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第一楽章 手紙を書く女-Allegro con brio-

1-5 たまにはそれらしく(2)

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 日付は〈双魚の月〉三〇日。土曜日なので通例通りニールの完璧なゆで加減の卵とフィリナの紅茶を楽しめるはずだったが、今日は時間が限られており、ゆっくりと味わう暇がなかった。
 メイドたちに二人がかりで着替えさせられている間、セシルの頭の中はモルフェシアの真実と昨日聞けなかったことでいっぱいだった。
 自動車も飛空艇も、魔法で動いてるってこと?
 お婆ちゃんがパーシィの命の恩人で、だから今度はオレを守ってくれる。
 その代りにオレがパーシィを助けるのは、百歩譲ってわかるけど。
 そうだとしても。セシルはむすっとした。女装する必要は無いと思うけど。

「はい、ドロワーズですよ」

「それぐらい自分で穿けるってば」

 急かすバーバラ、丁寧なフィリナの手で姿見の中にはあっと言う間に愛らしい令嬢が現れた。
 もちろんリアではない。セシルの髪とそっくりの色をしたかつらには埃一つないし、今日のワンピースは春を先取りしたかのような可憐なペールグリーンだ。それを芝生のようにして、首元には桃色の花のごときスカーフがふんわりと咲いている。靴はベルト付きのパンプスを勧められたが、そこは履き慣れたレースアップブーツでと押し通した。

「さあ、お帽子も」

 フィリナからは、冷たさの残る突風でかつらが脱げないようにと紺色のベレー帽を頭に載せられた。鏡の中の美少女がどんどん完璧に近づく。まるで生きた着せ替え人形だ。
 メイドのセンスに感心すると同時に、少女姿の己を見慣れている自分が呪わしくもあった。コスモス色のコートの上からお気に入りの真っ赤な皮鞄を斜めがけにする。
 少年は階段を下りた先の玄関ホールで煤けた色合いを纏ったパーシィに出会った。
 彼もまた帽子をかぶり、よく目立つ蜂蜜色の髪を隠していた。
 二人は並ぶとどちらともなく歩き出した。セシルは扉を開けてくれたナズレに手を振った。
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