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第二章 旅立ち準備編

23話 SFチックな部屋

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 入念に調査と言ったが、作動したらどうなるのか予想もつかない機械類ばかりで中々調査は捗らない。

 とりあえず、今は作業台をじっくりと観察している。
 テーブル部分は真っ黒で艶がある。まるで大理石のような肌触りだ。

「この部分だけざらざらしているな……」

 よく見ると、5㎝角程の艶の無い部分が作業台中央にあった。
 恐る恐るそれに触れると、ピッという音が鳴り、テーブルに光が走った。
 光は艶の無い部分の上側に集まり始め、4つの10㎝程の円形状となり留まった。

 そして、光を突き破るように下から4本の金属製の棒が出現した。

「お、おい、ネビア! リレーバトン程のサイズの金属の棒が出て来たぞ!」

 そう言うとネビアは興味津々で、すぐにこちらへとやってきた。
 とりあえず俺達はそれぞれ1本づつ手に取ってみた。
 金属にしては異様に軽い、まるで紙を持ってるようだ……。

「近未来の武器とかでしょうか……? このフォルムを見て僕は真っ先にビームの剣がでてくる系の何かに見えました……」
「それ俺も思った! いきなり刃が出てこないように注意しないと……」

 慎重にくるくる回しながらよく分からない金属の棒を隅々を確認した。
 非常に軽い割にはとても硬い。試しに思い切り叩きつけても傷ひとつつかなかった。
 それをしたらネビアにかなり怒られたが……。

「フィアン、この先端部分についてるマット調の丸がスイッチとかじゃないですか?」
「確かに。これが出てきたのも作業台のマット部分を押した時だった」

 少しだけ迷った後、その部分を俺が押す事になった。
 万が一そこからビームの剣が出てきて怪我をしたらネビアがすぐにヒールをするという算段だ。

「いくぞ……」

 俺はその部分をぐっと押した。
 すると、少しだけカチっと音を出し下に沈んだ後、その場所が青く光り始めた。
 そして、そのまま光は押した反対側へとまっすぐに線を引くように向かい、その光の線が少しだけ飛び出してきた。

「なんだこれ! 光そのものが立体に見える……飛び出して見えるぞ」

 ここまで来たらためらう事は何もない。
 俺はその飛び出した光を掴み、引っ張ってみた。

「すげえ……極薄のタブレットの液晶みたいだ」

 その光の板は筒から外れても形状を保っており、しっかりと硬い感触がある。
 タブレットの液晶みたいだと瞬時に思った理由は、その板には複数のフォルダの様なアイコンが表示されていた為である。

「極薄のタブレットにしか見えないですね。そもそもこの金属棒からどうやって出てきたのか全く理解できないですが……」

 タップすると反応するので適当に触れてみた。
 インターネットに繋ぐようなアイコンもあるが、当たり前だが押しても接続できませんという画面になるだけだ。

 それ以外は全てフォルダになっており、左上から2482、2483、2484...と順番に名前をつけられている。
 まずは、一番左上の2482のフォルダを開いてみると、さらにフォルダ分けしており、1月、2月と続き、12月まで並んでいた。

「日本語だな。1月から12月に区分しているのかな。2482の意味が分からないが……」

 この世界でも月日の概念はある。シンプルでひと月が30日間で12カ月で1年と概ね元居た世界と同じだ。

 とりあえず1月から順にフォルダを開いてみたが空っぽだった。
 すぐに2月、3月と開いたがそこにも何もなく、
 6月になった所でメモファイルのような物が入っていた。

 俺達が顔を見合わせた後、そのメモファイルをタップした。

----

 自分の記憶を整理する為にも、本日から時系列ごとに記録を書いて行こうと思う。

 まずは自分の事から簡単に書こう。

 西暦2482年現在、私は化学者でありながら、地球外エネルギー抽出成功後は宇宙工学の最高責任者を任されている。

 数百年前に比べ月と地球は弱っており、隕石がよく降る星となってしまっていた。

 ある日、隕石落下予測管理システムにて流星の如く、無数の隕石が地球に降り注ぐことが分かった。

 それは、とても全てを迎撃する事は出来ない、圧倒的な数であった。

 大災厄とも言えるその光景を目の当たりにし、私は死の恐怖を改めて感じた……私は何としてでも生きたかった。

 こういった事態に備え、研究にて大抵の隕石にも耐えうるシェルターを作っていたのだが、大きさにして15畳程度だ。数百人いる研究者全てはとても入る事は出来ないだろう……。

 私はそれが分かった瞬間そのシェルターに入り、誰一人として入れずに閉じこもった。自分の命が何よりも可愛かったのだ……。

 その数時間後、とてつもなく大きな音と衝撃が小一時間ほど鳴りやまずになり続けた。

 愚かで、最低な行動だったと何度も罪悪感で死にそうになった。

 音がやんだ後、私はなんとか生きていた。つまりこのシェルターのおかげで耐えきったのだ。

 外の様子を見ようと、扉を開けようとしたが外気成分判定に致命的な気象状態と診断されており、開けることができなかった。
 地球が崩壊してしまった為、宇宙にほうりだされているような状態なのだろうか。
 もしくは外気を人にとって毒性のものに変えるほど、隕石は恐ろしく酷いものだったのだろう。

 一旦、私は外に出るのはやめ、探索用ナノマシンを外に放ち、状況を確認する事にした。
 長い時間眠りにつく必要性もあるかもしれない。
 もしかしたら私は、人類最後の一人となってしまったかもしれないが、何としても現状を確認したい。

----

「西暦2482年……?! ネビア、どういう事だろこれ!」
「わかりませんが、私達が元々いた世界は2024年頃……これだけ見たら遥か未来から来た人ですね……」
「時系列とか……その辺どうなってるんだろう。気にしても仕方がないけどな……!」
「これで1つのメモ帳は終わってますけど、まだまだありますよ。全部読むには時間が絶対に足りませんね……」

