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ブラオ・マークィス・ゲイル 1

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 我がゲイル侯爵家は代々宰相を務め、このアミュレット王国の中でも重鎮といえる地位を築いてきた。

 私は、そのことを誇りに思い、日々宰相職という激務に耐えてきたとも言える。

 城に勤める官吏たちは、私のことを「冷徹な青の宰相」とカゲでヒナタで言われていることは知っている。

 この世の中、平和が比較的長く続いている現在、緩み切った空気の中で、誰かが悪者にならないとこの王国は益々腐っていくだけである。

 厳しくするのが頂点つまり国王であった場合、恐怖政治にとらわれてしまうかもしれず、健全な王国運営と言えるものではなくなる。

 そこで、厳しくし嫌われ者になるのは、二番目以降に居るものが好ましいということになる。

 身分のことで言えば、この国で国王陛下の次にあたるのは言うまでもなく王妃殿下であるが、妃殿下が国政に口を出すことは好まれない為、政治的な立場での二番目つまり宰相が、厳しい嫌われ者になることが、国を円滑に進めていく上で最も好ましいのだ。

 私も、私の父も、祖父も、そのようにしてこの平和なアミュレット王国を発展させてきた。

 嫌われ者になることに、子供の頃から抵抗を感じなかった、といえば嘘になるが、現在は国王陛下が嫌われることなく、国を営んでいくためにも、必要な事として納得をしている。

 こんな嫌われ者の私も、普通の一人の人間であるわけで、それなりに大切なものも持っていたりする。

 それは、子供のころは父であり母であり、そして、幼馴染であったり……。

 現在の私にとっては、子供のころの思いも当然大切なものであるが、大人になって得ることができた家族、つまり妻や子供たちは私の大切なモノの、筆頭であると言い切ることができる。

 子供たちの大切さに上下をつけることは難しいし、またしたくもないことだが、世間一般の父親と同じように、息子には厳しく、娘には甘く、となってしまっている事は十分自覚している。

 顔を合わす時間が、ほとんど取れないことから、会えば息子には小言という形をとった期待を、娘には物という形をとった構えぬことへの穴埋めを、することしかできなかったこの10年余。

 つまり、子供の教育に関しては妻任せというか、家令任せであったことは確かであったが、私自身もそうであったし、息子に関して言えば、全く間違いはなかったものと考えている。

 10歳における精霊契約においても、子供たちは力の強さに差はあれど、我が一族の精霊とも言える水属性の精霊様と契約が成せたようで、青を纏うことでより一層我が息子は私の子供のころとそっくりになったと、家令が喜んでいたことを思い出す。

 そんな息子は初級学校においても、1年目はヴォーテックス殿の右腕として幼馴染として友として、恙なくゲイル侯爵家の嫡子としてその力を発揮し、2年目にはヴォーテックス殿の後を継ぐ様に生徒会長となった。

 この2年目を迎えるにあたって陛下には、息子には将来自身が仕える事となる方、誰もが口には出さないが誰もが事実として知っている、陛下のご落胤である伯爵子息以外に、誰もがはっきりと口にして良い立場にお生まれであったのに、誰もがまったく口にしない、または全くその存在すら認識されていなかったお方がいることを初めて伝えた。

 息子は少し混乱はしていたが、新たなるお方が、その存在すら排除されるような扱いを受けていた、そのことを彼なりに推測し、その事実だけを受け止めて、立場の複雑なその方を、表向きは王族としての扱いをして接していかなければいけないことを理解して、我々の意を汲んで生徒会長として生徒会活動を行っていくことを決意したようだ。

 息子に与えてやれる、殿下の情報はほとんど持ち合わせていないことに気が付いたとき、「もしかしたら……」という思いが浮かんだことは否めない。

 そのようなことがあってから暫く、初級学校において1年生が学校生活に慣れてきたと思われる入学からふた月ほど過ぎた頃、珍しく息子から私に会いたいと言っている旨、家令から王城内の私の執務室に連絡が来た。

 折しもその日は、ひと月に一回の騎士団長との情報を共有する日であった。

 以前はほぼ毎日のように顔を合わせていた我等であったが、お互いに責任がある立場になってからは月に一度か二度会えればいいほどになっていた。

 家令からの伝言が彼にも聞こえていたのだろう、昔から私の息子のことも、自分の子供のように思ってくれているからか、息子の名前が聞こえて何事かと思ったようだ。

「クリフが会いたいと言ってくるなど、よほどのことがあるのだろう、オレのことはいいから早く帰ってやれ」

 事務的なことは部下にやってもらうことにして、騎士団として必要な事の調整は残った彼がしてくれることとなった。

「そう言えば……うちの息子が同じクラスの殿下について、変なこと言っていたなぁ」

 殿下といえばあの方のことか?私は帰り支度の手を止めて、眉間にしわを寄せながら、体に見合わない書類を睨みつけるようにして読んでいる、彼の方に体を向けた。

「殿下はどこの国の殿下なのですか?光の精霊に非常に愛されている容姿をされているが、婚姻というには我が国には姫がいらっしゃいませんから、どのように我が国に迎えられるのかと、噂になっています」

 などとまじめな顔をして言うのだ、と言って書類から顔を上げて、私の顔を見てくる。

 
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