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第五章
第五章4 ~役に立ちそうな所持品がありません~
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目を覚ますと、そこは暗闇の中でした。
瞼を開けているはずなのに、何も見えません。
何か軟らかいものの上に仰向けに寝かされているみたいです。
身体の感覚からすると、何かの草が身体の下に敷かれているようです。
(……ん。さっきの夢のことをしっかり覚えてますね)
私はどちらかというと夢から覚めると、みていた夢の内容を忘れてしまう方です。
しかしいまははっきりと白いローブの人のことが思い出せますし、話していた内容もしっかり覚えています。
普通の夢で無かったことは確かです。
夢で得た情報が確かなものか、現実で擦り合わせる必要はありますが、ひとまずこの世界で得た情報のひとつとして考えていいでしょう。
(さて、それはさておき……ここはどこでしょう?)
手を顔の前に持ち上げてみました。
しかし、すぐそこにあるはずの手は全く見えませんでした。完全な暗闇のようです。
耳を澄ましてみましたが、ほとんど音が聞こえません。
風鳴りのような音がかすかにしています。
(……あの洞窟の一角に寝かされているんでしょうか?)
周りが全く見えないのに動くのは危険ですが、とりあえず可能な限り動いてみることにしましょう。
そう考えて寝かされていた身体を起こした時、近くに光源が発生しました。
明るくなったのはいいのですが、暗闇に慣れた目には眩しすぎます。
思わず顔を手で庇いつつ、見えるようになった周囲を認識していきます。
そこは洞窟でした。広い空洞――といっても長老さんのいたドーム何個分もありそうな広さとは全く違いますが、体育館くらいの広さはありそうです。
私はその空洞の隅で、なぜか生えている草の上で寝ていたようです。
小さく軟らかい葉っぱが、無数に生え茂っています。
複雑に生え茂ったそれは、身体の感覚で感じてはいましたがとても軟らかく、寝心地は悪くありませんでした。
それは四つ葉のクローバーに似た草で、普通は洞窟に生えるような草には見えません。
なのになぜ都合良くここに生えているのか――その答えは光源を手にしている存在が、全てでした。
「ヨウ、さん……!?」
半身を起こしている私の傍に、ヨウさんが座っていました。
ヨウさんは穏やかな表情で笑っていて、思わず見惚れる美しさでした。
神々しい裸身も相成って、妖精というよりは女神に見えます。
そんなヨウさんを見て、自分が腰布一丁の格好であることを思い出し、慌てて両手で胸を隠しつつ、私はヨウさんに問いかけます。
「な、なんでヨウさんがまだいるんですか!? 森に帰してもらえなかったのですか!?」
眠りにつく前、私は確かに「ヨウさんを元いた森に帰してあげてください」とリューさんにお願いしたはずです。
長老さんが私の言葉を翻訳できる以上、通じていなかったということはないはずです。
どうして、という思いを込めて叫びましたが、ヨウさんは困ったように笑うだけでした。
ヨウさんの穏やかな様子に、気が抜けてしまいます。
(何らかの理由でリューさんに残るように強制されたとして……こんなに自然体でいられるでしょうか?)
ヨウさんがリューさんや他のドラゴンたち、長老さんを半端なく怖がっていたことは明らかです。
あの青ざめた表情や震えていた態度は嘘では無いでしょう。
周りに彼らがいないからかもしれませんが、それにしても穏やかに見えます。
(……もしかして、私が彼女に感謝しているのがハッキリして、リューさんたちに危害が加えられる可能性が減った、とか?)
リューさんがどういう理由で私に執着しているかはまだ不明ですが、少なくとも何らかの目的があるわけです。
その目的を果たすために、悪感情を抱かれると不都合があるとして。
それはつまり、私がヨウさんに感謝しているのですから、そのヨウさんに危害を加えれば、私からの印象が悪くなるということです。
それがハッキリした以上、リューさんはヨウさんを害することが出来ないということになります。
だからヨウさんに少し余裕があるのかもしれません。
(でもどうして残ってくれたんでしょう……?)
