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執着

手に入れたいと願う花 1  ★

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「僕の家は位こそ伯爵位ですが、優秀な文官を多数輩出していると自負しております。そしてこの僕も、いずれは殿下の下で必ずやお力となれる日が来ると信じ、疑ってはおりません」
「それはずいぶん頼もしいね。期待してるよ」

 あくまでも儀礼的な笑顔を貼りつけ、アドルフォードは心の全くこもってない言葉を返した。

 すでに何度、同じようなやりとりを繰り返しているだろう。
 "王太子アドルフォード殿下と年の近い子女の集いの場"などいう、上辺だけのやりとりの為に自らの時間を費やしている。

 どうせ、真に有能で国益へと繋がるような存在はアドルフォードが何もせずとも、大人たちが威信と矜持をかけて連れて来るのだ。友人にしたって興味を引く相手がいたら自分から接触の機会を作る。だからこんな茶番は無駄な時間でしかない。

 しかしそれでも、いずれ自分が国王となって円滑な施政を執り行う為には、無駄としか思えないことも時として必要なものではある。この場でアドルフォードがするべきことは、人当たりの良い笑みを浮かべて時間を消化することだけだ。

 そんな気持ちで挨拶に列をなす貴族子女たちの対応をしていると、一人の少女が父親らしき紳士に促されて目の前に立った。

「は、初めまして。本日は王太子殿下にお目通りできましてとても光栄に存じます。マルチェリオ伯爵家長女、フィオレンツィアにございます」

 ちらりと確認すると彼女の後ろには誰もいない。長く単調な挨拶も、これでようやく最後のようだ。待っている間にずっと気を張り詰めさせていたのか、ひどく緊張した様子で少女はアドルフォードに頭を下げる。

 年は自分より少し下だろう。それを差し引いてもやや小柄で、この場に集められた子供たちの中でもいちばん年下なのではないかと思わせた。
 意図されたものなのか、名前の中に"小さな花"の意を含んでいる。そこに気がついて改めて彼女を見やると、雰囲気とよく似合っている気がした。

 何故だか二人だけの秘密にしたくて耳打ちで教えれば、瑞々しい若木を彩る葉のような明るい緑色に輝く大きな目をさらに見開く。それから柔らかそうな白い頬をほのかに赤く染めた。

 異性のそんな反応などアドルフォードには何ら珍しくない。でもフィオレンツィアの反応はアドルフォードの心を波打たせた。
 アドルフォードだけを見つめる瞳に得も言われぬ高揚感を覚えながら、さりげなく彼女の様子を窺う。

 他の令嬢は見栄えよくする為に髪を巻いているが、フィオレンツィアは巻髪にしてはいなかった。
 純金を限界まで細く加工したかのような髪は腰の辺りまでまっすぐに伸び、彼女が動く度になめらかに揺れる。清廉な川の流れにも似て、その心地良さそうな髪に触れてみたくなった。

 小さくて、色素が薄いせいなのか、ひどく儚げな存在に見える。
 ちゃんと捕まえていないと、ふとした弾みで消えてしまうかもしれない。
 そんな焦燥感にも似た感情が、ふいに胸中をよぎった。

「殿下、皆のご挨拶も済みましたでしょう? こちらでぜひお話をお聞かせ下さいませ」

 文字通りの、ひっそりと控えめに咲く綺麗な花を手折る時のように手を伸ばそうとした時、冷ややかな声が降って来た。
 ブレアドール侯爵家のベルリアナだ。
 すでに既知の間柄であり、招待する子女たちの中に彼女の名はなかった。それが派閥や権力といった諸々の理由によって、娘が招待されないのはおかしいと彼女を溺愛する父親のブレアドール侯爵から猛抗議を受けたのだ。アドルフォードもこの場に期待してはいなかったから何も考えず許可を出したのだが、早まったかもしれない。

 ベルリアナに負けじと取り囲んで来る子女たちの向こう。はじらいで淡く頬を染めていたフィオレンツィアが一転して顔色を失くし、寂しそうにしているのが見えた。

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