50 / 113
第3章 心が繋がる時
12.隠者は万が一を2つ用意する
しおりを挟む
私の目の前に、ソファーに座ったメリーベルさんとその両脇には、サブマスとエリーナさんがいる。猫足のテーブルの上には、紅花の妖精。対面のソファーには私と精霊たち。
「では、最後にもう一度、実際に魔力の流れや護石も含めて説明しますね」
妖精も含めた目の前に、それぞれの魔法紋様を出す。
「これは、魔力量や魔力の流れ方を始め、それぞれの方の現在の状態を視るために使います。基本的に気にしないでくださって大丈夫です」
「あ、あの…」
「はい?」
「呪文は…」
「詠唱破棄…いえ、これは無詠唱…」
メリーベルさん、エリーナさんまでアワアワしている。またやってしまった。
「……まあ、今はお気になさらずに。私は…その、サブマス…メリーベルさんのお父様の先生…らしいので、そういうことで…いいです…よね?サブマスター…」
「もちろんです」
しどろもどろの私の言い分に、サブマスは被せ気味に答えてくれた。助かった。私は机の上の紙をメリーベルさんにどうぞと渡しつつ、口を開いた。
「そして、次にこれを唱えてから、妖精に名前をつけてあげてください。名前は昔から考えてあると言うことでしたね?…あ、口には出さないで下さい」
「はい!初めて会った時から、心の中で呼んでいる名前がありますから」
メリーベルさんの目がキラキラと輝き、丸い頬は紅潮してピンク色だ。透き通るような肌だが血色が良いので病的に見える事は決してなく、むしろ輝くようなオーラすら感じる。目鼻立ちも整っていて、目元や鼻筋はサブマス似、笑うとエクボのできる口元はエリーナさんそのまま。贔屓目に言っても美少女だ。将来は美女確定だろう。
(ええと、魔力量は…サブマスの7割くらいかな。あ、エリーナさんの方が魔力総量は多いのね。意外…)
メリーベルさんに見惚れて脱線しそうだった思考を各人の紋様に戻した。
「これを読んでから…『私と妖精は、今日からゆっくりと末長く友情を育んで共に育って行きます』」
「はい。これを読む事で、魔力を危険量まで持って行かれるのを防ぎます。何らかの事故で魔力の枯渇がおこりそうな場合は、これで…」
サブマスとエリーナさんの前に、もう一枚ずつ紋様を出した。
「これで、メリーベルさんに魔力を必要分だけあげることができます。私が合図したら、お二人はその紋様に触れていてください。その方が楽だと思います」
「…魔力譲渡……属性による拒否反応は、この紋様が防ぐのですか?」
「はい、これは魔力の属性を無属性に持っていくと言うか、より魔力そのものに変換するものです。出力…つまりメリーベルさんに流れる方の速度は、メリーベルさん自身の魔力の減りに応じて変わりますが…万が一ご自身の魔力で足りないようなら、これでお二人の魔力を使えば大丈夫かと」
何やらブツブツサブマスが言っているが、とりあえず説明を続けることにする。
「その場合は、エリーナさんの方が魔力総量が多いようなので、まずはエリーナさんからある程度譲渡してもらって、その後にサブマスにお願いしましょうね」
「えっ⁉︎」
「ええっ⁉︎」
そのように設定します、と続けようとしたらサブマスとエリーナさんが素っ頓狂な声を出した。
「今、なんと…?」
「そうそう、私の方が魔力総量が多い…?」
何をそんなに驚いているのだろうか。私は普通に返事をした。
「…はい。そうですが……何か…?」
「…いえ、いいえ!いまはメリーベルですわ!」
「そうです、そうですね。それは後ほど」
若干アワアワしているお二人が気になるといえば気になるが、机の上でぴょんぴょん飛び跳ねている妖精も気になるので、次に移ることにする。
「そして、最後はこの護石です。これはまあ、保険のようなものですが…万が一の事があっても、ある程度ならこれで身を守れますので、皆様ポケットに入れるか、膝の上にでも置いていて下さい」
手のひらほどの大きさの、大きなメダルのような護石を3つ、それぞれの名前を彫り込んでから渡した。
サブマスは雪の結晶模様、エリーナさんにはフリージアの花、メリーベルさんにはマーガレットの花を内側に彫り込んであるものを渡す。
「マーガレットですね!可愛いです!」
メリーベルさんが笑顔でお礼を言ってくれたので、私もほっこりした。
「お気に召してもらえて良かったです。…では、心の準備はよろしいですか?」
「はい!」
とりあえず、今回の術と万が一混じるのが嫌だったので、私は隠蔽と認識阻害を全て外して、メリーベルさんに合図した。
「それでは、いつでもいいですよ」
メリーベルさんが、輝くような笑顔で頷き、サブマスとエリーナさんの喉がごくりと動くのが分かった。
「では、最後にもう一度、実際に魔力の流れや護石も含めて説明しますね」
妖精も含めた目の前に、それぞれの魔法紋様を出す。
「これは、魔力量や魔力の流れ方を始め、それぞれの方の現在の状態を視るために使います。基本的に気にしないでくださって大丈夫です」
「あ、あの…」
「はい?」
「呪文は…」
「詠唱破棄…いえ、これは無詠唱…」
メリーベルさん、エリーナさんまでアワアワしている。またやってしまった。
「……まあ、今はお気になさらずに。私は…その、サブマス…メリーベルさんのお父様の先生…らしいので、そういうことで…いいです…よね?サブマスター…」
「もちろんです」
