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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

207-2.旅路で培われた物

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 更にエリアスの目は集団が通り過ぎる一瞬の内に彼が意識を失っている事や両手を拘束する鉄枷までもを捉える。
 日中の襲撃者と同じ服装、ヘマから聞かされた話、拘束されたまま運ばれるオリヴィエ。

 それだけ条件が揃えば、今の状況がオリヴィエにとって良からぬ物である事は察しが付く。

「おいおいおい……っ!」

 既に右手の道へと姿を消した一行。別の道からそれを先回りしようと一歩踏み込むが、そこでエリアスは足を止めた。
 彼はすぐ傍にある宿の方を見やる。

(いや、オレの役目はクリスティーナ様の護衛……。休憩中とはいえ勝手に離れてもいいのか……?)

 今のエリアスは主人を守る事を第一に動かなければならない立場だ。それを一時的に放棄し、無断で離れる事は正しい事なのだろうか。
 そんな懸念が彼の頭を過る。

(傍にはリオがいる。余程の事がなければクリスティーナ様に危険が及ぶことはないはずだ。クリスティーナ様が噂通りの癇癪持ちでない事ももうわかっている。恐らくあの人は後で謝罪をすれば許してはくれるだろう)

 だが、それでも万一の事はある。大丈夫だろうと高を括った先で何かが起きてしまえば手遅れなのだ。

(戻って指示を仰ぐ? ……いや、それじゃあきっと見失う。せめてこの場にクリスティーナ様がいれば直接指示を聞けたのに)

 エリアスは乱暴に頭を掻き上げる。
 助けに行きたいという気持ちと騎士としての使命、どちらを優先すればいいのか。頭を悩ませれば悩ませる程時間は過ぎていき、焦る気持ちが募っていく。

(クリスティーナ様がここにいれば――)

 クリスティーナが自分と同じ光景を目の当たりにしたのならば。そんな考えが過ったその瞬間、様々な思考が絡まった頭が突如として晴れていく。

「……なんだ、簡単じゃん」

 クリスティーナと面識のない頃、エリアスが耳に挟んだ彼女の噂は酷い物であった。
 口を開けば毒を吐き、癇癪持ちで周りを困らせ、家族の顔に泥を塗る悪女。

 だが、エリアスはもう知っている。
 厳しい言葉とは裏腹に、彼女は人の為に動かずにはいられない人物であるという事を。
 誰かの悲しみを知ればそれを和らげようとする人物であるという事を。
 傲慢な態度と厳しい口調の裏に隠された不器用で優しい一面を、僅かながら悟っている。

 クリスティーナはオリヴィエに対し少なからず苦手意識を持っているはずだ。
 だが彼女は一度関りを持ち、同じ時間を刻んだ相手であればきっと簡単に切り捨てることが出来ない。
 だからこそ、もしこの場にクリスティーナがいたのであれば――

「――行けって言うよなぁ……!」

 向かうべきは勿論去って行った魔導師の集団の行く先。
 エリアスは口角を上げると地面を蹴った。
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