そんなことを考えてしまいます。
確かに私と一緒にいれば、リューさんやそのリューさんに一目置いているらしい他のドラゴンたちにに危害を加えられることはないかもしれません。
しかし、それなら森に帰った方が、より安全なはずなのです。
いくら私からの印象があるといっても、それで完全に安全であるとは言えません。
いつリューさんの気が変わるかもしれませんし、あくまでヨウさんは巻き込まれただけの存在なのですから。
(ヨウさんは長老さんのように私の言葉がわかるようにはなっていないみたいですし、聞くのは難しそうですね……)
ヨウさんが無理している様子はいまのところないですし、ひとまずその謎は置いておきます。いずれにせよ、ヨウさんが傍にいてくれること自体はありがたいわけですし。
下手に藪を突く必要はないのですから。
意味は通じないでしょうけど、御礼だけは言っておきましょう。
「一緒にいてくださって、ありがとうございます」
私はヨウさんに笑顔を向けてから、改めて状況を整理します。
現在いる空洞は、歪曲しながら遠くまで続いているのがわかります。恐らくそちらに向かえば外にでられるのでしょう。
幸いにしてこの部屋は行き止まりのようなので方向に迷うことはありませんでした。
(外に出てみましょうか……いえ、焦ることはありません。リューさんもいませんし……まずは、と)
改めて自分の状態を確認します。
怪我などはしていませんし、痛むところもありません。
少しお腹は空いてきましたが、まだ我慢できるレベルです。
腰布状態になったバスタオルは、少し回復していました。いまならおへその上までくらいは隠せそうです。
けれど胸と股間の両方を隠すにはまだ丈が足りないので、今しばらくは腰布状態が続きそうです。
(少し長くなったおかげで、下半身はだいぶマシですね)
いままでがミニスカートだとすると、普通のスカート丈くらいにはなっています。
いまだ胸は手で隠さなければなりませんが、下半身の安心さが違うとこちらの気持ちもだいぶ違います。
さて次に。私は人間の街から持ってきた荷物に手を伸ばします。落としてしまっていましたが、ヨウさんがここに持って来てくれていたようです。
適当に詰め込んで来てしまったので、改めて中身の確認をしておきましょう。
(何か役立つものがあれば良いのですが……)
片手で胸を隠しながら、片手を使って袋の中からアイテムを取りだしていきます。
片手だと結構手間取るのですが、ヨウさんが興味深そうにこちらをじっと見つめているので、片手を胸から離すことができませんでした。
いくらヨウさん自身が全裸であると言っても、注目されて恥ずかしいのは仕方ないのです。気にしないように努めつつ、所持品を並べていきます。
(えーと、まずは読めないですけど本が数冊、お皿、コップ、インクはありませんがペン、雑巾のような布きれに……何かの瓶詰め、それとこれは……お守り、でしょうか?)
落とした時に割れてしまったのか、お皿はヒビが入っていました。コップと何かの瓶詰めは無事なようです。
ペンはインクがないとはいえ、インクの代用が聞くものは自然界にもあるでしょう。まあ、そもそも自然界にあるものでペン自体の代用も利きますけど。
最後のよくわからない形状のそれがお守りだと感じたのは、ペンダントのように紐に通してあって、首から掛けられるようになっていたからです。
ですが、細かな意匠があるわけではなく、いまひとつ何を模しているのかわからないものでした。
(ただのペンダント、という可能性もありますね。……それにしても、見事に役に立ちそうなものがないです)
強いて言うなら本くらいですが、解読出来ないというのは街で見たときと同じです。
落ち着いて見てみれば何かわかるかと思いましたが、やはり解読するにはあまりに難解な文字でした。
もうひとつ役に立ちそうなのは何かの瓶詰めなのですが、中身が何かわからない限りこれも使いようがありません。
ポーションとかだと嬉しいのですが、適当に持ってきたものがそうである可能性は少なそうです。
(あとはペンダント、ですかね……さすがにこれを着けてバスタオルが爆発することはない、と思いたいですが……)
いまのうちに試しておくべきでしょうか。
私は恐る恐る、そのペンダントを首にかけてみます。
何もおきませんでした。それがバスタオルの拒絶範囲外の品物だったからか、それとも単にバスタオルに被さっていないためかは定かではありません。
結局、判断は保留とした方がよさそうです。
(もしペンダントが装着可能なら……最悪胸を隠すのにそういう形状のペンダントを身に付ければ……いや、どんな変態かって話になりますよね)
一瞬想像しかけて、どう考えても痴女にしかならなかったので思考を放棄しました。
ペンダントは一端首から外して、他のものとまとめて袋の中にしまっておきます。
袋を地面に置きつつ、この荷物をここに置いておくべきか持ち歩くべきか悩みました。
下手すると置き去りにする可能性もありますし、出来るなら常に持っておきたいですが、そうなると手が塞がってしまいます。
(アイテムボックスとか、便利な魔法があればいいんですが……)
無限に収納できるアイテムボックスとか、物語なら誰でも持っているんですけどね。
この世界でそれを期待することはできないでしょう。
あるとしても、何らかのアイテムを用いたり、ちゃんとした魔法として唱えなければならないと思われます。
でも、そういえば、ダンジョン内で腕輪を身に付けていた時は、それを用いていかにもな画面が展開されましたね。書いてある字が読めずに意味がありませんでしたけど。
(あれだけ妙にゲームっぽかったのはなんでなんでしょう?)
