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3章
28.幼馴染カプはいいぞ!
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召喚タグとハウスの違いについて聞いているうちに亀蔵もすっかり目が覚めた。やる気は十分でかめぇかめぇと鳴いた。
「では剣を構えろ。亀蔵は威力の弱い水球を奴めがけて打ち込め。一つ当てるごとに乾燥林檎が一つもらえるぞ」
「だからって強いのを打っちゃダメだからね? ロドリーが怪我しちゃうから」
「かめかめっかめえ!」
返事をしながら頭上に複数の水球を浮かべる。大きさに差はあれど、どれも表面がふよふよと揺れている。ちょんちょんと突けば柔らかい。さすが亀蔵。調整もお手の物だ。
「そういえば前回、亀蔵の分だけ遅れちゃったお詫びにボーロを持ってきたんだ」
「かめ!?」
「後でウェスパルに渡しておくからもらってくれ」
その言葉で亀蔵はますますやる気だ。感情と比例するように頭上の球も増えていく。ロドリーも剣を構え、応戦体勢に入る。始めと終わりの合図はルクスさんがすることとになり、私は審判役としてロドリーに命中した球を数える係となった。
「始め!」
合図の直後、ぎゅんっと水球が目の前を通り抜けた。出せる数だけではなく、スピード感も以前とは比べものにならない。それをロドリーは次々に切り裂いていく。
防御に振っていた分の魔法をスピードに置き換えたらしい。
元来の反射神経と合わせて、動きが軽やかかつスピーディーである。少しでも気を抜けばカウントを間違えてしまいそうだ。
じいっと見つめて当たった場所と回数を記憶していく。
「そこまで! ウェスパル、結果は」
「右手が一回と左腕が三回。腹と腰に二回ずつですね」
「球が増えた辺りから一気に捌こうと大振りになっていたところもあった。また普段防御している部分のガードも少しおざなりになっているように見えた」
「捌けないほどではなかったんだが、少し焦りが出たと自分でも思っている」
「だが初めにしては良かったと思うぞ。スピードの強化も加速と減速を上手く使いこなせていた。相手をよく見て焦らないことが今後の課題だな」
「はい!」
「かめかめぇ?」
「亀蔵は良いラインに打ち込んでいたな。普段は土魔法を使うから気にすることはないと思うが、水魔法単体で使う時は足下も狙うと良いぞ。タイミングとバランスを崩せばもっと攻撃は当たりやすくなる」
「かめっ」
ルクスさんはロドリーと亀蔵、それぞれの良いところと改善点を挙げる。二人ともコクコクと頷いている。
その点を踏まえて、二度、三度と繰り返す。ロドリーの戦い方も亀蔵の打ち込み方も少しずつ変化が見られる。どちらも確実にレベルアップしていた。
「亀蔵は強いな」
「かめかめ」
「ロドリーもなかなかだと言っている」
「ありがとう」
それから亀蔵にはご褒美の林檎とボーロをあげ、私達は今日のおやつのマフィンを頬張る。素手で食べられるのでとてもありがたい。またロドリーにもコーラシロップを出した。
「幼馴染みが好きそうな味だ」
「幼馴染みがいるの?」
「ああ。剣の腕を磨き始めたのも元々は幼馴染みを守るためだったんだ。あ、もちろん兄貴に憧れや領のみんなを守りたいっていう気持ちもあったぞ? だがきっかけはあいつだった」
これは俗に言う、幼馴染み恋愛フラグなのでは?
ゲームでは出てこなかった情報に思わず身を前のめりで聞いてしまう。
「どんな子なの?」
「とにかく羊が大好きで、羊なら魔物でも構わず抱きしめようとする羊馬鹿だな。あいつのおかげでこの数年で羊毛の質は上がったって大人達は喜んでいるが、怪我しても関係なく突っ走るのは止めて欲しい」
今のところ恋愛感情はなさそうだが全くの脈なしではない、と。
入学前にそれとなくそちらに意識を向けさせることでロドリールートを潰せるのでは?
マーシャル王子に続いてルートを潰せれば、第二部で残っている攻略者はイザラクだけとなる。彼だけならなんとかなる!
