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占い師のお仕事は、背中を押してあげることです。
佳織の場合③〜その後の占い師のよしなしごと
しおりを挟む「……怖がらせた、かなぁ」
灯里は換気のための窓の開閉を確かめながら、やっちまったかなとため息をついた。
「たまに、こういうポッと入って来るご新規さんの『運気の嵐』率、なんか高くない⁉︎ ねえ……私だけかなぁ」
店に設えてある棚から、予備の恋人のカードを取り出して、カードの山にのせ、指先でパラパラと軽くタッピングした。これでカードにまとわりつく『何か』がリセットされるらしいが、真偽の程は不明である。
今回のようにお守りがわりにカードを進呈してしまうことが時々あるので、灯里はカードの絵柄ごとに仕分けて、それぞれ相当数ストックしている。
このカードはやや値段が張るが、1枚ずつ追加購入できるところも気に入っている、ここ10年来の灯里の相棒のひとつだ。
立花佳織というあの女性は、灯里から見て確実に今日こそが『運命の嵐』だった。
抗い難い『運命が変わる日』それを灯里や灯里の祖父母、祖父母の周りの占い師たちはそう呼んでいた。
この嵐の対処法としてはいくつかあるが、
大きく分けると2つで、立ち向かうか、やり過ごすか、となる。
「今回のは、立ち向かうとは違うけど……飛び込んで◯だよね」
テーブルや椅子の上に消毒のための噴霧器を何度かプッシュして拭き取りながら、灯里は明らかにドン引きしていた佳織の表情を思い出して、内心頭を抱えていた。
「ダメダメ、切り替えないと……とは言え、次は坂下のおじ様か……また失敗談聞かせろってなるから、これもネタになるのかな。ヤダなぁ」
坂下氏は祖父の直弟子の壮年の紳士で、もちろん自分も四柱推命などの占い師なのだが
、なぜか灯里の『常連さん』の1人だ。毎週来ては1時間ほど占いを交えた雑談になりがちで、お金をもらうのも最初は躊躇っていたのだが「その価値がある」と毎回きちんと払ってくれるので、正直助かっているのも事実だ。
暗くなった外を眺めつつ、窓ガラスに映る自分の顔のメイクを気にしつつ、天然石を編み込んだりモチーフを飾りつけて作った小さなアクセサリーが並ぶ棚の埃を軽くはらったり……そうしているうちにスマホの通知が来ているのに気づいた。
「あ……LINEだわ」
LINEでの占いも受けているため、こうして時々質問や占いの依頼が入る。月ごとのサブスクリプションで契約したお客様だったので灯里はポチポチと返事を返した。LINEがメインのお客様方は、即返事が欲しいという人が多い傾向にあり、最初こそ夜中も明け方も対応してしまってパンクしそうになっていたが、今は最初から時間を決めて契約し、返事を返すようになって落ち着いている。
新型ウイルスが流行し始めて店を開けられなくなった時に取り入れたやり方だったが、おかげで日本全国のお客様と繋がりが持てたのは嬉しい事だったが……そんな灯里のやりかたを、祖父母世代の占い師仲間に手取り足取りレクチャーしないといけなくなったのは誤算といえば誤算で……
(ほら、また……)
近所に住む祖父母の親友の手相占い師のマキちゃんから、『zoomの音が聞こえなくなったのー! 灯里ちゃんたすけて!』というLINEに、灯里は何とも言えない表情で通話ボタンを押すのだった。
(ま、スタンプ使えるようになっただけ進歩かな……)
2コールで電話に出たマキちゃんの声に、苦笑してしまう灯里だった。
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