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隠しておくつもりもなかったので正直に答えると、ますます怪訝そうな顔をした。
いけない。秘密裏に開発していた物の存在をルーファスが知るはずもないのだ。実はこっそりと突き止めて知られていたというのならそれはそれで嬉しいけれど、当たり前の知識として話したところで伝わるわけがない。自己満足から説明不足になっていたことは否めず、レティーナは言葉を続けた。
「女性の乳……ええと、胸を吸いたくてたまらなくなる薬です」
薬品名の一部とは言え、乳と表現するのはさすがに貴族令嬢として羞恥を覚えて訂正する。
効果の説明としてはこれ以上なく分かりやすかったはずだ。けれどルーファスの表情は少しも和らぐことはなかった。
何故、と考えて納得する。ルーファスは自分の身体で人体実験されるのではないかと危惧しているのだ。すでに安全性は確認されていることをしっかりと説明しなくては。未知の薬を飲んでもらう時は必ず効用について説明する義務があると学園でも習った。
「こちらはさすがにわたくし自身で実験はできませんでしたけど、ちゃんと効果があることは確認されておりますの。ですから殿下も――」
「効果が、ある?」
「え、ええ」
説明を遮って発せられた、絞り出すような低い声に押されながらも頷く。
「すでに誰かが飲んで、効果が確認されたと?」
「もちろんです」
「僕以外の誰に飲ませたんだ」
「それは被験者のプライバシーに関わることですから、いかに殿下相手でもお答えできませんわ」
どんな薬にしても、いざどんな効果が出るのかは人の身体で試さなければいけない。
けれどこの薬に関しては、安全性と確実性を最優先して効果範囲を最小限にまで抑えている。『魔力を注いだ人物が効果を発揮させたい相手に手渡しするか直接飲ませる』という、二つの条件を満たさなければいけない。
故にレティーナはルーファスに治験してもらわなければならず、そんなことは到底不可能だった。故にできるのは魔草の持つ効果を理論的に組み合わせて調合することだけだ。
善意の協力者の存在が必要不可欠であり、そして今回は恋人との関係にマンネリを感じているという研究室仲間が協力を申し出てくれた。
空腹を覚えながらも母親の乳を吸おうとしない赤ちゃんに何とか吸わせたいという悩みが、開発に至る発端だった。彼女はまさかレティーナが王太子相手に服用させたいと考えているなどとは夢にも思ってもいない。
レティーナは、その不純な動機から母子の悩み解決にかなり貢献しているのだ。
――経緯は何であれ、治験者の情報を外部に漏らすわけには決していかない。
「僕には答えられないのか」
「申し訳ありません。治験に関する規則ですから」
謝罪しながらもレティーナは混乱しはじめていた。
ルーファスが怒りの感情を示している。
それは無理もない。
信用したのに裏切られて怪しい薬を飲まされたと知って怒らない人間はいない。でも、ルーファスは自分が飲んだことではなく、過去にも誰かが飲んだことに怒っているように見える。
(殿下は臣民思いの方だから、薬の副反応に苦しんだりした人物がいないか心配していらっしゃるのだわ)
短時間で考えた末にそう結論づけたレティーナはルーファスの心配と、新しい魔草薬への不安を払拭するべく口を開いた。
「で、でも、その方に副反応は現れませんでしたから。今も健康を害することなく元気に過ごしておりますわ」
「今も元気に……?」
魔草薬自体は基本的に安全だと伝えても、なおも彼の眉間に刻まれた皺は消えない。それどころか険しさが増したような気がする。
「それはどこの誰なんだ。誰が君の……飲んで」
そして、やはり王族のルーファスは高い耐性を持っているのか、激しい怒りによるせいか薬の効きが悪いようだ。そのことにレティーナはどこか安堵するも、治験者については頑なに無言を貫いた。
「――はあ……」
先に折れたのはルーファスだった。深いため息を吐くと共にレティーナを見やる。
「人の気も知らずに君がそこまでして吸われたいのであれば、いくらでも吸ってあげるよ」
「え……」
言うが否やルーファスはレティーナの右手首を掴み、ベッドに引き倒した。逃がさないよう馬乗りの姿勢を取り、左手だけでレティーナの両手首を一纏めにしてシーツに強く押しつける。
「で、ん……」
「僕に胸を吸って欲しいんだろう? だから胸を出しやすいように、前開きのドレスを着ているんじゃないのか」
そう言って研究員に支給されている白衣を元にしたドレスの前ボタンを一つずつ外しはじめた。
ルーファスの言うことは事実だ。