 二人で読んでいても仕方ないと思った俺は、真ん中の箱のチェックを行う事にした。
 その間にネビアに記録を呼んでもらおうと思う。
 そう伝えると、

「そうですね。ではフィアン、真ん中の箱は任せましたよ!」

 とネビアは言い、俺は箱調査、ネビアはメモ帳を読み続けることになった。

・・・
・・


「うーん……」

 見た目を改めてじっくりと観察しよう。箱はパッと見て機械的だが、洗練されたフォルムをしており漆黒の大理石……。そんな表現しか思いつかなかったが、その中に機械の様なものがびっしりと入っている。大きさについては、人が一人入れるくらいの大きさだ。
 こういうのは開けるとやばい人が出て来たりするのが定番だ。耳を当てると微振動しているし、換気扇のような音も聞こえる。箱からは天井まで二本の管が伸びており、不定期に小さな光が下から上、上から下へと移動している。はっきり言おう、全く意味がわからない。
 もうこうなったら開けるしか無いと思いながらも、さっきみたいにスイッチの様なものは見当たらない。どうすればいいものかな……。

「ん……?」

 そういえばある事に気がついた。綺麗なフォルムで長方形といったが、厳密にいうと五角形だ。というのも角にあたる部分が一箇所だけ綺麗に落とされている形だからだ。もうここに何か仕掛けがあるとしか思えない。慎重にかつ大胆にそこを触って見る事にした。
 スリスリ……うむ、艶があってすべすべしている。ひんやりとしていて気持ちがよい。押しても触っても引いてもダメ……。
 詰んだわ、これはもう詰みましたわ。

「あの、フィアン?」
「まて! まだだ、まだ終わらん……!」
「いや、このメモ帳の中に開け方が載ってました……」
「……」

 そういうと、ネビアはその画面を表示させた状態で筒からタブレットを引き抜き、それを俺に渡してきた。

「こうやって、紙のように複数の人に渡すこともできるみたいです。すごいデバイスですよね!」
「たしかにすげえ……」

 それよりもすぐに使いこなしているネビアも凄い気がしている。

 とにかくこの説明を見ると、まずは三角柱を角に合わせると記載されていた。
 黒い三角柱は筒が出てきたところに置いてあったので、それを手に取った。
 そして、角に合わせようとした時、ネビアが先に日記で得た情報を共有したいと提案してきた。

「そうだな。俺もそれが気になるから先に共有しよう」
「わかりました。では、どこから言えばいいのか……とにかくこれを書いた人は間違いなく私達の時代よりはるか先の未来からこの世界にやってきたようです」
 
 その時点で少しばかり信じられなかったが、ネビアは構わずそのまま話続けた。

 日記を書いたの人は2482年頃に生きていた人物であり、唯一の生き残りだった。
 地球に無数の隕石が降り注ぎ、地球は破壊されてしまった事はナノマシンを通して外部の状況を見た為、明白だった。
 その後はたった一人でこのシェルターで生活をしていた。
 数年は調査に明け暮れたがこのまま起きていても状況が変わらない為、コールドスリープに入った。

「そして、コールドスリープから目覚めたら、この世界に居たようですね……」
「なるほど……その装置ごとこの世界に転移したのかな」
「それか宇宙をずっと漂ってて別の星がこの世界……とかですかね!?」

 こういったSFチックな話はとても好きだが今はそんな場合ではない。

「でも、何でこの世界についたのに外に出なかったんだろうな」
「どうやらナノマシンで外気を調査した結果、この人にとっては毒性が強く耐えられるものでは無かったみたいなんです。この場所で空気清浄装置を使って生きていたみたいですね」
「ふむ。俺たちは生まれ変わってこっちの世界に適応しているけど、この人はそのままの身体で飛ばされたもんな。てかその人の身体に合わせた空気を吸っている俺たちは大丈夫なのか!?」

 俺は両手で口を塞ぎ息と止めたが、

「その点は大丈夫みたいですね、というか今は空気清浄装置は動いてないようで、外の空気とほぼ変わらない状態のようです」

 とネビアに笑われながら言われた。

「その話を聞く限り……この中央の箱は死体が入ってるのかな……」

 嫌な想像が膨らむ。

「いや、全て見ているわけでは無いので断定できませんが、外に出るための実験の中で長い年月をかければ対応出来る! という仮設も書かれています。箱はその仮説を試している可能性も……とか思ったり……」

 ネビアは自信なさそうに言った。

「二人で注意深く開けてみるしかないですね……」

 俺はそれに同意した。

「それよりですね! この人、ナノマシンで情報を仕入れているおかげか、魔法の存在をしって、魔法研究ばっかり書いているところがあったんですよ! ここが本当にすごいんです! 生きていたら是非直接話を聞きたい仮説とかばかりです!」
「お……おお!」

 急に大声になったネビアに俺は若干戸惑ったいつつもネビアは話続ける。

「複合魔法とか魔法発動の仕組み、魔法陣の構造など、多分この世界の遥か先に行っていますよこの人の魔法研究は……!」
「その記録を見れば再現出来るんじゃないのか?」

 俺がそう聞くと、ネビアは少し落胆しながら、

「無理ですね……日本語がメインで書かれながらも英語や化学記号? のような物が多すぎてその辺が全く分かりません。もしかしたらこの人が考えた魔法用の記号とかなのかもしれません……」

 と言った。
 たしかに見た事も無い記号などがその記録には多く記述されていた。

「とりあえず……開けてみるか」
「そうですね!」

 そう言って俺達は説明画面を再度見ながら開ける事にした。
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