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話し合い
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「あ、あなたは、ご自身が何を仰っているのか分かっておられるのですか!」
「もちろん分かっておりますとも!」
ひどく狼狽えた様子のアルバートとは対照的に、プリムローズは堂々と胸を張った。
この日の為にと参考にしている小説のヒーローが、ヒロインに言っていたのだ。
先っぽだけでもいいから入れさせて欲しい、と。
つまり先っぽ云々は、どうしても契りを結びたい時に使う懇願の言葉ということだろう。花嫁が初夜に使うべき言葉ではないかもしれないけれど、政略結婚でもちゃんとした夫婦になりたいのだという想いは伝えたかった。
「それともアルバート様は私の身体にご不満があるのですか。た、たとえば、胸はもっと大きい方が良いとか……!」
四つ足のまま、従姉にもらったシャーベットグリーンの下着もどきの胸元を軽く引っ張ってのぞき込む。
肌が透けているそれは下着の意味がほとんどない状態ではあるけれど、そこからのぞく二つのふくらみは決して大きいとは言えなかった。
でもだからと言って小さくはない。大きくないというだけでサイズとしては至って普通だ。――普通だと思う。思いたい。
それに形は我ながら良い方と思うし、成長の可能性だってまだまだ十分に残されている。胸を大きくする方法も例の本に書かれていた。アルバートが協力してくれるなら、もっともっと豊満になるはずだ。
「――いや、大きいのが好きと言うわけでも」
「では小さい方がお好きですか!」
言葉を濁すアルバートにさらに詰め寄る。
残念ながら小さくする方法はまるで分からない。その場合、今の大きさで妥協してもらうしかなかった。
「そ、それなら、胸はあまり愛でないで下さいませ……」
たくさん愛でてもらって大きくなった結果、嫌われてしまうのはとても困る。
アルバートの好みにはできる限り応えたい。
その為にはアルバートにも節度を持ってもらって、別の部分で獣のようになってもらわなくては。
「大きさの問題ではなく」
重ねて否定するアルバートはプリムローズから視線を背けたままだ。
大切な話し合いをしているというのに、さすがに失礼ではないだろうか。
「アルバート様、わたくしだけをご覧になって……!」
顔もまともに見ず、歯切れの悪い言葉ばかり。
適当な言葉を並べて適当にこの場を誤魔化せば良いと思っているのだろうか。
(夫婦に、なったのに?)
そもそも一年だけなんて話は何も聞かされてない。知っていたら式を挙げる前に話し合いの場を持っていた。
だけど今は夫婦の誓いを立てた後なのだ。アルバートには何としても、白い結婚ののちに離縁だなんてばかげた考えを改めてもらわなくては。胸の大きさの好みはその後でいい。
逸る気持ちから体当たりさながらの勢いでその胸に飛び込む。真正面からふいを突かれ、アルバートの身体がぐらついた。
「姫、落ち着いて話し合いを」
「わたくしはずっと落ち着いています! でも、話し合いに応じて下さらないのはアルバート様の方ではありませんか」
両肩を抱かれ、初めて素肌に触れたその手に胸が高鳴る。
だけど優しく抱き寄せる為ではなく冷たく引き離すような動きに、プリムローズも意地になった。いやいやと首を振りながらさらに身体を押しつける。
本来ならプリムローズが力で叶うはずもないけれど、今は何しろアルバートの体勢が悪い。徐々にプリムローズが押しはじめていた。
アルバートがプリムローズから手を離し、自らを支えようとするけれどもう遅い。むしろ手を離したことが仇となって、プリムローズが押し倒すような格好になった。
「あ……」
プリムローズは慌てて上半身を起こした。アルバートはただ、驚いたような目でプリムローズを見つめている。今日、初めて目が合った。
はしたない夜着に身を包み、夫とは言え殿方に跨ったはしたない体勢。今にも身体中の血液が沸騰してしまうのではないかというくらい、頬が熱を帯びた。
下りなくては。
意識がアルバートの顔から自分の身体に移った時、足のつけ根辺りに固いものの存在を感じた。
(何、かしら……?)
