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第4章 この手の届くところ
8.大切にしたいものと置いていくもの
しおりを挟む「さて、と…」
私は机の上に『幻映』ノートとペンを揃え、精霊たちの前には、それぞれ様々なボンボニエールに入れられた、金平糖や飴玉、キャラメルや小さなチョコレートを銀紙で包んだものや色とりどりのマカロンなど…とりあえず私が前世で見たことのある、見た目に賑やかなお菓子をアイテムボックスから出して並べてみた。
て私はなるべく穏やかに精霊達に声をかけた。
「それじゃあ、食べながらでいいから、わかる範囲で私に色々教えてもらえるかな?」
「はーい!」
「お任せください!」
「なんでも聞いていいよー!」
「いただきまーす!」
「うわぁ!甘い!」
既に口の周りに茶色のチョコレートの髭を付けている子達に、思わず笑ってしまった。
「飲み物も用意したから、ゆっくり飲んでね」
「主様!口の中でパッチパチしますの!」
「うん。炭酸飲料っていうんだよ。水の中に圧縮した空気を入れてあるんだ」
「綺麗な色だね!」
「透明なのに甘い!」
「うん。毎日はあげられないけど…今日は特別ね」
きゃっきゃっと騒ぐ精霊達を見ていると、カルラがふんと息をついた。
「これは主様の前の世界のお菓子なんですか?」
「うん。そうだよ。お金があれば、お店でいつでも買えるようなお菓子と飲み物」
「主様は裕福なお家の方だったんですか?」
「いいえ。ごく普通…とは言うか、私のいた国ではたぶん平均的な世帯だったと思うよ」
「魔法の無い世界でしたよね?」
「うん。その代わり、他の力を使って色々なことが出来ていたよ。もちろん、そのせいで色々と問題も沢山あったんだけど」
水や空気を汚したり、山を崩したり…便利さの対価として、最早手放せない便利さの為に、色々なことが起こっていたはずだ。
「今はどうなっているんだろうね」
「主様……気になりますか?」
私は軽く首を左右に振った。
「気にならないとは言わないけれど、もうほとんど覚えていないの。転生って、そういうものらしいよ。漠然としすぎていて、まるで絵本の中の世界の事みたい。それよりも…」
カルラのフワフワとした髪を撫でる。
「今はあなた達のことの方がずっと気がかりだよ。はい、金平糖。食べられるかな?」
1番小さな金平糖を選んで出しているのだが、それでもカルラの掌には3つ載せるのがやっとだった。
「お星様みたいですね、主様!」
大きく口を開けて金平糖を放り込むと、その瞳がキラキラしていた。
「うわ!可愛くて甘いです!」
「よかった。落ち着いてね。喉につまらせないようにね」
カルラの頭を撫ぜながら、多分前世もこんな事が有ったはずだと、つい想いを馳せると、胸の奥がチリリと痛む気がした。
(もしかしたら、自分はとても薄情なのかもしれない)
あんなに、あんなに………
(いや、やめよう)
前世、しゃかりきに色々と頑張ったのは漠然と覚えているが、実際何をしていたかなどの具体的な事はあまり思い出せない。多分私だって根っからの善人だったわけでも無いだろう。多分、時に悪態もついていただろうし、きっと独りよがりなことだって思ったはずだ…。
(今は、この子達を守りたい…それに集中しよう)
こうして時折去来する前世の名残を頭の片隅に追いやる度に、前世が風化していくのが分かる。でも、今私の眼の前でやっと笑ってくれたカルラ達の笑顔を、今の私は1番に守りたいと感じるのだ。
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