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マーシュ・スリート  19 王妃主催の夜会

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 殿下のおかげとも言える、初級学校の現校長一派の粛清は、長期休暇に入るとともに行うこととした。

 これからのことに殿下のお手を煩わすことがあってはならない。

 初級学校に通うぐらいの年齢の子息子女のこの長期休暇の過ごし方としては、この王都のあたりには余り雪が降ることがないので実感がないが、雪が多く降る領地を持つ貴族たちは、雪が積もる前に領地に戻る者がほとんどだ。

 領地を持たない法衣貴族はこの王都に残る者と、懐に余裕がある貴族はそれぞれお気に入りの避寒地に向かう者とに分かれる。

 子息たちの成績が芳しくなかった家の者は、王都にいたほうが専門の教師を雇いやすいのでその判治ではないが、比較的この王都が静かになることは毎年のこの時期の風景である。

 殿下にもこの王都を離れ、避寒地に行くも、豪雪地に向かうも体験していただきたいのはやまやまであるが、殿下の安全を保つためには、この離宮に立てこもる、つまり今までと変わらない生活を送っていただくしかないところが辛いところである。

 物分かりがよすぎる殿下は何の不満も述べられることなく、毎日淡々とお過ごしになられている。

 行動を共にすることの多いリフルも、何かしらの新しいことを始めようと考えているようだが、そう毎日何かしらを思いつくことも難しいことだろう。

 私の務めとしては、とにかくこの休みの間に殿下が学校において心煩わせることなく勉学にいそしめる環境を整えること。

 殿下のおかげでとてもやりやすくなった、とりあえずの病変を取り除く手術を早速行うこととする。

 雪の中に逃げ込まれると面倒くさいことに成るからな。

 殿下のお心に影をさした輩は殆どが法衣貴族のそれも当主にはなりえないような立場であるから教師になったような者ばかり。

 何処かに逃げ込もうと思ってもそうはできないような者ばかりなので時間的余裕はあるが、この様な出し物は観客が多いほど効果が上がるものだ。

 その観客の中には王族の方々もいてもらった方がやりがいもあるというもの……。

 今年の避寒地は、さてどの領地になっていただろうか?

 毎年王を自分の領地に迎えることができるかは、その家の力の見せ所でもああるので綱引きのように利権の引っ張り合いになるのであるが、雪が多い地域がその勝利者の領地でなければ、王族の移動までにはまだ幾分か時間があり、王都で夜会が何回か催されることになるだろう。

 

 今回の標的たちは自分達の行状について外部の人間に知られている事を知らない。

 良くも悪くも学校の中での出来事は外部に漏れにくく、その中での生活は教師たちでも学生気分が抜けないまま、生ぬるい温室の中で咲いたあだ花たちだ。

 学校が長期休暇に入ってすぐに、王家主催の中規模の夜会が開かれることになった。

 今まで正式な王室主催の夜会には殆ど招待されることのない身分の者たち、王族が参加するという夜会の招待状を送ったら、何の疑いもなく参加する旨を返信してきた。

 もちろん、今回のことで殿下の力を王族の面々にもさり気なく知らせる意味も持つ夜会にすることは決定だ。

 夜会では身分の低い者から会場に入場する決まりだ。

 今回の標的は身分の低い者たちが多いので当然入場時間は早く、王族は最後に入場するのでそれまでの時差は結構ある。

 まず第一に行う任務は、奴らに自分たちの行いが十分周りの人々に気付かれていることを知らせることなく王族が登場するまでこの場に留めること。

 今回行われるのは夜会の為成人年齢に達していない者の参加はないが、初級学校に子供を通わせている保護者の出席はそれなりの数になっている、もちろんそのあたりの工作もぬかりなく行った。

 この時期の夜会はそれなりの数行われているが、中規模とはいえ王家主催の夜会は格の上では段違いで、それから招待状が来ることは、上位貴族以外にとってはこの上もなく名誉な事、何故普段呼ばれることがない自分がその夜会に招待されたのか深く考えることなく出席する奴らの面の皮の厚さに、こちらが企んだこととはいえ苦笑いしか浮かばない。

 王室の夜会を担当するのはその夜会を誰が主催するかで決まっているものだ。今回は正式な国家行事として行われるデビュタントを兼ねる秋の夜会や、雪解けてこれからの豊穣を願う春の夜会とは違い、王ではなく王妃や王太子が主催として行う夜会だ。

 今上陛下には成人の王子殿下はまだいらっしゃらない為、今回の主催は王妃殿下ということになるが、王妃殿下は陛下と仲が良くないことを隠しもしない吾人であり、自分で主催する茶会は別として、陛下と同行する催し物はことごとくお嫌なようで、年に二回の夜会以外にお出になる夜会は陛下の出席されない物に限られる。

 しかし、今回の夜会は王妃殿下の主催、さすがに王妃殿下が顔を出さないわけにはいかない。

 普段であればこのような夜会には国王の出席はない。国内において国王と王妃の仲の良くないことは周知の事実であるからだ。

 年齢がある程度上の者であれば、今上陛下のやらかしは誰もが知っており、その過程の中での王妃との婚姻がどのようなものであるかも知っているからだ。

 この王国の王権の強さがあってこそ、現在のこの姿が許されているのだろう。

 であるから、今回行われる夜会に、国王夫妻が出席するということは非常に稀な事であることは、上位貴族であれば尚更感じている事であった。

 
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