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第一楽章 手紙を書く女-Allegro con brio-
1-6 キツネと怪談(7)
しおりを挟む「さっきの話だけど。キツネって、赤茶けた毛のイヌみたいな動物だよね?」
その声もどこか角張った気がしたが、セシルは気に留めないことにした。
「あ、それもキツネだね。でも違うのもいて。白くて、ふわふわって――」
「もしかして、きゅう、と鳴く?」
「そう! フェネックギツネっていうんだけど。メルヴィンも見たことあるんだ? さっきは近くに来てさ、あと少しで触れそう――」
「危ないじゃないか!」
セシルが嬉々として説明していると、メルヴィンは慌てて立ち上がり、手にしていたマグを勢いよく机に置いた。大きな音がした割に、中身はこぼれなかった。
そして整った黒髪を乱す勢いで、セシルの手をとった。
手指をまじまじと見つめられて緊張が全身に走る。
「怪我は? 火傷はしていない?」
「や、火傷?」
碧の瞳をしばたたかせる友人を、メルヴィンが信じられないという顔で見つめている。
「君が見たのはきっと……いや、間違いない。最近この寮で噂になっている幽霊だ。僕は妖精だと思っているけど。真っ白な火の玉の姿をしているんだって」
「いやいやいやいや……」
セシルはくらりとのけ反りそうになった。
手紙を書く女について調べていたはずが次はキツネが幽霊、あるいは火の玉の妖精だという。
話がこんがらがりそうな匂いがする。すぐに説明する必要があった。
頭のいいメルヴィンのことだから、きっとすぐに幽霊ではないと理解してくれるはずだ。
「ワタシが見たのは、耳と目が二つの四つ足の生き物で……」
「でも、白くてまあるい」
「……うん」
品行方正、生真面目な優等生として名高いメルヴィンが冗談を言っているわけがない。
現に、凛々しい太眉をぎゅっと寄せて、心の底からセシルに忠告してくれている。
「サミュエルが不可解な手紙――幽霊の手紙だそうだね――に悩まされているのは聞こえてる。きっと、君と君のパトロンが調べにきたのもその件のことだろう。でも、相手は危険な幽霊か、妖精だ」
にわかにメルヴィンの筋張った手指に力がこもる。
「君は守られるべきリトルレディなんだ! 危険な真似はしてほしくない」
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