考えて、すぐに思い至った。
アルバートは王太子だ。護身用の短剣か何かを所持しているのかもしれない。着替えてはいないのだから、おそらくは持ったままやって来たのかもしれなかった。
だけどここは夫婦の、しかも初めての夜を迎える為の寝室だ。彼の命を狙う者など誰もいない。せめて武器は外して来て欲しかった。
それとも――白い結婚をしようなどと言い出すくらだ。プリムローズのことを信用してくれてはいないのか。
十年前に婚約が決まって、お互いの誕生日にはプレゼントを贈り合ったり、年に何回かは夜会に招待し合って交流を重ねて来た。
燃えるような恋の果ての恋愛結婚ではないけれど、穏やかな関係を築いてずっと生きて行けると思っていたのに。
悲しくて悔しくて、気持ちがぐちゃぐちゃになった。
瞳に涙が潤む。
「リ……姫」
呼びかけられ、ぐっと涙を堪える。
こんなものは今すぐ取り上げてしまわなくては。
「失礼します!」
礼儀として一声断るべきだと判断して、自身の心を奮い立たせる為にも大きな声をあげた。
ゆっくりと息を吸い込み、そして身体をずらすと"それ"を掴んだ。
「な、何を」
アルバートの顔が真っ赤になった。
先に声をかけられたとは言え、いきなりこんなことをされてはいくら温厚な彼でも怒りを覚えるのは当然だ。
でも、プリムローズだって信用されていなかったことに傷つき、白い結婚だと告げられたことにとても怒っている。
有無を言わせず握りしめたそれはトラウザーズ越しでも熱い。取り出す為にぐっと握ると、柄の部分だろうか、指先がわずかに引っかかった。
衣服の中にしまい込んでいる以上、抜刀してしまうことのないように留め具がついているとは思う。それでも万が一のことを考えてほんの少し力を弱めた。
「手を、放して下さい」
「いやです、離しません。寝室に武器を持ち込むなんてあんまりです」
「武器? ――いや、これは」
まだ顔を赤くしたままアルバートは上半身を起こす。プリムローズの手首を掴み、やんわりと離そうとした。
彼が本気を出せば、プリムローズなんてたやすく振り払えるだろう。けれど彼はそうしなかった。この期に及んでも怪我をしないよう気を配ってくれている。とても、優しい人だ。
でもそれなら、どうして武器なんて。
プリムローズは早く武器を引っ張り出して取り上げることに夢中で、ベルトを締めるバックルに手をかけた。自分でも驚くほどの早さで緩め、トラウザーズの前をくつろげる。
「……っ!」
二人同時に鋭く息を飲んだ。
飛び出すように中から現れたものは、プリムローズが想像していたような武器などではなかった。
武器ではないのなら、何なのだろうか。
初めて見た。
想像していた短剣とは形がまるで違う。
強いて言えば槍だろうか。
でも、槍とも違う気がする。
だけどどこかで見た覚えがあるような形だ。
(キノコ? でも、どうして? 殿方は護身用にキノコを衣服の下にしまうこともあるの?)
本にはキノコをしまう習慣や嗜みなんて全く書かれてはいなかった。
ということはアルバートが特殊ということなのだろうか?
