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第2章 繋がりは繋がっていく

閑話 『古着屋ミリィ』にて

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 ミリィは、息子が眠るゆりかごの中から、巾着袋を取り出した。中には、手のひらと同じ大きさの紫水晶の護石が入っている。その、袋越しでも伝わる穏やかな『何か』を感じて、ふっと息をついた。いつもは夕暮れ時になるとぐずって泣き出し、何をやっても泣き止まない息子が、今日は傍らにゆりかごを置き、チラチラ顔を見せてあやすだけでなんとか持ち堪えてくれて、手早く夕飯を作り終える事が出来た。手が空いて思い切り抱きしめると、笑顔で手足をばたつかせて喜んでくれて、今はお腹がいっぱいになって眠っている。気のせいかもしれないが、頬にできた赤ちゃん特有の吹出物が朝よりずっと薄くなっている気がする。
 夫であるアーバンは少し遅くなると連絡をもらったところだ。

「今日は色々あったわねぇ…リッカ」
 息子に名前をもらった若い隠者を思い出す。ミリィの出産時、ありえない方法でミリィと息子を救った恩人。よくよく思い返せば、確かに空中に幾つかの魔法陣のような物を一度に描いていたように思う。
「あんなこと出来るの、多分王都にも帝国にも、魔導国にも居ないんじゃないかしら」

 隣国である帝国や魔導国と呼ばれる魔導国家ヤウェハなら、ミリィも冒険者時代に縁があって行ったことが何度かある。特に魔導国はしばらく滞在したこともあり、その間に色々目にする機会もあったが、完全無詠唱であんなに気軽に護石を作れる人間には会った事はないし、噂を聞いたこともない。
「この護石…完全に内側に彫ってある…隠し彫りなんかじゃないし、加工してあるわけじゃ無い…完全に、魔法で内側に刻んだんだわ」
 最後のあの加工は、リッカの名前を刻んだだけらしい。確かに、中央には何やら刻んで有るが、名前には見えない。普通の美しい模様で、左右の翼と調和の取れた美しいものに仕上がっている。
「これ、穏やかな気持ちになるんですって。貴方は居るだけで他の人を安心させるような人間になれるらしいわ…うふふ、アーバンみたいよね?」
 本当なら、誕生の祝いにもらった護石は、見える場所に飾って客にも見せるのが慣わしだが…
「これは無理ね。凄すぎて。私たちだけの秘密よ。貴方の生涯の宝物になるわ」
 多分、本当にこれを買い求めるなら、王都に家が立つかもしれない。
「リッカさん、それをあと幾つか、ゴロゴロ出してたわよね…」
 これの中から赤ちゃんに相性のいいのを選んだんですよ、素材は私が集めたもので、加工も私がした者なので大したものじゃ…なんて言っていたのを思い出す。素材はそうでも(それでもとてもすごい素材だったが)その加工はとんでもない価値が有るのを、知らないのだ。
「本当に大丈夫かしら?悪い人に狙われなきゃいいけど。アーバンやギルマス達もいるし、辺境伯様も守ってくださるわよね?」
 確かに背は高いが、ひょろりとした年齢も性別も不詳に見える隠者リッカは、とても強そうには見えない。
「まあ、隠者だし…」
 魔導国で遠目に見たことがある隠者の称号持ちは、宮殿に勤める好好爺といった風情だった。確かに強そうには見えなかったが、演習と称して魔導学院の校庭を真夏に数時間スケートが出来るくらいに凍らせたと言われているし……
 まあ、おいおい仲良くなれれば、そういう輩からの身の守り方も教えてあげられるだろう。
「それに、オシャレさせたいなー。背も高くて、素材は素敵なのに勿体ない!」
 とりあえずサイズの合いそうな、多少は合わなくても問題無く着られそうなワンピースやらブラウスやスカートを持たせては見たが、着てもらえるだろうか。まるで歳の離れた妹が出来たように感じて、思わず着飾らせたい衝動が止まらないミリィだった。
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