけなかった。また、今回のことには関係がないことのようなのでそれ以上殿下にお聞きすることなく、機会があったら教えていただこうと思っている。
競技場の中からの殿下の視線は、殿下のために準備されたと思われる的の異様さと、観客席の中央でまるで国王陛下を彷彿とされるような態度で睥睨している初級学校の学校長を映し出している。
「な……なんなのだ……こ……」
例の一団あたりから声が上がったが、取り囲んでいる我々の手の物から物理的に黙らされたようだ。まだ『じょうえいかい』は続くのだから、静かに見ていてもらわないといけない、ここからがある意味陛下たちにも見ていただきたいクライマックスでもあるのだから。
この余興の主役ともいえる初級学校の校長や教師たちも、訳も分からず椅子に座らされている。もちろん彼らには気づかれないように巧に誘導し、纏めて断罪できるようにすぐ近くの席に固めて座らせて、その周りはこちらの手の物で囲み逃げられないようにした。
招待された者全てが座るだけの椅子をこの場に持ち込むことはできないので、今回のことに関係のない比較的爵位の低い方々には立ち見になるのだが許していただきたいものだ。
この世界で初めてだろうその場を切り取った臨場感ある『ろくがえいぞう』というものが見られるのだから、今は納得できない顔で立っている方々も、これを見た後はそのような気持ちもなくなるだろう。
さすがに両陛下がいらっしゃるこの場で、大声で文句を言いだすものはなく、小さなざわめきのまま、『じょうえいかい』なるものを始めることにした。
小役人の
「静粛に願います。これからもこの会場の明かりをすべて落とします。真っ暗になりますがお騒ぎになられませんように、安全は両陛下もいらっしゃるこの場、近衛第一部隊が承っておりますので安心してください。それでは皆様しばしの間ご静粛に願います。……。暗転!」
その声と同時に、協力者たちがこの広間の魔石により光っていたシャンデリア等の明かりをすべて落とす。
私は間髪入れずに、ビデオカメラの『ろくがさいせい』と言うボタンを起動させる。
真っ暗になった一瞬後、壁に張られた白い布に、学校施設の一つである競技場が映し出された。
「「「おぉ~……」」」
初めは何が起こったのかわからなかった観客たる貴族たちも、目の前に映し出されたそのままの競技場に驚いた様子で声が出る。
競技場の中では子供たちが行った初級学校一年生の実技試験の様子がそのまま映し出されている。色も音声もついたもので、競技場の観客席から見ているのを彷彿とさせる映像だ。
初めに流したこの映像は、やけに競技場の観客席の上の方からの物で、競技場の全体を見ることはできるが、実技試験を行っている個人を特定するには、知っている人物以外は少し難しい距離の映像である。
音声は絞ったので、この室内には流れないようにしている、撮影者のリフルによれば、どこの貴族の従者かわからないが、すぐ近くに座っていた者たちが、自分の主についての悪口ばかりずっと話していたというのだ。
今回のことに関係のないその悪口を会場に流すことは、また違うところで不幸になるものを出すかもしれないということで、リフルのとった映像に関しては音を絞ることにした。
何が映し出されているのかを理解させたところで、私は映し出す映像を切り替えた。
今度の物は殿下が作られた魔導具の『びでおかめら』で写し取ったものとは若干違う方法で写し取られたもの。
殿下曰く「念写」というものの応用で、殿下が見て記憶されたそのままを、この『びでおかめら』の映像が残される魔石と同じものに移し、焼き付けたものらしい。その説明の意味によくわからないものがあるが、とにかく殿下の体験されたその場のそのままを写し取ったものであると考えればいいのだそうだ。
それは、従者であるリフルから離されたところから始まった。
殿下目線であるため、画像を見ている方々には誰の視線であるかはまだ分からない。
今度の物には音声付きだ。
慇懃な態度の教師の一人に先導されて、なぜか地下の粗末な部屋に閉じ込められるところが映し出される。
「うげっ!」
席のあの一団の中から、悲鳴に近い声が上がった。
自分の姿が映し出されたことに驚いたのだろう。またそのことによってこの映し出されている者が一体誰の目線なのかもわかったのかもしれない。
真っ暗な中一人閉じ込められる人物、視線の低さから子供であることが見ている誰からもわかったのかもしれない、小さなざわめきが室内に広がる。
そして、閉じ込めた男が最後に放った言葉から、この人物が誰であるかこの部屋のすべての人間に理解ができたはずだ。
「ここで順番が来るまで、一人ゆっくりとお待ちください……殿下……」
この言葉が室内に流れた瞬間、ご婦人たちの小さな悲鳴が所かしこから聞こえてきた。
この夜会に招待されているのは全て貴族である。貴族であれば今年初級学校に入学した、殿下と呼ばれる人物が一体誰であるのか……知らない者が居たならば、それは貴族ではない。
暗闇の中、遠ざかっていく教師の足音が聞こえなくなると、そこには静寂があるだけ。時々どっと人が騒いだような音が小さく聞こえてくるが、先ほどの映像と鑑みて競技中の盛り上がった観客の出す声援ではないかと推測できる、その音以外殿下の小さくついたため息が一つ、見ている我々の耳に残った。
画面は競技場の中に変わる、ここに移動する間に何かあったらしいが殿下から詳しく教えていただけなかった。また、今回のことには関係がないことのようなのでそれ以上殿下にお聞きすることなく、機会があったら教えていただこうと思っている。
競技場の中からの殿下の視線は、殿下のために準備されたと思われる的の異様さと、観客席の中央でまるで国王陛下を彷彿とされるような態度で睥睨している初級学校の学校長を映し出している。
「な……なんなのだ……こ……」
例の一団あたりから声が上がったが、取り囲んでいる我々の手の物から物理的に黙らされたようだ。まだ『じょうえいかい』は続くのだから、静かに見ていてもらわないといけない、ここからがある意味陛下たちにも見ていただきたいクライマックスでもあるのだから。
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(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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