いくつか理由は考えられます。
ひとつ、単なる偶然。ふたつ、この世界の者が知らないだけで転生者や転移者がいる。みっつ、この世界は本当はゲーム世界。
いずれにせよ、わからない以上はどうすることもできませんが。
気持ちを切り替えていきましょう。
(長老さんは私の言葉を理解してくれますが……長々と質問するのは怖いですね)
「はい」か「いいえ」の質問しか有効でない以上、質問はよく考える必要があります。
いくらそれしかないとはいえ、あのいかにも強大な長老さんに長く質問し続けるのは、ちょっと躊躇われます。
なるべく必要なことを簡潔に、出来れば短時間で済ませる必要があります。
リューさんの目的が何かをはっきりさせるのは、「はい」か「いいえ」の質問だけでは難しいでしょう。
徐々に絞り込んで行けば出来なくはないと思いますが、見当違いの方向に質問をしてしまうと、相当な手間暇が予想されます。
(長老みたいなドラゴンですし、そう気が短いとは思いませんが……苛立たせたら怖すぎますからね……)
理由を聞くには、一方通行ではなく、会話が成り立つようにしなければなりません。
妖精やドラゴンの言葉が、私に聞こえない理由はわかりません。
その理由を明らかにするためにも、人間の街に行く必要があります。
少なくとも人間の言葉は意味がわからないなりに聞こえてはいるのですから、最悪でも時間をかければ言葉を交わせるようになるはずです。
まずはそれを説明し、人間の街に連れていってもらうべきでしょう。
(どんな質問をし、どうやって話を持っていくか……しっかり想定してから、いきましょう)
私はそう考え、長老さんとの対話に備えるのでした。
瞼を開けているはずなのに、何も見えません。
何か軟らかいものの上に仰向けに寝かされているみたいです。
身体の感覚からすると、何かの草が身体の下に敷かれているようです。
(……ん。さっきの夢のことをしっかり覚えてますね)
私はどちらかというと夢から覚めると、みていた夢の内容を忘れてしまう方です。
しかしいまははっきりと白いローブの人のことが思い出せますし、話していた内容もしっかり覚えています。
普通の夢で無かったことは確かです。
夢で得た情報が確かなものか、現実で擦り合わせる必要はありますが、ひとまずこの世界で得た情報のひとつとして考えていいでしょう。
(さて、それはさておき……ここはどこでしょう?)
手を顔の前に持ち上げてみました。
しかし、すぐそこにあるはずの手は全く見えませんでした。完全な暗闇のようです。
耳を澄ましてみましたが、ほとんど音が聞こえません。
風鳴りのような音がかすかにしています。
(……あの洞窟の一角に寝かされているんでしょうか?)
周りが全く見えないのに動くのは危険ですが、とりあえず可能な限り動いてみることにしましょう。
そう考えて寝かされていた身体を起こした時、近くに光源が発生しました。
明るくなったのはいいのですが、暗闇に慣れた目には眩しすぎます。
思わず顔を手で庇いつつ、見えるようになった周囲を認識していきます。
そこは洞窟でした。広い空洞――といっても長老さんのいたドーム何個分もありそうな広さとは全く違いますが、体育館くらいの広さはありそうです。
私はその空洞の隅で、なぜか生えている草の上で寝ていたようです。
小さく軟らかい葉っぱが、無数に生え茂っています。
複雑に生え茂ったそれは、身体の感覚で感じてはいましたがとても軟らかく、寝心地は悪くありませんでした。
それは四つ葉のクローバーに似た草で、普通は洞窟に生えるような草には見えません。
なのになぜ都合良くここに生えているのか――その答えは光源を手にしている存在が、全てでした。
「ヨウ、さん……!?」
半身を起こしている私の傍に、ヨウさんが座っていました。
ヨウさんは穏やかな表情で笑っていて、思わず見惚れる美しさでした。
神々しい裸身も相成って、妖精というよりは女神に見えます。
そんなヨウさんを見て、自分が腰布一丁の格好であることを思い出し、慌てて両手で胸を隠しつつ、私はヨウさんに問いかけます。
「な、なんでヨウさんがまだいるんですか!? 森に帰してもらえなかったのですか!?」
眠りにつく前、私は確かに「ヨウさんを元いた森に帰してあげてください」とリューさんにお願いしたはずです。
長老さんが私の言葉を翻訳できる以上、通じていなかったということはないはずです。
どうして、という思いを込めて叫びましたが、ヨウさんは困ったように笑うだけでした。
ヨウさんの穏やかな様子に、気が抜けてしまいます。
(何らかの理由でリューさんに残るように強制されたとして……こんなに自然体でいられるでしょうか?)
