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チュート殿下 34 見世物になるのは決定事項⁉ 

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「離宮を出るまでは、これかぶる必要ないですからね」
 
 貫頭衣のような聖服の下には、いつもの恰好の若干上等バージョン。

 白の開襟シャツに白のトラウザーズ、どちらも裾部分に金色の糸で刺繍が入っている。この世界、まだ10歳の子供だったら、半ズボンで過ごすことが多いのだが、俺は肌があまり強くないらしく、普段から上下とも長袖長ズボンなのだ。

 肩から裾まで一つ聖服を伸ばすように撫でて、リフルは俺の髪をしっかりと梳り、背中のフードをパタパタと揺らすと、マーシュを呼びに衣裳部屋から出ていった。

 壁にかけられている俺よりも大きな鏡に、ゲームで見た当て馬君のミニサイズが写っている。

 横を見ると鏡に映った俺の姿を見て笑っている、キールがいる。

 正面を見ると、鏡に映っているのは俺一人だけ。

 キールはなぜか全く俺と同じ服装をして立っている。身長は俺よりも頭半分大きい。だから、若干見下ろされる……。

「俺しか見ることができないのに、なんでそんな恰好をしているんだよ」

 近くに誰もいないことは確認済。

 キールの姿は俺が作ったもの、俺の心の中の形が実体化したものと、キール自身が説明してくれたが、爆誕してから2年経った今、背の高さが俺より大きかったり、態度も大きかったりするのは、決して俺の心の形だとは思えない。

 今も好き好んで同じ姿を望んでいるとしたら、自分的にもなんだかなぁ……な気分になる。

 俺の深層心理も、表層に感じとるキールのことだから、俺の心をくすぐるようなチクチク刺すような微妙なところを突いてくるのだ。

「一世一代の恰好なのだろう。何だか面白いし、それこそ主にしか見えないのだから、私の恰好など些末な事さ」

 裸で横をフラフラするよりは大分マシだろう。と笑っている。

 そんなキールの様子に肩の力が抜けて、そのことで自分が緊張していることに気が付いた。

 良いも悪いも、この精霊との契約によって,『アースクエイク』のゲーム物語は始まるのだ。

 いてもいなくてもどうでもよかったミソッカス王子が、表向きはただ一人の王位継承を持つ男児として扱わなければならない存在として、大勢の人の目に晒される瞬間が、あと少しで訪れる。

 貴族の一番汚い面に晒される。

 命の危険も増すだろう。

 俺が狙われることは仕方がない。納得はできないし、死ぬ気もないけど。

 ただ、俺の周りにいる俺の味方であるほんの一握りの人間も同じように狙われるのだったら……。

 俺は、キールと共に、そのことに対抗できる力を持つために、必死に考え、必死に情報を取得し、必死に体を鍛えてきた。

 俺はどうも体があまり大きくならないようで、筋肉より頭脳を鍛えた。剣より魔法よりってところだ。

 キールは、誰にも見えない感じられない特技を生かして、俺が認識する忍者に近い動きをすることに特化した存在になった。ただ、直接的に干渉されないキールは、外界に対して物理的な干渉をすることはできないようで、攻撃をするような場面になった時は俺の体を使ってしか、外的な攻撃はすることしかできない。

 しかし、内面的攻撃、すなわち精神攻撃は得意中の得意だけれど……。

「黒いんだよ……」

 俺に対しても、敵に対しても、攻撃がエグイ‼

 そう言うと、それは主がそうだからだと必ず返答を返すのだ……解せぬ……。

 自分なりの服装チェックも終えて、一応最終確認のマーシュを待つばかり。

 鏡に映る自分の姿を、くるくる体をひねりながら確かめてみる。

 長い上衣からは、足元以外何も見えない。

 スリットがサイドに入っているため、見た目よりは歩き辛くなさそう。

「ただ、きっと目立つよね」

 この世界、フードが付いている服って外套以外だとそんなに存在しない。

 屋内で着ていて違和感のないものとしては、この修道士の聖服ぐらいしかいない。

「教会系の家柄の子供で、そのような格好の者が居ないとも限らない。まぁ、金色使ってる時点でどんな格好しても目立つから、服装に視線を持って行かせるところは、さすがにマーシュ殿だな」

 腕組みをして何度も頷いているキールはの姿を改めてみれば、確かにこの突飛とも言える服装の方に意識は持っていかれることだろう。その上フードを深く被ることで顔などを全く見えなくなるのだから。




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