60 / 186
マーシュ・スリート 15 再びの襲撃‼
しおりを挟む
神殿にいる下級貴族や平民出身の若い神官たちに根回しをしていたこともあり、この神殿の裏口にはほとんど人が居ないが、儀式の時間になると尚更神殿の裏側には人気が全くなくなった。
念には念を入れて、馬車には隠蔽と結界を重ねて掛けている。
普段静謐なこの神殿も、今日はどこか落ち着かない雰囲気が満ちており、儀式が終了し悲喜交交な状況が繰り広げられているだろう今、届いてこないはずのこの神殿の裏側まで、その喧騒が届いているような気がした。
「もうそろそろ、殿下がお出ましになってもよいころあいだが……」
一人きりの馬車に自分の声が漏れ聞こえて、独り言をつぶやいていたことに気が付いた。
いつもならば決して起こさないことに、自分も結構緊張している事がわかり、深く呼吸をして外の様子に意識を集中させる。
すぐ近くの扉が、ゆっくりと開かれた。
案内を頼んでいた若い神官の顔が扉の隙間から覗かれる。
やけに顔色が悪いことに、何か不測の事態が起きたのかと身構えるが、続いて殿下の顔が覗かれたのを見て、一番最悪な事態が起こったわけではないと、一つ大きく息をついた。
……殿下の様子がおかしい?いや……色か?
御者に合図を送り裏口のすぐ近くまで馬車を寄せて、扉を開けて殿下をすぐに受け入れられるように準備する。
それにしても、案内役の神官の疲れ果てたような様子はどうしたことだろう?
扉から一歩出てこられた殿下は、扉の前で一度後ろを振り返り案内役の神官に何か声をかけられた。
一言何か答えたその若い神官は、深く頭を下げると、この馬車から見えなくなるまで頭を上げることはなかった。
早速、馬車に乗り込まれた殿下に着替えをしていただく。この馬車も、離宮も守りの硬さには自信があるが、人の目はどこにあるかわからない、このような目立つ格好で殿下と認識されることは避けるためにも着替えていただく。
暗い馬車の中でも、殿下の纏う色の変化に気が付いてしまうほど、金色の髪色の輝きが増している。
魔力量がいきなり増えるということではなく、契約をした精霊の格が上がったからか?
その時、殿下のすぐ控えているであろう『キール』からか、直接頭に言葉が降ってきた。
『殿下の瞳を見てみよ』
殿下にはそれが聞こえている様子はなく、キールが態々私にだけ伝えてくれた言葉だとわかった。
薄暗い馬車の中では、とても注意を払はなければ気が付くことはできなかっただろう。
しかし、気が付いてしまえば、驚かずにはいられない変化が、殿下のその瞳に起きていたのだ。
今までの常識は殿下に当てはまらないことは覚悟をしていたが、目の当たりにすると己の覚悟の程を再認識させられる。
これ以上何もないことを、思わず願ってしまう自分の小ささに気が付いてしまう……。
私は自分の鼓動の速さを気づかれないように平静を装う。
そして、我々と変わらない服装に着替えていただいた殿下に、薄いストールを被っていただく。
元々離宮について馬車から降りられた後に、その途中誰にも見られないようにする必要があることも考えてはいたが、一度殿下に会ったことがあるものには直ぐに分かってしまうかもしれない変化に、頭からすっぽりとストールを被って隠していただくことに決めた。
殿下は、ご自身の変化に気が付いていらっしゃらないのか、ストールを被るのも不本意という表情を浮かべられている。
中央神殿から王城内の離宮まではごく近い。
神殿を出てからつけてくるような気配は感じられていた。離宮の裏門の近くには隠し切れない殺気も幾つか。
裏門に入るときにはどうしても速度を落とす必要があるが、ここは王城内、見ているだけで手を出すことはできないだろう。
様々な思惑を持つものが、殿下の存在を、その価値を勝手にしようとしている。
用心することに手を抜いているわけではないが、私は少しこの平穏な日常に浸りきっていたのかもしれない。
ドガン‼
攻撃魔法を、王城内で受けることを想定していなかったのだから!
この王城内ではどのような攻撃魔法も使用することができない。
しかし、どのような事にも例外があるのだ。特にこの国のような専制国家であれば……。
「……モイヒェルメルダー……王の手の者か……」
思わず言葉が漏れてしまったようだ。殿下には聞かせたくなかったのに……。
ドガン!ドゴン!
火属性の攻撃魔法。ファイアーアローあたりか。さほど強くはない。
この馬車にも全く影響はない。うまくいけば、御者を落としてこの馬車を暴走させるか、奪うかしたいのだろうが、私が育てた馬と御者。このくらいのしょぼい攻撃ではどのようなこともない。
馬車は何事もなかったように離宮に入る。この中は消音魔法がかかっているから中に入れば静かなものである。
広くはない離宮、車寄せにはほどなく到着する。
普段は出迎えなどしない少数精鋭の使用人たちが、特別な日である今日は表玄関の両脇に並んで待っていた。
疑うことのない使用人たちにも自身の姿を見せることなく、ストールを巻いて出ていくことに不満げではあるが、殿下には何も言わずに室内の殿下の居間までその姿で移動することを、半ば強制して向かってもらった。
念には念を入れて、馬車には隠蔽と結界を重ねて掛けている。
普段静謐なこの神殿も、今日はどこか落ち着かない雰囲気が満ちており、儀式が終了し悲喜交交な状況が繰り広げられているだろう今、届いてこないはずのこの神殿の裏側まで、その喧騒が届いているような気がした。
「もうそろそろ、殿下がお出ましになってもよいころあいだが……」
一人きりの馬車に自分の声が漏れ聞こえて、独り言をつぶやいていたことに気が付いた。
いつもならば決して起こさないことに、自分も結構緊張している事がわかり、深く呼吸をして外の様子に意識を集中させる。
すぐ近くの扉が、ゆっくりと開かれた。
案内を頼んでいた若い神官の顔が扉の隙間から覗かれる。
やけに顔色が悪いことに、何か不測の事態が起きたのかと身構えるが、続いて殿下の顔が覗かれたのを見て、一番最悪な事態が起こったわけではないと、一つ大きく息をついた。
……殿下の様子がおかしい?いや……色か?