ヨウさんがリューさんや他のドラゴンたち、長老さんを半端なく怖がっていたことは明らかです。
あの青ざめた表情や震えていた態度は嘘では無いでしょう。
周りに彼らがいないからかもしれませんが、それにしても穏やかに見えます。
(……もしかして、私が彼女に感謝しているのがハッキリして、リューさんたちに危害が加えられる可能性が減った、とか?)
リューさんがどういう理由で私に執着しているかはまだ不明ですが、少なくとも何らかの目的があるわけです。
その目的を果たすために、悪感情を抱かれると不都合があるとして。
それはつまり、私がヨウさんに感謝しているのですから、そのヨウさんに危害を加えれば、私からの印象が悪くなるということです。
それがハッキリした以上、リューさんはヨウさんを害することが出来ないということになります。
だからヨウさんに少し余裕があるのかもしれません。
(でもどうして残ってくれたんでしょう……?)
そんなことを考えてしまいます。
確かに私と一緒にいれば、リューさんやそのリューさんに一目置いているらしい他のドラゴンたちにに危害を加えられることはないかもしれません。
しかし、それなら森に帰った方が、より安全なはずなのです。
いくら私からの印象があるといっても、それで完全に安全であるとは言えません。
いつリューさんの気が変わるかもしれませんし、あくまでヨウさんは巻き込まれただけの存在なのですから。
(ヨウさんは長老さんのように私の言葉がわかるようにはなっていないみたいですし、聞くのは難しそうですね……)
ヨウさんが無理している様子はいまのところないですし、ひとまずその謎は置いておきます。いずれにせよ、ヨウさんが傍にいてくれること自体はありがたいわけですし。
下手に藪を突く必要はないのですから。
意味は通じないでしょうけど、御礼だけは言っておきましょう。
「一緒にいてくださって、ありがとうございます」
私はヨウさんに笑顔を向けてから、改めて状況を整理します。
現在いる空洞は、歪曲しながら遠くまで続いているのがわかります。恐らくそちらに向かえば外にでられるのでしょう。
幸いにしてこの部屋は行き止まりのようなので方向に迷うことはありませんでした。
(外に出てみましょうか……いえ、焦ることはありません。リューさんもいませんし……まずは、と)
改めて自分の状態を確認します。
怪我などはしていませんし、痛むところもありません。
少しお腹は空いてきましたが、まだ我慢できるレベルです。
腰布状態になったバスタオルは、少し回復していました。いまならおへその上までくらいは隠せそうです。
けれど胸と股間の両方を隠すにはまだ丈が足りないので、今しばらくは腰布状態が続きそうです。
(少し長くなったおかげで、下半身はだいぶマシですね)
いままでがミニスカートだとすると、普通のスカート丈くらいにはなっています。
いまだ胸は手で隠さなければなりませんが、下半身の安心さが違うとこちらの気持ちもだいぶ違います。
さて次に。私は人間の街から持ってきた荷物に手を伸ばします。落としてしまっていましたが、ヨウさんがここに持って来てくれていたようです。
適当に詰め込んで来てしまったので、改めて中身の確認をしておきましょう。
(何か役立つものがあれば良いのですが……)
片手で胸を隠しながら、片手を使って袋の中からアイテムを取りだしていきます。
片手だと結構手間取るのですが、ヨウさんが興味深そうにこちらをじっと見つめているので、片手を胸から離すことができませんでした。
いくらヨウさん自身が全裸であると言っても、注目されて恥ずかしいのは仕方ないのです。気にしないように努めつつ、所持品を並べていきます。
(えーと、まずは読めないですけど本が数冊、お皿、コップ、インクはありませんがペン、雑巾のような布きれに……何かの瓶詰め、それとこれは……お守り、でしょうか?)
