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第三楽章 春の嵐-Scherzo-
3-1 二人きりの朝(6)
しおりを挟む二人は書斎にあるもう一つの応接用の机に『モルフェシアのラ・フォリア』をはじめ、あらゆる資料を持ちよって広げた。
子ども用のベッドほどの空間に、色とりどりの情報が所狭しと集まった。
お互いの情報を共有するのに果たして書物が必要なのだろうか。
少年は強いられた労力ごと少し呪った。結局、件の本は貸していたバーバラの枕元にあったため、見つけるまでに数十分を要したのだ。
「先日のレポートの写しはあるか?」
ソファに腰掛けて一息ついたパーシィが、腰に手を当てて立つセシルに問う。
「失敗したやつと、下書きなら。バーバラさんに借りたのもある。あと、クッキー」
「クッキー?」
青年は眉を上げた。
「お茶もなしに?」
「話に疲れたら持ってくる」
「そうしてくれ。気分転換に着替えもあるぞ」
パーシィはどこからともなくメイドの服――紺色のお仕着せをひらりと持ちだした。
セシルが思い切り顔を歪めると、彼はくすりとした。
「なに、冗談さ。まずは、君から始めてくれ、セシル」
「んー。いいけど、魔法の仕組みも〈六つのマナの歌〉も古い言葉ももう話したよな……」
魔少年の持ち合わせている情報は、さほどないように思われた。
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だが、一つだけ心当たりが見つかった。思わず唾を飲み込む。
「あのさ……。信じてもらえるかわかんないんだけど――」
青年は無表情にきょとんとした。口が動いている理由は簡単。手にしたクッキーのせいだ。
「ちょっと。人が真面目に話そうとしてるのに」
「長い話になるだろう。それで?」
少年はため息と共に肩を下ろした。力んでいたのはこちらだけとはなんだか馬鹿らしい。
けれども緊張はしかたない、とセシルは思った。
彼女の事を話すのは、ヴァイオレット以来、実に十年ぶりの事なのだ。
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