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第三楽章 春の嵐-Scherzo-
3-3 遊覧船(3)
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セシルは駆けながら、なんとかして時計を見た。あと十分で正午になる。
ここ観光用のドメルディ空港は、人でごった返していた。
数隻しかない飛空艇に収容できるか怪しく思えるほどの頭数で、ロビーが人間の頭で埋め尽くされている。前回、セシルたちが利用したのは国際便が行き交うナシオナル空港で、飛空艇が数十隻格納できる大規模なものだった。
早めのランチの後なのに、とセシルは手を引かれながら思った。
「ちょ、ちょっと、パーシィ! スカートが人に引っかかる!」
「頑張って走りたまえ!」
二人は人垣を縫いながら、エントランスホールを走っていた。
正午にチェックインが開始されるかと思っていたのだが、それは勘違いだったのだ。
「搭乗後、すぐに飛ぶものだからな」
「うーっ!」
五分ほど走っているが、パーシィは息を荒げない。
右手に持つステッキを誰にもぶつけず左手にセシルの手を取りするすると人波を超えてゆく。
対する少年は〈手紙を書く女〉事件以来走るのは、久しぶりだ。細い喉がぜえぜえと鳴る。
それに、頭の上で上下する帽子と足にまとわりつくスカートにも苛々する。
いくら着なれてい用途も、邪魔なのは変わらぬ真実だった。
「遊覧船ラ・プリマヴェラ号、二名様ね。よい旅を!」
ゲート職員にチケットを切ってもらい、やっと歩くことが許された。
頬を紅潮させ、肩で息をする二人が搭乗した途端、タラップがすぐに外された。
どこかで一息ついていれば、きっと乗れなかっただろう。セシルの背中に汗が流れていった。
遊覧船は、国と国を結ぶ定期便と違って、さほど高いところを飛ばない。だから、甲板の上に人を乗せたまま、ゆっくりと浮上していった。
集まった人々の身なりはどれも小奇麗で、収入の高さを示唆するようだ。
女性たちはセシルと同様、帽子をリボンで頭にしっかりと固定している。
リボンがほどけたら大惨事だな、とセシルが思ったのも束の間。髪の毛がばさばさと逆さに持ち上げられ、かき乱された。いつもの三倍差してきたヘアピンが攣れて痛い。かつらが飛んでしまえば、自分だけでなくパーシィの顔に、盛大に泥を塗ることになる。
人の心配してる暇なんか無い! セシルは帽子ごとしっかりと頭を押さえた。
ドックのガラスのトンネルをくぐりぬけ、飛空艇はどんどんと高度を増してゆく。
それに合わせて、セシルの興奮も高まっていった。
手すりを握る手指から、頭、背中、つま先まで、ちりちりと言い知れぬしびれが駆け抜ける。
ぞくぞくするってやつだ!
「すごい! ね、パーシィ!」
セシルが歓声を上げる。
飛空艇に乗るのは、コルシェン以来だった。少年以外の甲板の人々も揃って口を開いている。
だが、何を言っているのかは風に覆い隠され解らない。
ここ観光用のドメルディ空港は、人でごった返していた。
数隻しかない飛空艇に収容できるか怪しく思えるほどの頭数で、ロビーが人間の頭で埋め尽くされている。前回、セシルたちが利用したのは国際便が行き交うナシオナル空港で、飛空艇が数十隻格納できる大規模なものだった。
早めのランチの後なのに、とセシルは手を引かれながら思った。
「ちょ、ちょっと、パーシィ! スカートが人に引っかかる!」
「頑張って走りたまえ!」
二人は人垣を縫いながら、エントランスホールを走っていた。
正午にチェックインが開始されるかと思っていたのだが、それは勘違いだったのだ。
「搭乗後、すぐに飛ぶものだからな」
「うーっ!」
五分ほど走っているが、パーシィは息を荒げない。
右手に持つステッキを誰にもぶつけず左手にセシルの手を取りするすると人波を超えてゆく。
対する少年は〈手紙を書く女〉事件以来走るのは、久しぶりだ。細い喉がぜえぜえと鳴る。
それに、頭の上で上下する帽子と足にまとわりつくスカートにも苛々する。
いくら着なれてい用途も、邪魔なのは変わらぬ真実だった。
「遊覧船ラ・プリマヴェラ号、二名様ね。よい旅を!」
ゲート職員にチケットを切ってもらい、やっと歩くことが許された。
頬を紅潮させ、肩で息をする二人が搭乗した途端、タラップがすぐに外された。
どこかで一息ついていれば、きっと乗れなかっただろう。セシルの背中に汗が流れていった。
遊覧船は、国と国を結ぶ定期便と違って、さほど高いところを飛ばない。だから、甲板の上に人を乗せたまま、ゆっくりと浮上していった。
集まった人々の身なりはどれも小奇麗で、収入の高さを示唆するようだ。
女性たちはセシルと同様、帽子をリボンで頭にしっかりと固定している。
リボンがほどけたら大惨事だな、とセシルが思ったのも束の間。髪の毛がばさばさと逆さに持ち上げられ、かき乱された。いつもの三倍差してきたヘアピンが攣れて痛い。かつらが飛んでしまえば、自分だけでなくパーシィの顔に、盛大に泥を塗ることになる。
人の心配してる暇なんか無い! セシルは帽子ごとしっかりと頭を押さえた。
ドックのガラスのトンネルをくぐりぬけ、飛空艇はどんどんと高度を増してゆく。
それに合わせて、セシルの興奮も高まっていった。
手すりを握る手指から、頭、背中、つま先まで、ちりちりと言い知れぬしびれが駆け抜ける。
ぞくぞくするってやつだ!
「すごい! ね、パーシィ!」
セシルが歓声を上げる。
飛空艇に乗るのは、コルシェン以来だった。少年以外の甲板の人々も揃って口を開いている。
だが、何を言っているのかは風に覆い隠され解らない。
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