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チュート殿下 52 控室での顔合せ

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 素早く気配を察知するマーシュが、不穏な雰囲気を醸し出している輩が近づいてくる前に、さり気なく行く通路を変える。

 この辺りは、城の中心部に近いので、警備の関係もあり通路のつくりも複雑になっている。

 マーシュは懐中時計で時間を確かめながら、すり抜けるように通路を選択し、舞踏会場へ向かって行く。

 国王が開始の挨拶をするまでは、楽団が音楽を演奏することはないとのことで、たくさんの人間が醸し出す雑多なざわめきの音だけが、会場を流れて行っているようだ。

 すでにほとんどの参加者は舞踏会場に入場が終わっているのだろう。いつもの夜会と違うのは主役が子供たちであることで、いつもは聞かれることのない甲高い子供の声が聞こえてきたりしている。

 いくつかある個室用の扉が並ぶ廊下の先に、一際大きくて、装飾の派手な扉がある。

 あれが目的のところなのだろう、扉の両脇に近衛騎士も立っている。

 もう一度懐中時計で時間を確認したマーシュが、扉に近づくのに殊更速度を遅くした。

 なるたけ、王様たちと一つの狭い部屋にいる時間を短くしてくれているのだと思うと、感謝の気持ちに堪えない。

 マーシュは、この控室まで一緒に入ってくれるようだ。

 ここには陛下と王妃様以外には宰相と騎士団長もいるらしい。

 ここであまり時間稼ぎもできない、外に立っていた騎士の一人が中に合図を送ったのか、扉が開いて王様付きの侍従が出てきたからである。

 声は出さずに顎を引くことで、入室を促してくる。

 侍従のあまりの態度に、俺の後ろにいたはずのリフルが、今にもその侍従に飛びかかる勢いで俺の隣にいる。

 マーシュは、勿論、その侍従を知っている様子だが、あまり良い感情を抱いていないのはその無表情からうかがえた。

 扉の横にいた騎士たちも、この侍従の態度には少々面食らったようで、この侍従を凝視している。

 王様の侍従がこんな態度をとるのなら、その主人の底の浅さが知れるというものだ。そんなことも気が付かないくらい、王の侍従にとって俺はいらない人物ってことかな?こんな職業意識の薄い奴にどのように思われていても、何とも思わないけど。

 控室といえども王が使うところだから、それなりの広さがあり、装飾も豪奢である。

 正装の時は王様たちといえども立って時間が来るのを待つのだなぁ、なんて、部屋に入って最初に思ったこと。

 顔を知っているような知らないような人がたくさん居るのは、最近のお散歩で直接顔を合わさないまでも、知っている人が多いのがその原因。

 だから直接顔を合わせた俺の姿に驚いているのはあちらにいる人ばかりなり、なのだ。

 10歳の精霊の選別で、選ばれた立場にいるいらない息子のことをどう見たのだろう。

 表情がほぼ変わっていないが、顔色が蒼くなっていることで衝撃の大きさをはかることができる。

 自分よりずっと強い上位の精霊と契約できた、俺のことを初めて目の当たりにして、コンプレックスを刺激しちゃったかな?

 俺は今までにされた数々の仕打ちを決して忘れないから。俺の周りの人々に対して行われているすべてのことに対して、王様が責任を取ってくれとまで思っていないけど、大きな原因はあなたなのだから、マーシュには悪いけど、あなたとは相いれないと思うんだよね。

 それは王妃様もおんなじで、俺を見て何を思ったのか、してやったりという視線を王様に送っているけど、決して俺は王妃様の駒でもないからね。

 生んだっきりで捨てといて、今更母親面してきたら……俺、王様に対するよりも酷いことしちゃうかもしれないなぁ。

  俺が入室するまでは、それなりに会話が交わされていた室内は、俺の姿が見えた瞬間全くの無言になったわけだが、誰もとりなしたりしないものなの?。

 しょうがないので自分から動くことにする。

 俺と王様たちとの間にいる人たちが、俺が動き出しても全く動いてくれないので、森の中の立木を避けるように間を縫って王様たちの前に。

 立ちんぼの使用人や、陛下の側近といわれる人々は、皆揃ったように俺が横をすり抜ける時にビクッと体を揺らすのが面白かった。

『何ビビッてんの!』

 心の中で悪態をつくと、キールの笑い声が聞こえた。

 俺の存在、その根本の力の強さに本能的に生まれた恐れの感情から来たものだって。

 そんな恐れを抱くような存在に、今まで己がしてきたことに恐れを抱けよな。

 俺は腹の底から湧き上がってくる、怒りなのか悲しみなのかよくわからない感情を抑え込みながら、王様たちの前に立った。

 後から聞くと、この時に抑えきれなかった何かは、魔力の波動のようなものとしてあふれ出ていたらしく、それは威圧として放たれるものと酷似していたらしい。

 その時の俺はそのことに全く気付いていなかったが、やけに王様たちの顔色が悪くなっていく事は不思議に感じたのだった。

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