しどろもどろの私の言い分に、サブマスは被せ気味に答えてくれた。助かった。私は机の上の紙をメリーベルさんにどうぞと渡しつつ、口を開いた。
「そして、次にこれを唱えてから、妖精に名前をつけてあげてください。名前は昔から考えてあると言うことでしたね?…あ、口には出さないで下さい」
「はい!初めて会った時から、心の中で呼んでいる名前がありますから」
メリーベルさんの目がキラキラと輝き、丸い頬は紅潮してピンク色だ。透き通るような肌だが血色が良いので病的に見える事は決してなく、むしろ輝くようなオーラすら感じる。目鼻立ちも整っていて、目元や鼻筋はサブマス似、笑うとエクボのできる口元はエリーナさんそのまま。贔屓目に言っても美少女だ。将来は美女確定だろう。
(ええと、魔力量は…サブマスの7割くらいかな。あ、エリーナさんの方が魔力総量は多いのね。意外…)
メリーベルさんに見惚れて脱線しそうだった思考を各人の紋様に戻した。
「これを読んでから…『私と妖精は、今日からゆっくりと末長く友情を育んで共に育って行きます』」
「はい。これを読む事で、魔力を危険量まで持って行かれるのを防ぎます。何らかの事故で魔力の枯渇がおこりそうな場合は、これで…」
サブマスとエリーナさんの前に、もう一枚ずつ紋様を出した。
「これで、メリーベルさんに魔力を必要分だけあげることができます。私が合図したら、お二人はその紋様に触れていてください。その方が楽だと思います」
「…魔力譲渡……属性による拒否反応は、この紋様が防ぐのですか?」
「はい、これは魔力の属性を無属性に持っていくと言うか、より魔力そのものに変換するものです。出力…つまりメリーベルさんに流れる方の速度は、メリーベルさん自身の魔力の減りに応じて変わりますが…万が一ご自身の魔力で足りないようなら、これでお二人の魔力を使えば大丈夫かと」
何やらブツブツサブマスが言っているが、とりあえず説明を続けることにする。
「その場合は、エリーナさんの方が魔力総量が多いようなので、まずはエリーナさんからある程度譲渡してもらって、その後にサブマスにお願いしましょうね」
「えっ⁉︎」
「ええっ⁉︎」
そのように設定します、と続けようとしたらサブマスとエリーナさんが素っ頓狂な声を出した。
「今、なんと…?」
「そうそう、私の方が魔力総量が多い…?」
何をそんなに驚いているのだろうか。私は普通に返事をした。
「…はい。そうですが……何か…?」
「…いえ、いいえ!いまはメリーベルですわ!」
「そうです、そうですね。それは後ほど」
若干アワアワしているお二人が気になるといえば気になるが、机の上でぴょんぴょん飛び跳ねている妖精も気になるので、次に移ることにする。
「そして、最後はこの護石です。これはまあ、保険のようなものですが…万が一の事があっても、ある程度ならこれで身を守れますので、皆様ポケットに入れるか、膝の上にでも置いていて下さい」
手のひらほどの大きさの、大きなメダルのような護石を3つ、それぞれの名前を彫り込んでから渡した。
サブマスは雪の結晶模様、エリーナさんにはフリージアの花、メリーベルさんにはマーガレットの花を内側に彫り込んであるものを渡す。
「マーガレットですね!可愛いです!」
メリーベルさんが笑顔でお礼を言ってくれたので、私もほっこりした。
「お気に召してもらえて良かったです。…では、心の準備はよろしいですか?」
「はい!」
とりあえず、今回の術と万が一混じるのが嫌だったので、私は隠蔽と認識阻害を全て外して、メリーベルさんに合図した。
「それでは、いつでもいいですよ」
メリーベルさんが、輝くような笑顔で頷き、サブマスとエリーナさんの喉がごくりと動くのが分かった。
0
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~
ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」
騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。
その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。
この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
次は幸せな結婚が出来るかな?
キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。
だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。
ゴブリン娘と天運のミミカ
高瀬ユキカズ
ファンタジー
小説を読んで、本気で異世界へ行けると信じている主人公の須藤マヒロ。
出会った女神様が小説とちょっと違うけど、女神様からスキルを授かる。でも、そのスキルはどう考えても役立たず。ところがそのスキルがゴブリン娘を救う。そして、この世界はゴブリンが最強の種族であると知る。
一度は街から追い払われたマヒロだったがゴブリン娘のフィーネと共に街に潜り込み、ギルドへ。
街に異変を感じたマヒロは、その異変の背後にいる、同じ転生人であるミミカという少女の存在を知ることになる。
ゴブリン最強も、異世界の異変も、ミミカが関わっているらしい。
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる