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第一楽章 手紙を書く女-Allegro con brio-

1-3 古の歌(10)

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「そんなに笑わなくてもいいだろう」

「だって我慢してるから。好きじゃないならそう言えばいいのに。強がっちゃってさ」

「強がってなどいない」

 パーシィは少しむっとしてみせたが、すぐに目元を緩ませた。
 蝋燭の炎で、蜂蜜色の髪が朝焼けの太陽と同じ色に染まっている。

「そろそろ、僕と言う人間が解ってきたんじゃないか、セシル?」

「そう?」

 少年はカップを持たない右手で机に顎肘をついて、小首をかしげた。

「パーシィは秘密主義者って感じ。嘘は吐かないけど、その代わりなんにも教えてくれない」

「それは、聞かれないからだ」

 二人は蝋燭を挟み、揃ってくちびるを尖らせた。

「それが不親切なんだよ」

「興味のない話を延々と語られるのは嫌なものだろう。君もそうかな、と」

「そりゃ、全然興味のない人からされるのは嫌。でも、いろいろと親切にしてくれる人の話は聞いてみたいかな」

「例えば、何を知りたい?」

「そうだなぁ。女装を辞める方法とか」

 投げやりに言ったセシルは、体を一つ震わせた。
 夜が冷やした空気に耐えかねたのだ。すると青年が彼の羽織っていたニットをかけてくれた。

「それは難しいな。あれは見た目に反して君を守る鎧のようなものだから」

 パーシィは長い両腕を自らに巻き付けるようにして組んだ。

「その余計な気遣いのせいで魔女だってばれそうなんだけど」

「では、君を守れるよう、魔法の秘密を教えて欲しい。僕も秘密を教えよう」

 セシルはにやりとしてみせた。

「わかった。でも、眠たくなったら言ってね。そのときはベッドを貸してあげる」
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