あるいは、プリムローズが読んだ本はフィラグランテで出版されたものだ。イルダリアではそうした文化があるのかもしれない。
わけが分からなくてアルバートを見上げる。先程から説明して欲しいことばかりが続いて、プリムローズの中で優先順位がめまぐるしく変動していた。
衝撃を受けたのはアルバートも同じだったようで、ずっと固まっていたのがようやく我に返ったらしい。説明もなく再びそれをトラウザーズの中にしまい込んだ。
その時プリムローズの指先がそれに直接触れてしまう。
硬く熱く、何だか……ぬるりと、していた。
「き……きゃああああああああああああ!」
そこまでが限界で、絹を裂くような悲鳴をあげてプリムローズは意識を失ってしまった。
「もちろん分かっておりますとも!」
ひどく狼狽えた様子のアルバートとは対照的に、プリムローズは堂々と胸を張った。
この日の為にと参考にしている小説のヒーローが、ヒロインに言っていたのだ。
先っぽだけでもいいから入れさせて欲しい、と。
つまり先っぽ云々は、どうしても契りを結びたい時に使う懇願の言葉ということだろう。花嫁が初夜に使うべき言葉ではないかもしれないけれど、政略結婚でもちゃんとした夫婦になりたいのだという想いは伝えたかった。
「それともアルバート様は私の身体にご不満があるのですか。た、たとえば、胸はもっと大きい方が良いとか……!」
四つ足のまま、従姉にもらったシャーベットグリーンの下着もどきの胸元を軽く引っ張ってのぞき込む。
肌が透けているそれは下着の意味がほとんどない状態ではあるけれど、そこからのぞく二つのふくらみは決して大きいとは言えなかった。
でもだからと言って小さくはない。大きくないというだけでサイズとしては至って普通だ。――普通だと思う。思いたい。
それに形は我ながら良い方と思うし、成長の可能性だってまだまだ十分に残されている。胸を大きくする方法も例の本に書かれていた。アルバートが協力してくれるなら、もっともっと豊満になるはずだ。
「――いや、大きいのが好きと言うわけでも」
「では小さい方がお好きですか!」
言葉を濁すアルバートにさらに詰め寄る。
残念ながら小さくする方法はまるで分からない。その場合、今の大きさで妥協してもらうしかなかった。
「そ、それなら、胸はあまり愛でないで下さいませ……」
たくさん愛でてもらって大きくなった結果、嫌われてしまうのはとても困る。
アルバートの好みにはできる限り応えたい。
その為にはアルバートにも節度を持ってもらって、別の部分で獣のようになってもらわなくては。
「大きさの問題ではなく」
重ねて否定するアルバートはプリムローズから視線を背けたままだ。
大切な話し合いをしているというのに、さすがに失礼ではないだろうか。
「アルバート様、わたくしだけをご覧になって……!」
顔もまともに見ず、歯切れの悪い言葉ばかり。
適当な言葉を並べて適当にこの場を誤魔化せば良いと思っているのだろうか。
(夫婦に、なったのに?)
そもそも一年だけなんて話は何も聞かされてない。知っていたら式を挙げる前に話し合いの場を持っていた。
だけど今は夫婦の誓いを立てた後なのだ。アルバートには何としても、白い結婚ののちに離縁だなんてばかげた考えを改めてもらわなくては。胸の大きさの好みはその後でいい。
逸る気持ちから体当たりさながらの勢いでその胸に飛び込む。真正面からふいを突かれ、アルバートの身体がぐらついた。
「姫、落ち着いて話し合いを」
「わたくしはずっと落ち着いています! でも、話し合いに応じて下さらないのはアルバート様の方ではありませんか」
両肩を抱かれ、初めて素肌に触れたその手に胸が高鳴る。
だけど優しく抱き寄せる為ではなく冷たく引き離すような動きに、プリムローズも意地になった。いやいやと首を振りながらさらに身体を押しつける。
本来ならプリムローズが力で叶うはずもないけれど、今は何しろアルバートの体勢が悪い。徐々にプリムローズが押しはじめていた。
アルバートがプリムローズから手を離し、自らを支えようとするけれどもう遅い。むしろ手を離したことが仇となって、プリムローズが押し倒すような格好になった。
「あ……」
プリムローズは慌てて上半身を起こした。アルバートはただ、驚いたような目でプリムローズを見つめている。今日、初めて目が合った。
はしたない夜着に身を包み、夫とは言え殿方に跨ったはしたない体勢。今にも身体中の血液が沸騰してしまうのではないかというくらい、頬が熱を帯びた。
下りなくては。
意識がアルバートの顔から自分の身体に移った時、足のつけ根辺りに固いものの存在を感じた。
(何、かしら……?)
