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第二楽章 女神を戴く国-Andante con moto-

2-2 社会科見学(9)

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「この場合の人間というのは、二四枚のカルトのうち、零から十のことを指すんだ。この十一枚には地上の人間が描かれているから」

 そう言って、ジャスティンは懐からひと組のカードを取り出し、会議室の机の上に広げた。そして、その中から一枚を引いた。

「私は名はジャスティンだが現在の役職は〈皇帝〉だ。この議会を治め、最終決定を下す役割を課されている」

 セシルはいつもの赤い革鞄から慌ててノートを取り出した。
 だが、肝心の書くものを忘れたようだったので、パーシィはいつもの万年筆を貸してやった。

「議長ってことですか?」

 小さな客の問いに、モルフェシア公は首を振った。

「いや、議長は〈教皇〉が務めることになっている。フォリア教の司祭から毎年一人が選出される……。ここまで言っても構わんのかな?」

 そこまで説明して、ジャスティンはくるりとパーシィの顔色をうかがってきた。
 セシルは懸命に慣れない万年筆を走らせている。
 モルフェシア議会は、その仕組みそのものは広く知られているものの、議員が誰かはひた隠しにされているのだ。数年に一度、公的な場においてその知見を認められた人物に、秘密裏に依頼している。よって、過去議員を務めた人物だけが認知されていた。

「僕に聞かないでくれたまえ」

「個人が特定されない程度にとどめておくとしよう」

 セシルが困惑に瞳をしばたたかせているのに気付き、ジャスティンは再び口を開いた。
 正確には、開こうとしたところでセシルの質問が飛んだ。

「あの、フォリア教ってなんですか?」

 ジャスティンは瞳を丸めた後、咳払いをした。

「天女……長きに渡りこのファタル湖の空に住まう女神フォルトゥーネ様を敬う信仰だ。運命の魔女ともいわれている。なぜなら、山もない痩せた土地の真ん中に、こんこんと湧き出でる水たまりがファタル湖で――」

 そう言いながら彼は、セシルを伴って壁に張られた地図のタペストリーの前へ行く。

「このファタル湖は女神の涙でできているといわれているからだ。我々モルフェシアの民――古くはファタルの騎士と呼ばれていた――が、歴史以前からここに住み続けていられるのは、フォルトゥーネ様のお力によるものと信じているわけだ。そうして、ファタルの騎士は夢見る男たちの集まり、すなわち夢見男モルフェウスに例えられ、モルフェウス騎士団としてまとまった。これが、モルフェシアの系譜さ」

 ジャスティンの言葉には、誇張も過信もなかった。

「フォリアとは舞曲のことでね。われわれの感謝の意を天上からフォルトゥーネ様がご覧になれるよう、お祭りしお納めしていた舞なのだ」

 ただの事実として語る姿勢が、かえって真実味を匂わせているとパーシィは思った。

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