上 下
65 / 113
第4章 この手の届くところ

10.地図にない場所

しおりを挟む

 聖地に人間を入れるには、精霊たちが先導して、森の奥や海の上、または険しい山を進んで1日から3ヶ月ほど経つと、聖地に入る為の門に着く。
 それが、精霊達の言う「人間を聖地に連れて行く方法」だった。
(しかも、期間がすごく……まちまち過ぎる)
「その道程の途中でなにかやらないといけない決まり事は無いかな?どんな細かい…いいえ、何気無いことでも良いのだけど」
 精霊達はみんなポカンとしている。おそらく本当に心当たりはないのだろう。
「例えば、毎朝決まった時間に魔力を放出するとか…決まった木があったら魔法で成長を促進させるとか、火を付ける時のおまじないとか…」
「ああ、そういう感じのならひとつあるよ~」
 水闇の精霊ファイがおっとりと言った。
「寝る前のね、おやすみの光を灯す時は、精霊王様にも届きます様にって、自然にそうなるよ」
「精霊王に、届きます様に…他の魔法を使う時は?」
「僕はおやすみの光の他はそうならないな~」
 何気ないといえば何気ない、一見関係ない様にも見えたが、それを言うなら『おまじない』という自分のワードだって苦し紛れにぽんと出た様な、関係ない言葉だった。しかし。
「そう言えば…私は、お湯を沸かす時はそんな風になりますね。この暖かさが精霊王様にも届くといいな、って」
「僕はランプに魔法を流すときにそんな感じかな」
「私達は、飲み水を魔法で生み出す時にはそう思います」
 次々に精霊達から『精霊王に届く様に』とつい心に思う時の条件が出されて来る。どれも、どちらかと言えば普段の生活に密接に関係している魔法を使う時…つまり、人間に近い生活をする者と一緒にいる時に使う頻度が多くなると思われる魔法…この場合は正式には精霊魔法となるだろう…が多い。本来、精霊達は基本的に飲み食いは不要だ。このような生活に密接する魔法は使わなくても生きていけるのだ。
(もしかしたら…)
 精霊達の「聖地への連れて行き方」は感覚的なものだった。それはそれは、おとぎ話に近いような、まさに超常現象と言っていい。だが、私はあくまでそれは何らかの魔法的な…儀式的な何かを行って何処かの転移点へ導いているのではないだろうかという仮説を立てていた。
(お湯を沸かす時、生活用水を出す時、ランプを灯す時、誰かの安眠を願う時…に、一定量の魔力が精霊王に…もとい聖地につながる…いや、聖地への転移点を自動で描くための魔力をためているとか…?)
 精霊達の口ぶりから、聖地はあくまでこのレイヴァーンの何処かにあるというのは間違いなさそうなのだが…
(どうしよう。あまり長く調べている時間はないよね…)
 もし、最短1日森を彷徨えば聖地に行けるのならば、こうして場所を調べて転移を試みるよりは、前者の方が早いのかもしれない。助けてと言い残して崩れるように消えた風の精霊王の映像が眼裏に浮かぶ。他の人に情報提供を求めようかとも考えたが、精霊に関する事象は、長年教師をやっていたという人でも実際に見たことはない、聞いたことだけだと言っていた。あまり世の中には出回っていない情報だろうというは、容易に想像がつく。
(精霊魔法の研究がされているという、魔導国家に行ってみる…?)
 しかし、魔導国家にも精霊魔法の使い手は数人、しかも大切に守られた環境で保護され、研究に協力しているということだったはずだ。見ず知らずの自分がいきなり訪ねて行っても良いことがあるとは到底思えなかった。
(ギルド経由で連絡を取ってもらったりして正式に情報提供を求めるとか…)
 こんな、この世界でも絵本に書かれるような事象が起きているなど、信じてもらえるのだろうか。
「よし」
 顔を上げた私を、精霊達が不思議そうに見る。
「明日はガルダに行って、ギルマス達やアーバンさんにちょっと聞いてみる。そして、今日から3日以内に場所の特定が出来なかったら…あなた達に先導をお願いして森を歩いてみよう」
 森を歩くにしても、最悪私なら転移で家に戻れるのだ。最低限の荷物は用意するが、空間収納がない者よりは楽なはずだ。私はそう自分に言い聞かせて、時間を確認する。もう深夜と言っても良い時間だ。
「ちゃんと歯を磨いて、もう寝るよ」
 いつもどおりの元気な返事が聞こえて、その事に1番ホッとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

転生少女は欲深い

白波ハクア
ファンタジー
 南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。  ──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。  鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。 【異界渡りを開始します】  何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。  次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...