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執着
手に入れたいと願う花 2 ★
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「父がぜひ、殿下も我が領地へのご視察にと申してますの。もちろんわたくしも、できる限り心を尽くしたおもてなしをさせていただきますし、どうぞご検討下さいませ」
「陛下に相談しておくよ」
熱心なベルリアナにアドルフォードはやはり上辺だけの笑顔で答える。
彼女には悪いが、視察はおろか父である国王に相談すらしたいとも思わない。
要は領地へ遊びに来てほしいという誘いなのだ。ブレアドール侯爵家の地位を鑑みればある程度親しくする必要はあるにしろ、個人的にはあまり関わりたくはなかった。
視線を感じて目を向けるとフィオレンツィアと目が合う。
そうしたことに何らかの意図があったわけではない。
ただほんの気まぐれに周囲の目を盗んでは視線を重ね、秘密だとでも言うように唇の前に人差し指を当ててみせると彼女は小さく頷いた。
一瞬だけ見せたその大人びた表情にアドルフォードは目が離せなくなった。
同じテーブルについて笑いながら話している子供たちが羨ましくて仕方ない。話しかけたかったが、今さら理由もなしに話しかけたら、アドルフォードの機嫌を取るのに必死なハイエナたちにあの子が睨まれるかもしれないと思うとできなかった。
ただでさえ気が乗らなかった場が、ますます気が乗らないものになる。だけど帰ったらあの子との時間も終わってしまう。
いいから、こっちを向いて。
もっとたくさん二人だけの秘密の時間を共有しよう。
時折、遠慮がちに向けられる視線を逃さず、アドルフォードはこの時点ですでにもう、フィオレンツィアと重ねる”二人だけの秘密”に溺れはじめていた。
また会いたくなって、お茶会からさほどの間を開けず家に向かう。
さほど王家と深い親交のあるでもない伯爵家の令嬢を、王太子である自分が特別扱いすることは褒められたものではない。
それでも、彼女に会えばそんな気持ちは吹き飛んだ。
お兄様は物知りだなんて無邪気に言うから、もっと色々と教えたくなった。
フィオレンツィアにとってたった一人の"特別"な存在になりたくて、他の誰にも「フィオレア」と呼ばせてはいけないと約束させた。
公に特別な存在としてしまえばフィオレンツィアをどれだけ特別扱いをしようと、小うるさいだけのハイエナは彼女に手出しできない。
そうしてアドルフォードのものだけになったフィオレンツィアは、その裏に隠された真っ黒な欲望に何ら気がつくこともなかった。無垢なまま"お兄様"と慕い続けてくれた。
美しく成長しながらも警戒心を抱きもせず素直に懐く少女を、自分が思うままの色に染めたくなる。どんどん彼女の中を浸食して、やがて最も奥深い場所にアドルフォードだけが入れるようになったら、どれだけ気持ちが良いだろうか。
「殿下。くれぐれも――くれぐれも、ですね」
初めてフィオレンツィアに会いに行った時、彼女の父親であるマルチェリオ伯爵は苦々しい面持ちで念を押した。
もっとも、まだ八歳の娘を持つ伯爵はそこまで考えてはおらず、娘を取られるかもしれないことへの牽制だったのだろうが。
十二歳になった辺りから、父親のような年の家臣たちに口酸っぱく日々言われるようになった。
「くれぐれも、ご成婚なさるまで御子を設けませんよう」
アドルフォードは王太子だ。たとえそれがいずれ正妃となる令嬢だったとしても、結婚前に後継ぎができては問題になるらしい。
小難しい理屈を並べ立てたところで、要は一時の情欲に流されて王家の正当な血を引く子供を考えなしに作られては困るというのが大人たちの言い分だった。いかに彼らには十二歳の若僧に見えようと、その言い分が正しいと理解出来ないほど無能なつもりもない。
ただフィオレンツィア以外はいらなかったから、本来ならありがたいものであるはずのご注進は何の役にも立たなかった。
フィオレンツィアが結婚前に身籠ったとして、それはそれで構わないと思っている。結果、肉欲に溺れた王太子などと悪評が立とうが事実だからどうでもいい。
しかし実際は、より立場の弱いフィオレンツィアに矛先が向けられるだろう。アドルフォードの行動のしわ寄せが彼女に行くのなら話は別だ。
だから一応は彼らの顔を立て、"秘密の口づけ"をするだけに留めた。
立派な王太子であろうと努めても、身体は至って健康な男だ。やがて精通を迎え、柔らかな丸みを帯びはじめるフィオレンツィアの身体に欲情を覚えた。その肌に直接触れたくなった。
互いの成長と共に劣情もアドルフォードの内で育って行く。
フィオレンツィアの中に挿れたい。
けれど彼女と結婚するまで叶えられることのない欲望は必死で押し殺し、おくびにも出さなかった。
自らに燻る欲望は自らで事務的に処理した。フィオレンツィア以外を抱きたいとは思わないし、そもそもが勃つとも思えなかった。フィオレンツィア以外に触れた手でフィオレンツィアに触れるのは、彼女だけでなく自分自身にも最悪の裏切りだ。