せっかくの機会を得た時にもたついて気が変わられるのを避ける為、胸を出しやすいデザインのものを着ていた。
曝け出されたふくらみをやわやわと揉まれ、レティーナの腰の辺りに何かが堆く積もって行く。
よこしまな計算やふしだらな気持ちなんてなく、誰よりも早く大人にならざるをえなかったルーファスを子供のように甘えさせたかっただけなのに、淫らな熱が下腹部に帯びた。
ルーファスのせいにしてはいけないのかもしれない。
でも、触れる手の熱に切なくなる。
「あ、の……」
「なに?」
「む、胸を……も、揉まない、で……下さ……」
「どうして? ミルクが出ると思って吸って欲しいって言ったのは君の方だろう? そもそも牛の乳は搾って出すものだ」
「ミルクなんて出ないの、分かっていらっしゃるくせにぃ……」
思わず非難じみた声をあげる。
ルーファスは怒るどころか柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「牛コースはお気に召さない? じゃあ、豚コースに変えようか」
「え」
ルーファスはレティーナの手首を解放すると同時にふくらみを中心に寄せ、慎ましやかに頂上を彩る薄桃色の尖りを熱く濡れた口腔内に含んだ。
「ぁ……っ!」
じゅぅ、と吸われた瞬間、レティーナの背筋に鋭い感覚が駆け抜けて行く。
腰がもじもじと揺れた。求めていたのはこれじゃない。そう察知して逃げようともがくも、ルーファスに押さえつけられた身体はびくともしなかった。
「だめ、殿下……」
「僕が君の胸を吸っている姿を見たくてたまらなかったんじゃないのか? だから好きなだけ見せてあげると言ってるんだ。目を背けるのは許さないよ」
ずっと、そうして欲しいと思っていた。
念願叶ったのに、けれどレティーナは初めて知る感覚に戸惑いを隠せなかった。
「こんなに乳首を硬く尖らせて、君は君で催淫効果のある薬を飲んだ?」
ルーファスは興味深そうに指先で乳首を突く。
その度にレティーナの身体に鋭い刺激が広がって、あがりそうになる声を懸命に抑え込んだ。けれど吐息でさえ熱を帯びはじめ、止められない。
「ちが……っ」
「じゃあ気持ち良くて感じてくれているってことかな。せっかくだから鶏コースもやってみようか」
「あ、あの」
鶏ということは、先程持って来た真珠を入れられてしまうのだろうか。
レティーナの困惑をよそに、ルーファスは乳首を唇で食みながら舌先でつついた。
いけない。秘密裏に開発していた物の存在をルーファスが知るはずもないのだ。実はこっそりと突き止めて知られていたというのならそれはそれで嬉しいけれど、当たり前の知識として話したところで伝わるわけがない。自己満足から説明不足になっていたことは否めず、レティーナは言葉を続けた。
「女性の乳……ええと、胸を吸いたくてたまらなくなる薬です」
薬品名の一部とは言え、乳と表現するのはさすがに貴族令嬢として羞恥を覚えて訂正する。
効果の説明としてはこれ以上なく分かりやすかったはずだ。けれどルーファスの表情は少しも和らぐことはなかった。
何故、と考えて納得する。ルーファスは自分の身体で人体実験されるのではないかと危惧しているのだ。すでに安全性は確認されていることをしっかりと説明しなくては。未知の薬を飲んでもらう時は必ず効用について説明する義務があると学園でも習った。
「こちらはさすがにわたくし自身で実験はできませんでしたけど、ちゃんと効果があることは確認されておりますの。ですから殿下も――」
「効果が、ある?」
「え、ええ」
説明を遮って発せられた、絞り出すような低い声に押されながらも頷く。
「すでに誰かが飲んで、効果が確認されたと?」
「もちろんです」
「僕以外の誰に飲ませたんだ」
「それは被験者のプライバシーに関わることですから、いかに殿下相手でもお答えできませんわ」
どんな薬にしても、いざどんな効果が出るのかは人の身体で試さなければいけない。
けれどこの薬に関しては、安全性と確実性を最優先して効果範囲を最小限にまで抑えている。『魔力を注いだ人物が効果を発揮させたい相手に手渡しするか直接飲ませる』という、二つの条件を満たさなければいけない。
故にレティーナはルーファスに治験してもらわなければならず、そんなことは到底不可能だった。故にできるのは魔草の持つ効果を理論的に組み合わせて調合することだけだ。
善意の協力者の存在が必要不可欠であり、そして今回は恋人との関係にマンネリを感じているという研究室仲間が協力を申し出てくれた。
空腹を覚えながらも母親の乳を吸おうとしない赤ちゃんに何とか吸わせたいという悩みが、開発に至る発端だった。彼女はまさかレティーナが王太子相手に服用させたいと考えているなどとは夢にも思ってもいない。
レティーナは、その不純な動機から母子の悩み解決にかなり貢献しているのだ。
――経緯は何であれ、治験者の情報を外部に漏らすわけには決していかない。
「僕には答えられないのか」
「申し訳ありません。治験に関する規則ですから」
謝罪しながらもレティーナは混乱しはじめていた。
ルーファスが怒りの感情を示している。
それは無理もない。
信用したのに裏切られて怪しい薬を飲まされたと知って怒らない人間はいない。でも、ルーファスは自分が飲んだことではなく、過去にも誰かが飲んだことに怒っているように見える。
(殿下は臣民思いの方だから、薬の副反応に苦しんだりした人物がいないか心配していらっしゃるのだわ)
短時間で考えた末にそう結論づけたレティーナはルーファスの心配と、新しい魔草薬への不安を払拭するべく口を開いた。
「で、でも、その方に副反応は現れませんでしたから。今も健康を害することなく元気に過ごしておりますわ」
「今も元気に……?」
魔草薬自体は基本的に安全だと伝えても、なおも彼の眉間に刻まれた皺は消えない。それどころか険しさが増したような気がする。
「それはどこの誰なんだ。誰が君の……飲んで」
そして、やはり王族のルーファスは高い耐性を持っているのか、激しい怒りによるせいか薬の効きが悪いようだ。そのことにレティーナはどこか安堵するも、治験者については頑なに無言を貫いた。
「――はあ……」
先に折れたのはルーファスだった。深いため息を吐くと共にレティーナを見やる。
「人の気も知らずに君がそこまでして吸われたいのであれば、いくらでも吸ってあげるよ」
「え……」
言うが否やルーファスはレティーナの右手首を掴み、ベッドに引き倒した。逃がさないよう馬乗りの姿勢を取り、左手だけでレティーナの両手首を一纏めにしてシーツに強く押しつける。
「で、ん……」
「僕に胸を吸って欲しいんだろう? だから胸を出しやすいように、前開きのドレスを着ているんじゃないのか」
そう言って研究員に支給されている白衣を元にしたドレスの前ボタンを一つずつ外しはじめた。
ルーファスの言うことは事実だ。
せっかくの機会を得た時にもたついて気が変わられるのを避ける為、胸を出しやすいデザインのものを着ていた。
曝け出されたふくらみをやわやわと揉まれ、レティーナの腰の辺りに何かが堆く積もって行く。
よこしまな計算やふしだらな気持ちなんてなく、誰よりも早く大人にならざるをえなかったルーファスを子供のように甘えさせたかっただけなのに、淫らな熱が下腹部に帯びた。
ルーファスのせいにしてはいけないのかもしれない。
でも、触れる手の熱に切なくなる。
「あ、の……」
「なに?」
「む、胸を……も、揉まない、で……下さ……」
「どうして? ミルクが出ると思って吸って欲しいって言ったのは君の方だろう? そもそも牛の乳は搾って出すものだ」
「ミルクなんて出ないの、分かっていらっしゃるくせにぃ……」
思わず非難じみた声をあげる。
ルーファスは怒るどころか柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「牛コースはお気に召さない? じゃあ、豚コースに変えようか」
「え」
ルーファスはレティーナの手首を解放すると同時にふくらみを中心に寄せ、慎ましやかに頂上を彩る薄桃色の尖りを熱く濡れた口腔内に含んだ。
「ぁ……っ!」
じゅぅ、と吸われた瞬間、レティーナの背筋に鋭い感覚が駆け抜けて行く。
腰がもじもじと揺れた。求めていたのはこれじゃない。そう察知して逃げようともがくも、ルーファスに押さえつけられた身体はびくともしなかった。
「だめ、殿下……」
「僕が君の胸を吸っている姿を見たくてたまらなかったんじゃないのか? だから好きなだけ見せてあげると言ってるんだ。目を背けるのは許さないよ」
ずっと、そうして欲しいと思っていた。
念願叶ったのに、けれどレティーナは初めて知る感覚に戸惑いを隠せなかった。
「こんなに乳首を硬く尖らせて、君は君で催淫効果のある薬を飲んだ?」
ルーファスは興味深そうに指先で乳首を突く。
その度にレティーナの身体に鋭い刺激が広がって、あがりそうになる声を懸命に抑え込んだ。けれど吐息でさえ熱を帯びはじめ、止められない。
「ちが……っ」
「じゃあ気持ち良くて感じてくれているってことかな。せっかくだから鶏コースもやってみようか」
「あ、あの」
鶏ということは、先程持って来た真珠を入れられてしまうのだろうか。
レティーナの困惑をよそに、ルーファスは乳首を唇で食みながら舌先でつついた。
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