考えて、すぐに思い至った。
アルバートは王太子だ。護身用の短剣か何かを所持しているのかもしれない。着替えてはいないのだから、おそらくは持ったままやって来たのかもしれなかった。
だけどここは夫婦の、しかも初めての夜を迎える為の寝室だ。彼の命を狙う者など誰もいない。せめて武器は外して来て欲しかった。
それとも――白い結婚をしようなどと言い出すくらだ。プリムローズのことを信用してくれてはいないのか。
十年前に婚約が決まって、お互いの誕生日にはプレゼントを贈り合ったり、年に何回かは夜会に招待し合って交流を重ねて来た。
燃えるような恋の果ての恋愛結婚ではないけれど、穏やかな関係を築いてずっと生きて行けると思っていたのに。
悲しくて悔しくて、気持ちがぐちゃぐちゃになった。
瞳に涙が潤む。
「リ……姫」
呼びかけられ、ぐっと涙を堪える。
こんなものは今すぐ取り上げてしまわなくては。
「失礼します!」
礼儀として一声断るべきだと判断して、自身の心を奮い立たせる為にも大きな声をあげた。
ゆっくりと息を吸い込み、そして身体をずらすと"それ"を掴んだ。
「な、何を」
アルバートの顔が真っ赤になった。
先に声をかけられたとは言え、いきなりこんなことをされてはいくら温厚な彼でも怒りを覚えるのは当然だ。
でも、プリムローズだって信用されていなかったことに傷つき、白い結婚だと告げられたことにとても怒っている。
有無を言わせず握りしめたそれはトラウザーズ越しでも熱い。取り出す為にぐっと握ると、柄の部分だろうか、指先がわずかに引っかかった。
衣服の中にしまい込んでいる以上、抜刀してしまうことのないように留め具がついているとは思う。それでも万が一のことを考えてほんの少し力を弱めた。
「手を、放して下さい」
「いやです、離しません。寝室に武器を持ち込むなんてあんまりです」
「武器? ――いや、これは」
まだ顔を赤くしたままアルバートは上半身を起こす。プリムローズの手首を掴み、やんわりと離そうとした。
彼が本気を出せば、プリムローズなんてたやすく振り払えるだろう。けれど彼はそうしなかった。この期に及んでも怪我をしないよう気を配ってくれている。とても、優しい人だ。
でもそれなら、どうして武器なんて。
プリムローズは早く武器を引っ張り出して取り上げることに夢中で、ベルトを締めるバックルに手をかけた。自分でも驚くほどの早さで緩め、トラウザーズの前をくつろげる。
「……っ!」
二人同時に鋭く息を飲んだ。
飛び出すように中から現れたものは、プリムローズが想像していたような武器などではなかった。
武器ではないのなら、何なのだろうか。
初めて見た。
想像していた短剣とは形がまるで違う。
強いて言えば槍だろうか。
でも、槍とも違う気がする。
だけどどこかで見た覚えがあるような形だ。
(キノコ? でも、どうして? 殿方は護身用にキノコを衣服の下にしまうこともあるの?)
本にはキノコをしまう習慣や嗜みなんて全く書かれてはいなかった。
ということはアルバートが特殊ということなのだろうか?
あるいは、プリムローズが読んだ本はフィラグランテで出版されたものだ。イルダリアではそうした文化があるのかもしれない。
わけが分からなくてアルバートを見上げる。先程から説明して欲しいことばかりが続いて、プリムローズの中で優先順位がめまぐるしく変動していた。
衝撃を受けたのはアルバートも同じだったようで、ずっと固まっていたのがようやく我に返ったらしい。説明もなく再びそれをトラウザーズの中にしまい込んだ。
その時プリムローズの指先がそれに直接触れてしまう。
硬く熱く、何だか……ぬるりと、していた。
「き……きゃああああああああああああ!」
そこまでが限界で、絹を裂くような悲鳴をあげてプリムローズは意識を失ってしまった。
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