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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

208-2.逃げる者と奪い返す者

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(まあ……させねぇけどな……っ!)

 三人に促された魔導師はエリアスに背を向けると別の道へ向かって走り出す。
 更に残された三人が各々無詠唱で魔法を放ち、エリアスを牽制した。

 降り注ぐ氷の矢、走る稲妻、空を裂いて迫る風の刃。それらが突如として襲い掛かるが、エリアスは躊躇うことなく地を蹴った。

(前も思ったけど……多分、手加減してるのは向こうも同じだな)

 氷の矢の落下位置を的確に判断して半身で躱す。
 地面とぶつかった氷が次々と弾ける音を聞きながらエリアスは魔導師達の意図を分析する。

 無詠唱で魔法を行使しているとは言え、彼らが用いている魔法はどれも中級止まり。更にその一撃一撃は例え被弾しても致命傷にはならないであろう威力だ。
 専門外である魔法に詳しくのないエリアスであっても、魔法に精通した国が認める魔導師の実力がよもやこの程度であるなどとは思っていない。

 魔法を学んでいる最中のノアの実力を間近で見ていたからこそ、その上を行くはずの彼らの実力が優れている事をエリアスは悟ることが出来た。

(市街地に被害が及ぶ事を懸念してか、オレを殺してしまう事を懸念してか、その両方か――どちらにせよ、オレにとって都合が良いって事だ)

 相手の攻撃の軌道が読み易いというのは武器のリーチが存在するエリアスにとってはありがたい事だ。
 相手との距離が詰め易くなる上に、魔導師は遠方にまで攻撃を届けることが出来る性質上、精度など魔法関連の技術に特化している魔導師は近接戦闘を苦手とする節がある。

 故に距離を詰め、自らの得意分野にさえ持ち込むことが出来ればエリアスの独壇場。そう至るまでの難度を相手自らが下げてくれている状況はエリアスにとってメリットしかなかった。

 無駄な動きの一切を削り、肌を掠めそうな程際どい位置で彼は氷の矢を回避していく。
 そこへ迫る旋風。一つ一つの威力は小さくとも数が多いそれが一斉に飛び交う。
 迫る風に気付いたエリアスはしかし前進を諦めはしない。

 目視が出来ない空気の流れ。その気配を的確に感じ取った彼は進路を防ぐそれらを次々と斬り伏せる。
 剣にぶつかった風は刃の通った箇所に出来た隙間を広げ、やがて霧散する。

 そこへ消えた傍から再生成される氷の矢が頭上へ現れ、更には彼の眼前へと稲妻が迸る。
 だが位置、軌道、速度、その全てを見極めたエリアスは即座に体の角度を傾け、踵から地面へと滑り込んだ。
 摩擦を引き起こしながら体の位置を限界まで引き下げた彼の頭上を稲妻が通過し、地面を削って消滅。彼の後方では目標を捉えることの出来なかった氷の矢が砕け散った。

 全ての攻撃が通過したことを確認したエリアスは地面を手で弾いてすぐさま起き上がる。
 彼の目と鼻の先には魔導師が三人。顔を引き攣らせながらエリアスを見ていた。

 その場で口角を上げたのは未だ余裕を残した一人だけだった。
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