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第二楽章 女神を戴く国-Andante con moto-

2-2 社会科見学(5)

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 セシルの装いはいつも通り、メイドたちが小奇麗にまとめてくれた。
 フィリナとバーバラの姉妹は、クローゼットの中からケリー・マクミランの新作をめざとく見つけてくれた。これは先日、パーシィが選んできた一枚だ。いまの時期まさに葉を茂らせる植え込みに似た緑のドレスにレースのつけ襟が美しく、青空にくっきりと浮かぶ雲のようだ。そこへ薔薇色のサテンのリボンが彩りを添えて、春の香りを演出している。亜麻色の髪の上には同じ色のヘッドドレスが乗っている。よっぽどのことが無い限りかつらだと気付かれることは無いだろう。
 少年は不服そうだが、洋服は喜んでいるように見えた。
 けれどそう言えばまた臍を曲げるに違いないのでパーシィは思いつきをそっと心にしまった。
 めかし込んだ二人と執事を乗せて、自動車は動き出した。
 フォベトラ城に行くのは初めてだからかセシルは腰を浮かせながら窓辺の景色を見ていた。
 パーシィにとっては不定期ながらも十年通い詰めている道のりで、全く珍しいものではない。
 軒先の看板が下され見慣れぬものにとって変わっても、さほど違いもわからぬほどだ。
 ホルガー通りを南下し、ほどなくして差しかかった交差点を北東へ曲がればカルミア通りだ。そこから道なりに進みさらに東へもう一つ曲がるとムーンリバーに沿ってセントラルへ向かうリバーサイド通りに変わる。日差しにキラキラとご機嫌な水面を見るためセシルは窓を開けた。湿った水の匂いがたっぷりと車内に運ばれる。水道が整備されている証拠だ。探偵は改めて文化に感謝した。透き通った水路の上に、水先案内人がボートを浮かべている。
 しかし僕たちが恩恵を受けているのは、マナストーンが無ければ稼働しない浄水施設なのだ。
 そう思うと、隣の少年のように無邪気では居られない。
 パーシィが見慣れたファタル湖を目にした途端、セシルがはしゃぎだした。

「うわあ! 近くで見るのはじめて! でっかいな!」

 瞳の邪魔をしたくないのか、少年にしては長い睫毛がまばたきを惜しんでいる。

「ファタル湖だ。ケルムの生活用水をすべてまかなっている」

「へぇー」

 パーシィの解説は、少年の耳を通りすがっただけのようだった。
 その証拠に、セシルは自分の目で見たものについて語る。

「船は一隻もいない……。禁止されてるのか? ねえパーシィ、あれがフォベトラ城?」

「ああ」

 肩を揺すられた青年は、セシルの指さす方にいつもの景色が広がっているのを目視した。
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