これは全力で応援せねばなるまい。
「じゃあ幼馴染みさんのためにも頑張らないとよね」
「俺が守らなくても自衛出来るくらいには強くなって欲しいけどな」
そう言いつつもまだ心配なのだろう。恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いている。
やはり脈はある。そして私の脱闇落ちの鍵もここに眠っている。ゲーム知識だけに頼っていたら見えてこなかった光である。
ヒロインと出会うまではまだ四年もある。
ロドリーとの接触が三年も早まったことで警戒する幅は広がったが、同時にチャンスも確実に増えている。
またこれは乙女ゲームや闇落ちとは全く関係ないことだが、私は幼馴染みカップリング好きである。
無自覚からの恋愛成就とかたまらない。両サイドの話が聞ければこの上なく幸せだが、タータス領までは距離があるのでそこまで無茶を言うつもりはない。片方から聞きつつ、幼馴染みさんへの気持ちを自覚させていくことが出来れば幸せだ。
コーラがシェリリンを変えたように、彼らの関係も変わればいい。
そんな願いを込めて、帰り際、ロドリーにコーラシロップを持たせることにした。
もちろん『是非幼馴染みさんと飲んで欲しい』と念を押すのも忘れずに。
「では剣を構えろ。亀蔵は威力の弱い水球を奴めがけて打ち込め。一つ当てるごとに乾燥林檎が一つもらえるぞ」
「だからって強いのを打っちゃダメだからね? ロドリーが怪我しちゃうから」
「かめかめっかめえ!」
返事をしながら頭上に複数の水球を浮かべる。大きさに差はあれど、どれも表面がふよふよと揺れている。ちょんちょんと突けば柔らかい。さすが亀蔵。調整もお手の物だ。
「そういえば前回、亀蔵の分だけ遅れちゃったお詫びにボーロを持ってきたんだ」
「かめ!?」
「後でウェスパルに渡しておくからもらってくれ」
その言葉で亀蔵はますますやる気だ。感情と比例するように頭上の球も増えていく。ロドリーも剣を構え、応戦体勢に入る。始めと終わりの合図はルクスさんがすることとになり、私は審判役としてロドリーに命中した球を数える係となった。
「始め!」
合図の直後、ぎゅんっと水球が目の前を通り抜けた。出せる数だけではなく、スピード感も以前とは比べものにならない。それをロドリーは次々に切り裂いていく。
防御に振っていた分の魔法をスピードに置き換えたらしい。
元来の反射神経と合わせて、動きが軽やかかつスピーディーである。少しでも気を抜けばカウントを間違えてしまいそうだ。
じいっと見つめて当たった場所と回数を記憶していく。
「そこまで! ウェスパル、結果は」
「右手が一回と左腕が三回。腹と腰に二回ずつですね」
「球が増えた辺りから一気に捌こうと大振りになっていたところもあった。また普段防御している部分のガードも少しおざなりになっているように見えた」
「捌けないほどではなかったんだが、少し焦りが出たと自分でも思っている」
「だが初めにしては良かったと思うぞ。スピードの強化も加速と減速を上手く使いこなせていた。相手をよく見て焦らないことが今後の課題だな」
「はい!」
「かめかめぇ?」
「亀蔵は良いラインに打ち込んでいたな。普段は土魔法を使うから気にすることはないと思うが、水魔法単体で使う時は足下も狙うと良いぞ。タイミングとバランスを崩せばもっと攻撃は当たりやすくなる」
「かめっ」
ルクスさんはロドリーと亀蔵、それぞれの良いところと改善点を挙げる。二人ともコクコクと頷いている。
その点を踏まえて、二度、三度と繰り返す。ロドリーの戦い方も亀蔵の打ち込み方も少しずつ変化が見られる。どちらも確実にレベルアップしていた。
「亀蔵は強いな」
「かめかめ」
「ロドリーもなかなかだと言っている」
「ありがとう」
それから亀蔵にはご褒美の林檎とボーロをあげ、私達は今日のおやつのマフィンを頬張る。素手で食べられるのでとてもありがたい。またロドリーにもコーラシロップを出した。
「幼馴染みが好きそうな味だ」
「幼馴染みがいるの?」
「ああ。剣の腕を磨き始めたのも元々は幼馴染みを守るためだったんだ。あ、もちろん兄貴に憧れや領のみんなを守りたいっていう気持ちもあったぞ? だがきっかけはあいつだった」
これは俗に言う、幼馴染み恋愛フラグなのでは?
ゲームでは出てこなかった情報に思わず身を前のめりで聞いてしまう。
「どんな子なの?」
「とにかく羊が大好きで、羊なら魔物でも構わず抱きしめようとする羊馬鹿だな。あいつのおかげでこの数年で羊毛の質は上がったって大人達は喜んでいるが、怪我しても関係なく突っ走るのは止めて欲しい」
今のところ恋愛感情はなさそうだが全くの脈なしではない、と。
入学前にそれとなくそちらに意識を向けさせることでロドリールートを潰せるのでは?
マーシャル王子に続いてルートを潰せれば、第二部で残っている攻略者はイザラクだけとなる。彼だけならなんとかなる!
これは全力で応援せねばなるまい。
「じゃあ幼馴染みさんのためにも頑張らないとよね」
「俺が守らなくても自衛出来るくらいには強くなって欲しいけどな」
そう言いつつもまだ心配なのだろう。恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いている。
やはり脈はある。そして私の脱闇落ちの鍵もここに眠っている。ゲーム知識だけに頼っていたら見えてこなかった光である。
ヒロインと出会うまではまだ四年もある。
ロドリーとの接触が三年も早まったことで警戒する幅は広がったが、同時にチャンスも確実に増えている。
またこれは乙女ゲームや闇落ちとは全く関係ないことだが、私は幼馴染みカップリング好きである。
無自覚からの恋愛成就とかたまらない。両サイドの話が聞ければこの上なく幸せだが、タータス領までは距離があるのでそこまで無茶を言うつもりはない。片方から聞きつつ、幼馴染みさんへの気持ちを自覚させていくことが出来れば幸せだ。
コーラがシェリリンを変えたように、彼らの関係も変わればいい。
そんな願いを込めて、帰り際、ロドリーにコーラシロップを持たせることにした。
もちろん『是非幼馴染みさんと飲んで欲しい』と念を押すのも忘れずに。
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