抱けるのなら誰でも良いわけじゃない。
あの可愛らしい"小さな花"だけを手折りたいのだ。
初めて会ったお茶会で、自分の為に摘み取れなかった時からずっと。
「陛下に相談しておくよ」
熱心なベルリアナにアドルフォードはやはり上辺だけの笑顔で答える。
彼女には悪いが、視察はおろか父である国王に相談すらしたいとも思わない。
要は領地へ遊びに来てほしいという誘いなのだ。ブレアドール侯爵家の地位を鑑みればある程度親しくする必要はあるにしろ、個人的にはあまり関わりたくはなかった。
視線を感じて目を向けるとフィオレンツィアと目が合う。
そうしたことに何らかの意図があったわけではない。
ただほんの気まぐれに周囲の目を盗んでは視線を重ね、秘密だとでも言うように唇の前に人差し指を当ててみせると彼女は小さく頷いた。
一瞬だけ見せたその大人びた表情にアドルフォードは目が離せなくなった。
同じテーブルについて笑いながら話している子供たちが羨ましくて仕方ない。話しかけたかったが、今さら理由もなしに話しかけたら、アドルフォードの機嫌を取るのに必死なハイエナたちにあの子が睨まれるかもしれないと思うとできなかった。
ただでさえ気が乗らなかった場が、ますます気が乗らないものになる。だけど帰ったらあの子との時間も終わってしまう。
いいから、こっちを向いて。
もっとたくさん二人だけの秘密の時間を共有しよう。
時折、遠慮がちに向けられる視線を逃さず、アドルフォードはこの時点ですでにもう、フィオレンツィアと重ねる”二人だけの秘密”に溺れはじめていた。
また会いたくなって、お茶会からさほどの間を開けず家に向かう。
さほど王家と深い親交のあるでもない伯爵家の令嬢を、王太子である自分が特別扱いすることは褒められたものではない。
それでも、彼女に会えばそんな気持ちは吹き飛んだ。
お兄様は物知りだなんて無邪気に言うから、もっと色々と教えたくなった。
フィオレンツィアにとってたった一人の"特別"な存在になりたくて、他の誰にも「フィオレア」と呼ばせてはいけないと約束させた。
公に特別な存在としてしまえばフィオレンツィアをどれだけ特別扱いをしようと、小うるさいだけのハイエナは彼女に手出しできない。
そうしてアドルフォードのものだけになったフィオレンツィアは、その裏に隠された真っ黒な欲望に何ら気がつくこともなかった。無垢なまま"お兄様"と慕い続けてくれた。
美しく成長しながらも警戒心を抱きもせず素直に懐く少女を、自分が思うままの色に染めたくなる。どんどん彼女の中を浸食して、やがて最も奥深い場所にアドルフォードだけが入れるようになったら、どれだけ気持ちが良いだろうか。
「殿下。くれぐれも――くれぐれも、ですね」
初めてフィオレンツィアに会いに行った時、彼女の父親であるマルチェリオ伯爵は苦々しい面持ちで念を押した。
もっとも、まだ八歳の娘を持つ伯爵はそこまで考えてはおらず、娘を取られるかもしれないことへの牽制だったのだろうが。
十二歳になった辺りから、父親のような年の家臣たちに口酸っぱく日々言われるようになった。
「くれぐれも、ご成婚なさるまで御子を設けませんよう」
アドルフォードは王太子だ。たとえそれがいずれ正妃となる令嬢だったとしても、結婚前に後継ぎができては問題になるらしい。
小難しい理屈を並べ立てたところで、要は一時の情欲に流されて王家の正当な血を引く子供を考えなしに作られては困るというのが大人たちの言い分だった。いかに彼らには十二歳の若僧に見えようと、その言い分が正しいと理解出来ないほど無能なつもりもない。
ただフィオレンツィア以外はいらなかったから、本来ならありがたいものであるはずのご注進は何の役にも立たなかった。
フィオレンツィアが結婚前に身籠ったとして、それはそれで構わないと思っている。結果、肉欲に溺れた王太子などと悪評が立とうが事実だからどうでもいい。
しかし実際は、より立場の弱いフィオレンツィアに矛先が向けられるだろう。アドルフォードの行動のしわ寄せが彼女に行くのなら話は別だ。
だから一応は彼らの顔を立て、"秘密の口づけ"をするだけに留めた。
立派な王太子であろうと努めても、身体は至って健康な男だ。やがて精通を迎え、柔らかな丸みを帯びはじめるフィオレンツィアの身体に欲情を覚えた。その肌に直接触れたくなった。
互いの成長と共に劣情もアドルフォードの内で育って行く。
フィオレンツィアの中に挿れたい。
けれど彼女と結婚するまで叶えられることのない欲望は必死で押し殺し、おくびにも出さなかった。
自らに燻る欲望は自らで事務的に処理した。フィオレンツィア以外を抱きたいとは思わないし、そもそもが勃つとも思えなかった。フィオレンツィア以外に触れた手でフィオレンツィアに触れるのは、彼女だけでなく自分自身にも最悪の裏切りだ。
抱けるのなら誰でも良いわけじゃない。
あの可愛らしい"小さな花"だけを手折りたいのだ。
初めて会ったお茶会で、自分の為に摘み取れなかった時からずっと。
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