579 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
209-2.同情に勝る義務
しおりを挟む
「悪いな。他の奴らにはちっとばかり眠ってもらってる」
彼の姿を視認したと同時に至った結論。それを改めて突き付けられたユーグは顔を顰めながら後方へ下がり、相手と距離を取る。
それを更に詰めるべくエリアスが地面を蹴るも、直後に彼とユーグの間に氷の床が現れた。
瞬く間に凍結した足場。それは気を抜けば足を掬われてしまうであろう罠だ。
だがエリアスは躊躇うことなく氷の上へ踏み出した。
身を屈め、片膝をつきながら剣を構える。
突如現れた罠にも瞬時に対応し、体勢を安定させたまま次の一手に備える。
(まずい、悪手だったか……っ)
あまりにも戦い慣れしたその動きにユーグは僅かに狼狽える。
滑る床を利用して距離を詰めるその動きは通常時よりも更に加速する。ユーグが可能な限り距離を維持しようと後退するも、エリアスは難なく氷の床を渡り終え、ユーグの移動速度とは比にならない速さで接近する。
何とか接近を阻止しようとユーグは複数の魔法を同時に行使する。
水の砲撃とそれに纏わりつく雷、彼を取り囲むように生成される氷の矢、道の土台を変形させた土の槍。
だがそれらは悉く回避されていく。
感電狙いの攻撃は半身で躱し、降り注ぐ矢は身を屈めて潜り抜け、突き出した槍は飛び越えていく。
着実に詰められていく距離。そしてそれがエリアスの武器のリーチ内へ入り込んだと同時、彼は剣を振り上げた。
(こいつ……っ! 彼を巻き込むつもりか!?)
今のユーグはオリヴィエを横抱きにしている。それはエリアスが闇雲に剣を振るえばその攻撃はユーグよりも先にオリヴィエへ命中してしまうことに他ならない。
エリアスの目的がオリヴィエの奪還である事はユーグも悟っている。だからこそこの大胆な行動に動揺しているのだ。
敵が攻撃範囲に入ったことで焦ったのか、元より思慮が浅い人間なのか。相手の動きに自分の予測を超えるだけの意図があるのか。
次々と脳裏を過っては消える疑問。それの結論が出るよりも先にエリアスは更に相手の肝を冷やす行動を取る。
「フレイム・ヴェイル」
「く……っ」
短い呪文。直後、彼の武器は炎を帯びる。
更に増す脅威。それに怯んだユーグは氷の障壁を生み出すが、炎と氷の相性は最悪だ。
振り下ろされた剣が障壁へぶつかれば、それと同時に蒸気を放ちながら氷が消えていく。
そして銀色の刃と炎がユーグとオリヴィエへ襲い掛かった。
(……っ駄目だ。彼を傷付けるわけには――)
一刻を争う状況下。彼は咄嗟に氷の槍を放った。
「あ……っ」
魔法を放った瞬間、彼は自身の過ちに気付く。だがその頃にはその過ちを自ら対処する事が出来ないところまでやってきていた。
彼の姿を視認したと同時に至った結論。それを改めて突き付けられたユーグは顔を顰めながら後方へ下がり、相手と距離を取る。
それを更に詰めるべくエリアスが地面を蹴るも、直後に彼とユーグの間に氷の床が現れた。
瞬く間に凍結した足場。それは気を抜けば足を掬われてしまうであろう罠だ。
だがエリアスは躊躇うことなく氷の上へ踏み出した。
身を屈め、片膝をつきながら剣を構える。
突如現れた罠にも瞬時に対応し、体勢を安定させたまま次の一手に備える。
(まずい、悪手だったか……っ)
あまりにも戦い慣れしたその動きにユーグは僅かに狼狽える。
滑る床を利用して距離を詰めるその動きは通常時よりも更に加速する。ユーグが可能な限り距離を維持しようと後退するも、エリアスは難なく氷の床を渡り終え、ユーグの移動速度とは比にならない速さで接近する。
何とか接近を阻止しようとユーグは複数の魔法を同時に行使する。
水の砲撃とそれに纏わりつく雷、彼を取り囲むように生成される氷の矢、道の土台を変形させた土の槍。
だがそれらは悉く回避されていく。
感電狙いの攻撃は半身で躱し、降り注ぐ矢は身を屈めて潜り抜け、突き出した槍は飛び越えていく。
着実に詰められていく距離。そしてそれがエリアスの武器のリーチ内へ入り込んだと同時、彼は剣を振り上げた。
(こいつ……っ! 彼を巻き込むつもりか!?)
今のユーグはオリヴィエを横抱きにしている。それはエリアスが闇雲に剣を振るえばその攻撃はユーグよりも先にオリヴィエへ命中してしまうことに他ならない。
エリアスの目的がオリヴィエの奪還である事はユーグも悟っている。だからこそこの大胆な行動に動揺しているのだ。
敵が攻撃範囲に入ったことで焦ったのか、元より思慮が浅い人間なのか。相手の動きに自分の予測を超えるだけの意図があるのか。
次々と脳裏を過っては消える疑問。それの結論が出るよりも先にエリアスは更に相手の肝を冷やす行動を取る。
「フレイム・ヴェイル」
「く……っ」
短い呪文。直後、彼の武器は炎を帯びる。
更に増す脅威。それに怯んだユーグは氷の障壁を生み出すが、炎と氷の相性は最悪だ。
振り下ろされた剣が障壁へぶつかれば、それと同時に蒸気を放ちながら氷が消えていく。
そして銀色の刃と炎がユーグとオリヴィエへ襲い掛かった。
(……っ駄目だ。彼を傷付けるわけには――)
一刻を争う状況下。彼は咄嗟に氷の槍を放った。
「あ……っ」
魔法を放った瞬間、彼は自身の過ちに気付く。だがその頃にはその過ちを自ら対処する事が出来ないところまでやってきていた。
0
お気に入りに追加
82
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
危険な森で目指せ快適異世界生活!
ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・
気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました!
2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・
だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・
出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!
♢ ♢ ♢
所謂、異世界転生ものです。
初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。
内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。
「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。
※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた
八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』
俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。
レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。
「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
別サイトでも投稿しております。
怒れるおせっかい奥様
asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。
可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。
日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。
そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。
コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。
そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。
それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。
父も一緒になって虐げてくるクズ。
そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。
相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。
子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない!
あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。
そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。
白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。
良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。
前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね?
ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。
どうして転生したのが私だったのかしら?
でもそんなこと言ってる場合じゃないわ!
あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ!
子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。
私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ!
無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ!
前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる!
無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。
他の人たちのざまあはアリ。
ユルユル設定です。
ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる