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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

208-1.逃げる者と奪い返す者

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 魔導師達は先を急ぐ。
 彼らは首都グロワールからニュイへ派遣された国家魔導師。彼らには一刻も早く任務を終えてグロワールへ戻らなければならない理由があった。

 だが先を急ぐ最中、行く道を阻むように曲がり角から一人の男が飛び出し、否が応でも足を止めさせられる事となる。

「ふぃー、間に合った間に合った」
「お前は……!」

 進路を阻むように立つ男――エリアスは不敵に笑いながら魔導師達を見据える。
 既に一度戦った相手。見覚えのあるその顔に魔導師達は身構える。

「言いたい事、わかるだろ? そいつ置いてってくれないか」

(追いついたのは良いけど、流石に剣で斬りつける訳にゃいかないしなぁ。ちょっと分が悪いか。……とはいえ)

 会話で場を繋ぎながらエリアスはオリヴィエや魔導師達を観察する。
 そして彼は魔導師の一人に抱えられたまま衰弱しているオリヴィエの姿を見て目を細めた。

(オリヴィエの様子が明らかにおかしい。毒か? なんにせよ早めに終わらせた方がいい)

 手からの出血、衣服や顔を大きく汚す血の跡。弱っている様子を窺うにも彼の体に何かしらの不調が起きていることは明白だ。そしてそれが毒物によるものではないかという答えに至るまでをエリアスは短時間で行った。

(敵の無力化、枷の鍵と解毒剤の奪取、オリヴィエの回収……やるべきことはこのくらいか)

 毒を扱う敵ならば万一の場合に備えて解毒剤を持ち歩く事が殆ど。拘束具を扱う場合の鍵も同様だ。
 自らのすべき事を明確化したエリアスは相手の出方を窺う。

「……出来ない相談だな」
「やっぱそうだよなぁ」

 エリアスの頼みには短く拒絶する言葉が返される。
 勿論想定内である回答にエリアスはわざとらしく肩を竦める。

 話し合いをどれだけ続けても平行線。意味はないだろう。
 そう判断したエリアスは、オリヴィエがどんな薬を盛られたかわからない以上、出来るだけ早く治療に当たった方がいいだろうと剣を引き抜いた。

「ここでオレが手ぶらで帰ったら……多分気にしちまう人もいるからさ。悪いけどもう一回戦付き合ってくれよ」

 クリスティーナが気にするだろうという事もあるが、エリアス自身も知人がぞんざいな扱いを受ける姿を見ていたくはないという情もある。
 故に必ず連れ帰るという意志の下、彼は魔導師達と対峙する。

 だが一方で魔導師達の目的はオリヴィエの回収であり、エリアスの対処ではない。

「班長」
「頼んだ」

 先頭に立っていた男を庇う様に三人の魔導師が前へ出る。
 エリアスが相当な実力者である事は日中の戦闘で把握している。故に厄介な相手を全員で対処するのではなく、オリヴィエを抱えている男を先に逃がすべく他の魔導師が時間を掛ける算段の様だ。
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