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マーシュ・スリート  9 襲撃

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 目を焼かれたような状態であったが、私は這うようにして殿下が登壇していた台座までたどり着いた。陛下の近衛騎士達は、陛下と王妃殿下を守るために動く。

 参加者達は、流石に攻撃の到達地点である殿下の近くには誰もが近づいてこない。
 
 私は、第二波が撃ち込まれることを危惧して、不敬を覚悟で倒れている殿下の上に覆いかぶさった。

 殿下からは焼けた匂いも、出血した折に感じる錆びた鉄のような匂いも感じられずホッとする。

 殿下の侍従でこの場に控えていたのは私だけ。参加人数を絞るために儀式参加者の付添人は一人のみと決められたたからだ。

 元々後宮にある部屋から全くお出にならないこと殿下には、護衛騎士が必要ではなかった。今回の儀式で必要なことも検討されたが、これからも必要であるか疑問であるという声が上がり、専属の騎士を持つことは見送られたのだ。これも普通であれば考えられないことなのだ。

 であるから、先程控室の入口を守ってくれていたのも、陛下から貸出された騎士であったのだ。
 
 周りの喧騒は耳から入るが、意味を拾うことなく流れていく。幸いなことに第二波が襲ってくることはないようだ。

 腕の中の殿下はぐったりしたままであるが、呼吸は乱れていない。

 この生活魔法しか使えない結界の中で放たれたそれは、一般的な攻撃魔法ではないだろう。
 
 そう、ここで使用できる魔法が全くないわけではない。生活魔法以外で治癒魔法だけは、攻撃魔法の禁止されているこの城の中でどこでも使用できる魔法なのである。

 治癒魔法は光魔法と水魔法の中にそれがあるのだが、閃光を伴ったあれは、水魔法ではない。光魔法は、ライトのように生活魔法のそれと同じように考えられていたが、生活魔法のライトと光魔法のライトはよく似ているが違うものであることが分かっている。光魔法のライトは熱を持たせることも可能で、熟練すれば火魔法で生み出すファイアよりも、より高温で破棄力のあるものが生み出せるのだ。

 しかし、王族特化ともいわれるほど光魔法を使える者は少なく、攻撃魔法として使えるほど力のある光魔法の使い手を私は知らない。

 殿下を襲ったあの光は、魔石か何かを使ってブーストし、治癒魔法を極端に強力にして放ったものか。

 薬も過ぎれば毒になる。

 光魔法による治癒魔法は聖光の一種であり、アンデッドを退治するときにも使用されるもので、解毒作用もある。

 治癒するときの作用としては、傷ついた箇所の再生を活性化させる力ではないかともいわれているが、よくわかっておらず、水魔法の治癒とは結果は同じでも作用は違うものと言われている。だからか、水魔法ではアンデッドの退治はできない。

 あの強力な光魔法は、生きているもののみに作用し、建物には損害を与えない攻撃であったのだ。

 殿下が噂通りのただのか弱い子供であったならば、その身体はこの場に存在することなく壊されていたかもしれない。

 殿下の両親である陛下たちも知らない事実。

 殿下はまだ5歳になったばかりなのにも関わらず、誰に教えられたわけでも無いのに魔力量を増やし、そのことを隠ぺいするまで魔力の扱いに長けていらっしゃるのだ。

 5歳である殿下が、この広間にいる誰よりも魔力量が多いことは誰も知らないのだ。

 だから、いくらブーストされた光魔法といえど、殿下の身体を損ねることができなかった。そのうえ殿下は王族。きっと持っていらっしゃるだろう自分と同じ光属性の魔法にはより耐性が高かったことも、殿下を傷付けることができなかった理由と思われる。

 しかし、今私の腕の中で気を失っていらっしゃる殿下からは、いつも殿下ご自身を包んでいるように張られている、結界のようなものが消えている。この結界のようなものは、魔力量など殿下の能力の隠蔽にも使われているものだろうから、この広間にいる誰にも気づかれる訳にはいかないものだ。

 もうすぐ、この広間を照らすためのライトの魔道具でも運ばれてくるだろう。少しづつ平常心を取り戻した何人かの貴族たちも生活魔法のライトを使って自身の周りを照らし始めている。

 一番初めに安全な場に連れ出される陛下たちはすでにこの広間にその姿はない。上級貴族も自身の護衛にこの部屋から連れ出されたようだ。
 
 魔法が放たれただろう二階の回廊の方からも、近衛騎士の声が聞こえてきた。犯人の確保は彼らに頼むしかないだろう。

 一瞬誰かのともしたライトが殿下の顔を照らした。

「……⁈‼?」

 とっさに上着を脱ぎ、殿下の身体を包み込んだ。声を上げることなく行動した自分を誉めてあげたい。

 小さな殿下の身体は、私の上着にすっぽりと包まれてしまった。

 混乱が収まるのもは、時間の問題だろう。このような場所に長居をするのは愚か者のすることだ。

 誰にも顧みられていない、この小さな温もりを守り切らなければいけない。

 私は、暗がりの中ライトをつけることはせず、背を低くしたまま、この広間に入ってくるときに使用した控室に続く扉を潜る。広間には入ることを許されなかったもう一人の専属侍従であるリフル・ヘイルが、青い顔をして部屋の片隅に立っていた。

 私は目線のみでリフルに合図を送る。

 とにかく、後宮の殿下の部屋まで、走れ!!
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