落とした時に割れてしまったのか、お皿はヒビが入っていました。コップと何かの瓶詰めは無事なようです。
ペンはインクがないとはいえ、インクの代用が聞くものは自然界にもあるでしょう。まあ、そもそも自然界にあるものでペン自体の代用も利きますけど。
最後のよくわからない形状のそれがお守りだと感じたのは、ペンダントのように紐に通してあって、首から掛けられるようになっていたからです。
ですが、細かな意匠があるわけではなく、いまひとつ何を模しているのかわからないものでした。
(ただのペンダント、という可能性もありますね。……それにしても、見事に役に立ちそうなものがないです)
強いて言うなら本くらいですが、解読出来ないというのは街で見たときと同じです。
落ち着いて見てみれば何かわかるかと思いましたが、やはり解読するにはあまりに難解な文字でした。
もうひとつ役に立ちそうなのは何かの瓶詰めなのですが、中身が何かわからない限りこれも使いようがありません。
ポーションとかだと嬉しいのですが、適当に持ってきたものがそうである可能性は少なそうです。
(あとはペンダント、ですかね……さすがにこれを着けてバスタオルが爆発することはない、と思いたいですが……)
いまのうちに試しておくべきでしょうか。
私は恐る恐る、そのペンダントを首にかけてみます。
何もおきませんでした。それがバスタオルの拒絶範囲外の品物だったからか、それとも単にバスタオルに被さっていないためかは定かではありません。
結局、判断は保留とした方がよさそうです。
(もしペンダントが装着可能なら……最悪胸を隠すのにそういう形状のペンダントを身に付ければ……いや、どんな変態かって話になりますよね)
一瞬想像しかけて、どう考えても痴女にしかならなかったので思考を放棄しました。
ペンダントは一端首から外して、他のものとまとめて袋の中にしまっておきます。
袋を地面に置きつつ、この荷物をここに置いておくべきか持ち歩くべきか悩みました。
下手すると置き去りにする可能性もありますし、出来るなら常に持っておきたいですが、そうなると手が塞がってしまいます。
(アイテムボックスとか、便利な魔法があればいいんですが……)
無限に収納できるアイテムボックスとか、物語なら誰でも持っているんですけどね。
この世界でそれを期待することはできないでしょう。
あるとしても、何らかのアイテムを用いたり、ちゃんとした魔法として唱えなければならないと思われます。
でも、そういえば、ダンジョン内で腕輪を身に付けていた時は、それを用いていかにもな画面が展開されましたね。書いてある字が読めずに意味がありませんでしたけど。
(あれだけ妙にゲームっぽかったのはなんでなんでしょう?)
いくつか理由は考えられます。
ひとつ、単なる偶然。ふたつ、この世界の者が知らないだけで転生者や転移者がいる。みっつ、この世界は本当はゲーム世界。
いずれにせよ、わからない以上はどうすることもできませんが。
気持ちを切り替えていきましょう。
(長老さんは私の言葉を理解してくれますが……長々と質問するのは怖いですね)
「はい」か「いいえ」の質問しか有効でない以上、質問はよく考える必要があります。
いくらそれしかないとはいえ、あのいかにも強大な長老さんに長く質問し続けるのは、ちょっと躊躇われます。
なるべく必要なことを簡潔に、出来れば短時間で済ませる必要があります。
リューさんの目的が何かをはっきりさせるのは、「はい」か「いいえ」の質問だけでは難しいでしょう。
徐々に絞り込んで行けば出来なくはないと思いますが、見当違いの方向に質問をしてしまうと、相当な手間暇が予想されます。
(長老みたいなドラゴンですし、そう気が短いとは思いませんが……苛立たせたら怖すぎますからね……)
理由を聞くには、一方通行ではなく、会話が成り立つようにしなければなりません。
妖精やドラゴンの言葉が、私に聞こえない理由はわかりません。
その理由を明らかにするためにも、人間の街に行く必要があります。
少なくとも人間の言葉は意味がわからないなりに聞こえてはいるのですから、最悪でも時間をかければ言葉を交わせるようになるはずです。
まずはそれを説明し、人間の街に連れていってもらうべきでしょう。
(どんな質問をし、どうやって話を持っていくか……しっかり想定してから、いきましょう)
私はそう考え、長老さんとの対話に備えるのでした。
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