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第6章 転生隠者の望む暮らし

12.何を求めて

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 息をついて、ペンを置いた。時間は午前10時半くらいだろう。ちなみにレイヴァーンの時間は、日本のいや地球の時間よりも少し……多分1時間ほど長い。1日はおそらく25時間と少しになるだろうか。転生したばかりの時は1時間程度とはいえ違和感を感じたものだったが、気がつけば慣れていた。
(時計が無ければ気づかなかったのかもしれないし、気づいたからこその違和感だったのかもしれない……)
「とりあえず……終わった、かな」
 ふと脇道に逸れた思考を目の前の紙束にもどし、順番を確認しながら紙束を揃えていると、独り言を聞きつけたらしいカルラがマグカップを、アナイナがチョコレートを乗せた小皿をを持ってきてくれた。
 どうやらチョコレートが気に入ったらしいアナイナは、たまにやってくる火の精霊王と意気投合してチョコレート談義と新しいレシピの研究をやっているそうで、小皿の上にはマーブル模様が美しいチョコレートが載っている。
「主様、どうぞ!」
「あの主人様、きょ、きょ今日のは綺麗に出来たんです!」
 可愛い2人を撫でてお礼を言って受け取った。
「本当に綺麗な模様ね……食べるのが勿体無い気がする」
「たた、食べてください!美味しくできたんです!」
「わかった。いただきます」
 カルラの金平糖に対する愛と同じくらいにアナイナのチョコレート愛も強いようで、最近は私におずおずとアイテムボックスの中の製菓用チョコレートの種類を尋ねて来ることが増え……結果的に、少しずつ私に対する緊張のようなものも和らいだ気がするのだが、時々吃ってしまうのはそれはそれで可愛らしいと思ってしまう。
 ブラドに尋ねたところ、彼らにとって人間の言葉は少し発音しにくいこともあるのだと言う。
(少なくとも私もこの子たちも意思の疎通に関して不自由していないし…アナイナが楽しく暮らしていると言うのなら、それが1番だよね)
 マーブルのチョコレートの中には、ベリーのジャムが入っていた。酸味と甘味のバランスが美味しい。素直にそう伝えると、アナイナは本当に嬉しそうに笑った。

「主人様」
 ブラドに呼ばれたのでそちらを向くと、彼は机の上の論文を入れるための箱を持ってきていた。
「主様、書き終わったんですね!」
 カルラの言葉に頷くと、みんながそれぞれに祝いの言葉を送ってくれるのでなんとなくむず痒くなりつつも嬉しかった。
「主人様、お出かけにられますか?」
 バルガに出かけるという意味で尋ねただろうブラドにそのつもりだと答えて論文入りの箱を受け取った。
 この論文は、特に依頼があったわけではない。私が私の為に書いたものだったが……魔法の研究に余念がないサブマスの意見が聞いてみたかった……この世界で今使われている魔法に関しての物なのだ。
(まあ、これが上手く世の中に伝われば……)
 エリーナさんのように「魔力量は多いけれど中級の魔法が使えない」といったことの解消にはつながるだろうと思う。
 そして、その後のことは今は考えていない。
(結果的に争い事の要因になるかもしれないと言えばなるかもしれない。でも、困っている人を助けることになる可能性もある……ただそれだけの事だと思って……いいかな?セカイさん)
 そんなことを思っているうちに、あっという間に髪が結われていた。ふふんと胸を張るラーラとティア、イリスにお礼を言ってアイテムボックスから背負子を取り出した。
「それじゃ、行こうかな」
「はい!」
「待って~」
「今日は何か採っていかれますか?主人様」
「今はやっぱりユキタケですわね!」
「赤イバラの実も採れるよ」
 カルラ、ファイ、ブラド、イリス、カルスが今日は付いてきてくれるようだ。
「そうだね。ユキタケを多めに採りたいかな」
 この辺りのユキタケは大きくて美味しいそうだ。

 私たちは見送ってくれる精霊たちに手を振って、家を出た。


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あけましておめでとうございます。
投稿が止まっている間もたくさんの方に読んでいただき、またはお気に入り登録してくださって本当にありがとうございます。
これからラストまで走りたいと思います。
よろしくお願いします。
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