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第3章 心が繋がる時

5.魔法の歴史のその前に

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 サロンと呼ばれるいわゆる客間で、改めてサブマスの奥さんとお子さん達にご挨拶した。若々しい奥様はエリーナさんという名で、なんとサブマスよりも11歳も年下らしい。お子さんは、1番上が8歳のメリーベルさん、続いて4歳のウォルフリードくん、2歳のジュードくん。メリーベルさんはスカートを摘んだ礼をしてくれて、男の子達はぴょこんと飛び跳ねるように挨拶をしてくれた。そこで少し立てお茶を飲みながら、執事さんが今日の予定を説明してくれた。
「僕もお姉様とお勉強する!」
「ぼくもー!」
「2人は今日は剣術のお稽古よ?」
 こんな小さな頃から剣を習うのだなと可愛いお子さん達を見ながら感心していると、エリーナさんがうふふと笑う。
「小さいのに、って思われるかもしれませんけど、ここは辺境ですもの。成人するころには小鬼くらいは1人で倒せるようでないと、貴族は名乗れませんわ。男の子なら余計に」
「素晴らしいお考えです。アスター夫人」
「あら!どうぞエリーナとお呼びになって!夫の恩人によそよそしくされるのは悲しいですわ」
「いや…その…」
「子爵や男爵は、もとより市井との距離も近いんですのよ。私も領地では商会を営んでおりますし」
「…ありがとうございます。エリーナ様」
「まあ、様もいらないくらいですのよ、リッカ様」
「どうぞ私のことは呼び捨ててください…」
「それは出来ませんわ!」
「サブマスターからも、お願いします」
 クスクスと笑いながら私とエリーナさんのやりとりを聞いていたサブマスは、いや失敬、と咳払いをしてから口を開く」
「私もアーバンから聞いた『リッカさん』がもう癖になってしまいましたので、お互い『さん』で呼び合えばどうでしょう?」
「いい考えですわ!ね、リッカさん」
「……はい、ありがとうございます。サブマス、エリーナさ」
 さま、と言いかけて視線の圧力に負けた。
「エリーナ…さん…」
 貴族夫人はすごい。何って、その目力。商会を営んでいると言うが、きっとバリバリの遣り手なのだろう。
「仲良くしてくださいましね!」
 絶対に敵には回したくない。しかし、それ以前にとてもいい空気の持ち主だ。ミリィさんとはちがうタイプの姉御肌と言うか…いい奥様で、いいお母さんなのがすぐにわかった。

 しばらくすると、今日の先生だと言う人が現れた。王都の学園で教鞭をとったこともあると言う初老の男性だった。
「マルクス・ランドです。専攻は魔法薬学ですが、学園では歴史や初級魔法まで教えておりました」
 聞けば、元は平民らしく、特待生として王都の学園に(ちなみに、本当は王立高等教育学院と呼ばれていて、武術学部と魔法学部、商学部にわかれている。3年課程の上にはさらに2年の上級課程がある。通称は『学園』らしい)5年通い、その後教師となったのだそうだ。長年勤めたことで一昨年一代男爵となって退職、辺境伯の立てた薬学研究と薬の作成をする施設の所長として引き抜かれたところ、らしい。
「リッカです。本日はよろしくお願いします、先生」
 挨拶をすると、軽く目を見張っておお、と挨拶を求められた。
「ギンダケを持ってこられた方ですね。その節はありがとうございました。あれのおかげでこの冬は辺境騎士団の凍傷が軽くて済んだと聞いております。誰も指を落とさずに済んだと。私からもお礼を申し上げます」
「…お役に立てて幸いです」
 ギンダケは凍傷に効くらしい、と私は心のメモに書き足した。血流を促す効果でもあるのだろうか。騎士さん達の指が無くなったら大変だろうから、また冬になる前にギンダケを辺境伯様に上納しよう。

 授業を始めるとのことで、私と奥様…エリーナさんは部屋を移った。サブマスは男の子達の剣術を見てから、合流するらしい。子供達の勉強部屋は、さながら学校の教室だった。黒板や教壇、机と椅子が整えられ、書架には本が並べられていた。中には、私が先日もらった世界魔法全集もあった。
「すごい部屋でしょう? 義兄が、夫か、私たちの子供達の誰かに将来跡を継がせるからって改装の時に作らせたらしいの。それに、ウチの人って研究バカな所があるから…更に手を入れちゃって。絵本の前に魔法書渡そうとしましたのよ」
 その時のことを思い出したのか、小声でクスクスと笑う。
 大きな黒板に、先生が『魔法の歴史』と書く。
「本日は、先日も軽くお話ししました、魔法の歴史について、もう少し詳しく、多角的に見ていきますよ」
 メリーベルさんは1番前の席に、私とエリーナさんは3列並んだ机の1番後ろに腰掛ける。メモをとっていいと言う話だったので、いつものメモ用紙の束とペンとインク壺をカバンから…と見せかけてアイテムボックスから取り出す。エリーナさんも小さめのメモ帳を持っているようだ。もしかしたら、こちらはメリーベルさんの様子や、勉強の進み具合をチェックするのだろうか。
「まずは、魔法というのは…」
 先生の話が始まった。
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