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マーシュ・スリート  6 成人を迎えて

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 高等学部の3年間は全寮制。そして15歳の成人を迎える時でもあった。

 中等部の3年間も、王子を含めた逸材達と切磋琢磨し、全ての科目で主席を守る事ができた。攻撃魔法が得意と言えない属性の私がなんとか主席を取れたのは、武のトップの実力を持つであろう赤髪の猪突猛進の頭の筋肉具合のおかげであることは言うまでもない。智の方は、まぁクールに見えて実は惚れやすい体質の、青い髪の彼の気分の浮き沈みの激しいところに救われた感もなきにしもあらずだ。そして、もう一人、全ての点でトップを張れるお方は、既に成人前から任されている仕事の多さに、学生の事が二の次にせざるおえない立場であったから、仕方がないのかもしれない。

 私が中等部の3年次に上がった時に、薄いが赤い髪色の弟が、やたらでかい顔をして入学してきた。暫く振りに目にしたその姿は、態度だけではなく横にも随分と大きくなっていて、私とは全く何処にも似ているところを見つけ出す事が出来ないくらいで、心の底にあった肉親としての思いが躊躇なく断ち切れて、助かったくらいだ。

 何かにつけて絡んでこようとする弟を軽くいなしながら、一年間を過ごした。親を巻き込んでの騒動も有ったが、それは尚更私と生家との繋がりを断つことに役立つ以外のなにものでもなかった。

 特に、中等部を主席で卒業し、且つ王子達との交わりを知られた途端、それまでの私の扱いを掌を返すように変えようとしたその余りの厚顔さに、私の身体の中に流れている血を全て入れ替えたいと切に願ったものだ。

 中等部から高等部が始まるまでは二月ほど間が在るのだが、私は中等部を卒業したその日に実家から私の存在も含めて私に関わるもの全てを消し去った。このまま実家この場に留まれば、まだ成人を迎える前の私は何をされるかわかったものではなかったのだ。この家の利になる存在と認識された今、監禁されて隷属魔法を掛けられたり、何処かの家に売られたりする事も考えられたからだ。

 実家伯爵家が手が出ない場所に身を隠し、休み期間中に訪れる成人になる時15の誕生日を待つ。この時ほど自分の誕生日が待ち遠しい時はなかった。

 私は実家に妨害される事なく成人の日を迎え、そして伯爵家子息の身分を捨てた。

 成人と共に王子から貰った騎士爵の王子の侍従として高等学部に通った。

 高等部では甘酸っぱいだけでは終わらない王子達の恋に引っかき回された事もあったし、尻拭いに痛い目を見る事もあった。

 弟は結局高等部に進級する事はできなかったようで、中等部をなんとか卒業すると、実地で領地経営の勉強をするという名目で領地に帰っていった。このような領主の子息は結構な数がいて、高等部に進級するものは、一部の優秀な貴族の子供と、この学院に入学できた中等部から進学する優秀な平民の子供なのだ。

 高等部卒業後は、当初王子に求められたように、一番身近な侍従として公私共に支える事になった。
あれから7年。今の私は陛下にその名称が変わった彼の方の侍従から、生まれた時から王太子・・・である『アースクエイク』殿下の専属筆頭侍従として、王宮に勤めを得ている。

 王太子を対外的に正式に名乗るようになるのは成人してからになるのだが……。

「第一王子ではなく王太子……」

 これは、高等部時代の痛い思い出と共に生み出してしまった我々の過ちの象徴のようなものだ。だから、私はあえてアーク殿下が誕生した際に陛下付き侍従から王太子付き侍従に役職を変更してもらったのだ。陛下は随分とごねられたが、宰相たる青も、近衞騎士団長の赤も、その事に反対しなかった。

 アーク殿下が生まれる前年に青の息子が、同年に赤の息子が生まれている。

 私はあくまでも下級貴族の一侍従として未だに独り身を貫いている。蛇足だが、私の元実家のスリート伯爵家は残念な事にまだ存在しており、まだ家を継いではいないが次期当主の弟の第一子も殿下と同年に生まれている。

 陛下が王位を継いだ環境は、無理やりに前王に退位を迫って成し遂げたという事もあり、今だにまだその権威が不安定である事は否めない。しかし、領地持ち貴族が力を持ち過ぎた前王の時代から、少しづつ王権の強化が高まりつつある今、次の王になる者の存在はとても大切なものである。であるのに、陛下が高等部時代に蒔いた種が、事を更に複雑にしているのだ。

 そんな状況の下、次代を務めるであろう存在として生まれてこられたアースクエイク殿下は、誕生直後からこの後宮の最奥で監禁されるように育てられてきた。王子の命を守る事もその主目的であるが、五歳になる『帯剣の儀』を迎えるまで全く外部と接触を持たせないのは普通ではあり得ない事かもしれない。

 外部と殿下を接触させない一番大きな理由は、殿下ご自身。殿下が普通の子供と余りにも違う事に原因があるのだ。

 生まれた時から産声をあげる事なく、外からの刺激に殆ど反応を示さない。であるのに、感じられる魔力量だけは半端ないくらい多い。1歳を過ぎても2歳を過ぎても外部に対する反応は殆ど変わらず、一日中ボーッと過ごしているだけでにしか見えない殿下に、陛下も妃殿下も匙を投げた状態だったが、次の王子が生まれる事もなく、立場上は王太子殿下のままであったのだ。それは、我々には呪いとも思えるような、王子が生まれた直後に陛下が罹患された、普通ならば幼少期に罹られる熱病に大人になってから罹ったため、あるものが無くなってしまう病に冒されてしまった事により、これからも決して陛下のお子様は王太子殿下以外がお生まれになる事はないのだ。

 アーク殿下がお生まれになってから5年。毎日お世話をしている私でさえも、殿下のお声を聞いた事はなく。そして、教えていないにもかかわらず、本を一人で読み熟している事を知っているのは私ともう一人の侍従であるリフル・ヘイルだけだ。


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