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チュート殿下 75 結界を消すことまではしないけどね!

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 水の弾丸がカンカンと中央の的に当たり音を立てるまでは、的の周りを濡らすだけに見えた俺の魔法のことを余裕で見ていた校長たちも、俺が生み出し続ける水の量の多さに気付き次第にその顔からいやらしい笑みが消えていった。

 それから、カンカンと音がし始めたから、何が起こったかわかると今度は顔色が悪くなってきた。

 魔力操作で水を圧縮するわけだが、水が固形になれば普通は氷に変わる。

 氷も十分硬いものであるが、ただの氷であればこの的に使われている特殊な金属に傷をつけることも難しいだろう。

 俺が魔力操作で圧縮している水は、あくまでも固めているだけで固形にしているわけではない、つまり氷になっているわけではない。どちらかといえば氷とはその形態が逆の物。

 その証拠に、カーンと大きな音を立ててはぜたように見えるその場所に、氷が砕け散った後もなく、新たな水濡れもない。

 俺が圧縮した水は、凍ったわけではなく圧力がかけられて高温になっているのだ。マグマのように熱く……。

 だから、的に当たった瞬間に、大きくない水の弾丸は蒸発して何も後には残らない。

 水の量を増やしながら、圧力も増し、弾丸の持つ力を大きくしていく。

 そして射線が校長たちの座っている場所と重なった時、的を貫通させてわざと校長の目の前の結界まで届く弾丸に調節をして水弾を放ったのだ。

 もちろん一発ではなく何発も。

 的の中心に穿たれた穴に、寸分の違いなく次の水弾を通して、観覧席前の結界に当てる。

 結界に当たったらそこで蒸発するように調節して。

 競技場の結界はそのフィールド部分で行われる競技内容によってその強度を変える仕組みになっているようで、今回のような子供が行う初級の魔法から守るための結界は、結界を張る魔力量を抑えるためにも、一番緩い設定になっていることだろうから、このような紙装甲を破るのはたやすいのだが……。当たったら魔力を吸収する結界ぐらいケチらないで張ればいいのに……。

 今回は破るまでは威力を挙げないようにしようかと思っていたのだが、初めは結界までに届いた何かに驚いていた校長たちが、結局結界に阻まれている俺の魔法に、安心したような馬鹿にしたような表情を浮かべ周囲の者たちと談笑し始めたのを見て、ちょっとキレた。

 あざけりを含んだような校長の視線がこちらに向いたとき、わざと口元に笑みを浮かべてその目を見つめたままこれまでの水弾よりも五割り増しぐらいで魔力を込めてみた。

 今までの水弾よりも大きくなっていたためか、的にできた穴を通す時にゴンという低い音がしたすぐ後に、結界にピシリとひびが入った。

 さすがに一回では破れなかったか、壊しても良かったけど……。

 今回の結界は鑑定したところ一ヶ所壊されると全体の結界が一度リセットされるようなショボい使用であるようなので、騒ぎが大きくなることを望まない俺としては、ひびだけにとどめておくことにした。

 競技場で試技を行っているのはほぼ俺一人なのだが、まだ競技場内に生徒が残っているし、全ての観覧者がここを見ているわけでもないから、いきなり全体の結界がなくなって混乱を起こすことも本意ではない。

 校長の周辺あそこらへんに思い知らせればいいだけだしね。

 俺の水弾の威力に驚いて固まっていたここの担当あちら側の教師は、さすがに結界にひびが入ったのがわかった瞬間、俺に試験終了の声をかけてきた。

 まぁ今回はこの辺で……。

 最後にもう一度校長に視線を向けると、こっちの世界にはないからわからないかもしれないが、指で拳銃の形を作って、

「バァン!」

 といいながら、水弾を打ってみた。

 ひびが入った結界が破れてしまってはいけないので、優し目にね。

 だけど、最後だし的に当てないで直接結界に当たる様に撃ったから、威力が小さい割に『ドガン!』と結構大きな音を出して、結界を揺らしたからおれのこれまでのちょっとした意趣返しとしては良かったかもしれない。

 試験が終了したので、今回の試験に駆り出された2年生が試験に使われた的を回収しにこの場所にもやって来た。

 そして、俺の使用した的を片付けようとして、その的が初級学校では使うようなものではないことと、的のど真ん中に穴が開いていることに気付いて、不正の張本人の片棒を担いでいるこの場の担当教師に、的のことについて質問している声が聞こえてきた。

 2年生は皆作業用のツナギのような服装をして、深く帽子をかぶっていたので誰であるかわからなかったのだが、その声に聞き覚えがあったので、思わず確かめるために鑑定を使用してしまった。

 作業員としてここに来ていたのは、生徒会長のクリフ・マークィス・ゲイル侯爵子息だった。

 鑑定を使った瞬間、一瞬会長の体が固まったように見えたので、もしかしたら気付かれたのかもしれない、俺よりはレベルが低いので鑑定が失敗することは無かったが、魔力操作が得意で魔力に対して繊細な感覚を持つ者には、鑑定のような魔法は、使われた時に気が付くこともあるとマーシュから教えてもらったことを思い出した。

 俺は素知らぬ顔で生徒の控え七に向かうことにする、いくらあいつらが厚顔無恥であっても、これからまた俺を地下室に監禁することは無いだろう。

 今回の試験は実技試験においては、若干お祭り要素が強い、各貴族家の能力の張り合い競争の色が視られるようなものだから、総評などの堅苦しい挨拶もなしに、このままの流れで見に来た家族と帰るのだそうだ。

 俺は競技場から離れる時に、もう一度振り仰ぐ様に校長たちの座っていたあたりを見回した。

 試験の試技がすべて終わったので、観覧席との境にめぐらされていた結界はすでに消されていた。

 結界が消される直前まで残っていた、表面に浮かんでいたひび割れを、魔法担当の教師たちが集まって指差し確認する姿は、俺から見ると滑稽で、今回使われていた紙装甲の結界に穴御あけることだって簡単であるのにひびを入れるくらいで何を騒いでいるのだろう。

 マーシュが昨今の教師の質について憂いていたのは、俺が学校入学することを決めたそのころだったか。

 
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