御者に合図を送り裏口のすぐ近くまで馬車を寄せて、扉を開けて殿下をすぐに受け入れられるように準備する。
それにしても、案内役の神官の疲れ果てたような様子はどうしたことだろう?
扉から一歩出てこられた殿下は、扉の前で一度後ろを振り返り案内役の神官に何か声をかけられた。
一言何か答えたその若い神官は、深く頭を下げると、この馬車から見えなくなるまで頭を上げることはなかった。
早速、馬車に乗り込まれた殿下に着替えをしていただく。この馬車も、離宮も守りの硬さには自信があるが、人の目はどこにあるかわからない、このような目立つ格好で殿下と認識されることは避けるためにも着替えていただく。
暗い馬車の中でも、殿下の纏う色の変化に気が付いてしまうほど、金色の髪色の輝きが増している。
魔力量がいきなり増えるということではなく、契約をした精霊の格が上がったからか?
その時、殿下のすぐ控えているであろう『キール』からか、直接頭に言葉が降ってきた。
『殿下の瞳を見てみよ』
殿下にはそれが聞こえている様子はなく、キールが態々私にだけ伝えてくれた言葉だとわかった。
薄暗い馬車の中では、とても注意を払はなければ気が付くことはできなかっただろう。
しかし、気が付いてしまえば、驚かずにはいられない変化が、殿下のその瞳に起きていたのだ。
今までの常識は殿下に当てはまらないことは覚悟をしていたが、目の当たりにすると己の覚悟の程を再認識させられる。
これ以上何もないことを、思わず願ってしまう自分の小ささに気が付いてしまう……。
私は自分の鼓動の速さを気づかれないように平静を装う。
そして、我々と変わらない服装に着替えていただいた殿下に、薄いストールを被っていただく。
元々離宮について馬車から降りられた後に、その途中誰にも見られないようにする必要があることも考えてはいたが、一度殿下に会ったことがあるものには直ぐに分かってしまうかもしれない変化に、頭からすっぽりとストールを被って隠していただくことに決めた。
殿下は、ご自身の変化に気が付いていらっしゃらないのか、ストールを被るのも不本意という表情を浮かべられている。
中央神殿から王城内の離宮まではごく近い。
神殿を出てからつけてくるような気配は感じられていた。離宮の裏門の近くには隠し切れない殺気も幾つか。
裏門に入るときにはどうしても速度を落とす必要があるが、ここは王城内、見ているだけで手を出すことはできないだろう。
様々な思惑を持つものが、殿下の存在を、その価値を勝手にしようとしている。
用心することに手を抜いているわけではないが、私は少しこの平穏な日常に浸りきっていたのかもしれない。
ドガン‼
攻撃魔法を、王城内で受けることを想定していなかったのだから!
この王城内ではどのような攻撃魔法も使用することができない。
しかし、どのような事にも例外があるのだ。特にこの国のような専制国家であれば……。
「……モイヒェルメルダー……王の手の者か……」
思わず言葉が漏れてしまったようだ。殿下には聞かせたくなかったのに……。
ドガン!ドゴン!
火属性の攻撃魔法。ファイアーアローあたりか。さほど強くはない。
この馬車にも全く影響はない。うまくいけば、御者を落としてこの馬車を暴走させるか、奪うかしたいのだろうが、私が育てた馬と御者。このくらいのしょぼい攻撃ではどのようなこともない。
馬車は何事もなかったように離宮に入る。この中は消音魔法がかかっているから中に入れば静かなものである。
広くはない離宮、車寄せにはほどなく到着する。
普段は出迎えなどしない少数精鋭の使用人たちが、特別な日である今日は表玄関の両脇に並んで待っていた。
疑うことのない使用人たちにも自身の姿を見せることなく、ストールを巻いて出ていくことに不満げではあるが、殿下には何も言わずに室内の殿下の居間までその姿で移動することを、半ば強制して向かってもらった。
12
お気に入りに追加
1,710
あなたにおすすめの小説
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
神スキル『アイテム使用』で異世界を自由に過ごします
雪月花
ファンタジー
【書籍化決定!】
【旧題:アイテムを使用するだけのスキルで追い出されたけれど実はチートスキルと判明したので自由に過ごします】から【新タイトル:神スキル『アイテム使用』で異世界を自由に過ごします】となり、アルファポリス様より2020年3月19日より発売中!
【あらすじ】
異世界に転移したオレ、安代優樹は『アイテムを使用する』というクソの役にも立たないスキルを持ってしまう。そのため王様から捨てられてしまうのだが……実はこのスキル、とんでもないチートだった!?
『アイテムを使用する』
それだけのスキルでオレはメタルスライムを倒し、黒竜を倒し、あげく魔王を倒して勇者や魔王の称号を手に入れたり!?
とりあえず気づくとアイテム使ってるだけで最強になっていたのであとは自由気まま好きにこの異世界を堪能します。
あ、王様からなんか戻ってきてくれとかお願いが来てるけど、そこはまあ気分次第で自由気ままに行きたいと思いますんでよろしく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる