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甘い疼き ☆

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「遅くまでお疲れ様でした、アルバート様」
「ただいま戻りました、リジィ」

 夜、遅めの時間に戻って湯浴みを済ませたアルバートをベッドの上で出迎えると、唇にそっと彼のそれが押し当てられる。

 あの後、お互いに気持ちはとても盛り上がって・・・・・・いた。
 けれどアルバートは職務を抜け出して来ており、まだ今日の分は山ほど残っているという。それに明日から一週間の公休を取る為に頑張って来る、という話になった。
 エリザベスに声をかけられた後にやって来たのは偶然で、プリムローズと話がしたくて確実に会えるであろう王妃のお茶会帰りに捕まえようとしただけらしい。

「今夜は寝かせてあげられないと思います。心配ならお昼寝をしておいて下さい」

 見送る時、耳元で囁かれて真っ赤になった。

 本で見たことがある言葉だ。
 初めての夜、もしかしたら言われるかもしれないと一人で期待していた。結果は一年だけの白い結婚と言われてしまったわけだけれど、あの時のことを思うと夢みたいだ。そうするとアルバートもやっぱり獣になってしまうのだろうか。

 ドキドキしていると、さっと掃くように唇に柔らかなものが触れた。

「いってきます、リジィ。いい子で待っていて下さい」
「い、いってらっしゃいませ、アルバート様」

 すごい。
 今のも本で見た。
 額や頬じゃなくて唇にする"いってきますの口づけ"だ。仲睦まじい夫婦なら毎回すると書いてあった。本当に、するのだ。
 プリムローズは感動を逃さないように、目を閉じて余韻に浸る。

 そんな彼女の様子を、後ろに控えるイレーヌが微笑ましそうに見守っていた。


 本でしか知らなかったことを二つも経験したプリムローズは、夕食を一人で摂って湯浴みも済ませるとデイジーに贈られた下着もどきを再び身に着けている。
 本当は新しく用意したかったけれど急な話だったし、何よりも相変わらずどこで用意したら良いのか分かっていない。
 いつ見ても可愛くて煽情的なデザインだから、アルバートだって気に入ってくれると思う。でもプリムローズに似合っていないかもしれないし、自信がなかった。

「リジィ、やっぱり怖かったら言って下さい」

 プリムローズをベッドに横たえてアルバートが心配そうに声をかける。
 乱暴に押し倒したあの夜のことを言っているのだろう。
 でもあれは、プリムローズが悪いのだ。今は壊れ物のように優しく触れられていて、ドキドキするけれど全然いやじゃない。

「大丈夫、です。だから……アルバート様のお嫁さんにして下さい」
「必ず、大切にします」

 温かな両手が頬を包み込んで唇が重なった。
 何度も重ねては離し、ついばむ。熱い舌先に唇をなぞられ、肩がびくりと強張ってしまった。
 驚いただけなのだけれど、怯えたと思われてしまったかもしれない。勇気を出して薄く唇を開く。この反応で合っているだろうか。本には深い口づけだと舌同士を絡めると書いてあった気がする。

「ふ……っ」

 吐息がこぼれた。
 舌が絡まると初めての感覚が身体中に広がる。
 これも本に書いてあった。
 控え目に甘く優しい、情熱的な激しい口づけ。とても難しいことだと思っていた。でも好きな相手とだと自然にできるのだと知った。

 ぎこちなくアルバートの舌を探し、おずおずと自ら絡める。
 奥底から強い想いが湧き上がって溢れてしまいそうになった。
 それはとてもシンプルで、真っすぐな想いだ。

 アルバートが、欲しい。

 長い、長い口づけの後、唇が離れて行く。
 頭がぼうっとする。でも、こんなの・・・・で終わりじゃない。本でも口づけの後のことの方がたくさんページを割かれていた。

「あの、変じゃ、ないですか……?」

 とうとう不安が募りすぎて尋ねてしまう。
 変ならいっそのこと、もう脱いだ方が良いと思ったのだ。

「変、とは?」
「あの、下着が……。肌が透けていたりして大人っぽいので、わたくしには、あの」
「とてもよく似合っていて可愛いと思います。今度は私からプレゼントさせて下さい」
「は……、あ、んっ!」

 はい、と返事をしかけて全く別の言葉に塗り替えられた。
 自分でも聞いたことのない、甘えるような高い声があがった。
 下着ごとふくらみをやんわりと揉みしだかれ、頂上の飾りを探るように指先が優しく円を描く。生まれて初めて愛撫を受けて身体の奥に炎が灯ったような気がした。

 簡単に見つけられた小さな突起は、ふるりと震えながら存在を主張しはじめる。柔らかな布地に擦れると背中にぞくぞくとしたものが通り抜けた。

「アルバート、様……切ない、とても、切ないの」
「リジィ。アル、と。そう呼んで下さい」
「アル、様」

 触れられているのは胸だけなのに身体中が、下腹部が切ない。
 甘えた声があがってしまうのがとても恥ずかしくて、声を振り絞った。

「あの……アル様は、大きい方が……お好き、ですか?」
「大きさではなく、あなたの胸が好きです」

 肝心の主語はなかったけれど、状況的に何について聞いたのか伝わったようだ。
 初めての夜にも、同じことを聞いた。あの時は答えなんて返してもらえなくて、でも――プリムローズの胸が好きだと言ってくれるのは嘘でも嬉しい。

「敏感で可愛らしいと思います。ちょっと触れたただけで、こんなに固く尖らせたりして」
「言わないで、下さい……」

 柔らかな布地越しに見える先端はアルバートの言うように固く尖って、熱を帯びてじんと甘く痺れていた。
 指先でつままれながら転がされると、あんなにこらえようとした高い啼き声が簡単にあがり、身体が跳ねてしまう。するとアルバートはもう片方の乳首のつけ根に埋め込むよう指を押しつけ、ぴんと弾いた。

「あんっ!」
「直接触れる前からこんなに感じてくれて、ずっと可愛がっていたいくらいです」
「アル様……ずっと、怒っていらっしゃるのですか?」

 胸への愛撫もさることながら、言葉でも責められているようで熱の高まりが抑えられずにいる。
 恥ずかしい。
 でも触れられている場所から蕩けてしまいそうで、自分の身体なのに自分のものではないみたいだ。

「どうしてそう思われるのです?」
「だって、あの……恥ずかしい言葉を、たくさんおっしゃるので……、っん」

 ずっと可愛がっていたいと言ったからか、アルバートの指はプリムローズの感じやすい桃色の突起をなおも弄んでいる。
 下腹部の甘い疼きはどんどん強まって行って、どうしたらいいのか分からない。声も抑えられなくなって来ていた。それどころか、甘えた色がさらに増している。

「リジィ。もっと感じて、その可愛い啼き声をたくさん聞かせて下さい」
「そ、そういうのが」
「ああ、逆にとても浮かれているせいです。ずっと触れたいと思っていたので」

 言いながら、布地ごと乳首を口に含んだ。軽く吸われ、奥歯で甘噛みをされると指での愛撫とはまるで違う感覚がプリムローズに襲いかかる。
 まるで知らなかった二つの鋭い感覚はどちらも同じくらい気持ち良い。それが身体の中に蓄積されて行っていて、プリムローズの奥底にある何かを表に出すように押し上げている気がした。

「触れて……ん、あ……っ、下さったら、良かったの、に」
「そうですね。せっかく、おいしそうなごちそうが食べて欲しいって誘惑してくれていたのに、とてももったいないことをしたと思っています」
「ひん……っ! いや、やあぁ……っ!」

 腰が、勝手に揺れてしまう。
 破られたページにきっと書いてある、もっと強くて深いものが欲しくてたまらなくなった。

「もう遠慮はしません。だからあなたの全てを独り占めさせて下さい」

 アルバートの声も普段より掠れていて、だけど今はそれすらも切なさを煽る。
 プリムローズの下着を脱がせ、彼もまた自らのローブを脱いだ。
 その身体の中心にはプリムローズがキノコだと思い込んだあの物体がやっぱりあって、前に見た時と変わらない色形と大きさで天を向いている。

 勢いで彼の肌を曝させたことがあるのに、何が違うのだろう。
 アルバートは男性で女性の自分とは全く違うのだと、胸の鼓動が激しさを増した。

「先に、その可愛いお口で召し上がってみますか?」
「――アル様の意地悪」

 本当に、食べられるのだろうか。

 今さら疑問に思ってしまった。

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