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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
204-1. 刃が齎す物
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「ぐ……っ」
肉が貫かれ、破れた血管から血が溢れ出す。
走る痛みにオリヴィエは歯を食いしばり、顔を顰めた。
突き出されたナイフは彼の掌を貫いていた。
「――なんで」
ブランシュは呆然としながら呟く。
オリヴィエが避けようとする素振りすら殆ど見せなかった事に対する言葉だろう。
オリヴィエは冷や汗を滲ませながら口角を上げる。
だが彼女の問いには答えなかった。
「お前がお前自身の正しさを貫くという事自体に文句をつけるつもりはない。……けどな。後戻りできない選択をする時、後悔しないと言い切れるくらいの覚悟は持っておけ。揺らぐ程度の信念であるならその手前で踏み止まるべきだった」
オリヴィエはナイフを握る手が震えているのを視界に捉える。
突き刺さったナイフから自身の手を引き抜きながら彼は呟く。
「……お前は僕に刃を向けた。そうした以上、今後僕達に協力を仰ぐことは出来ない。今後降り掛かる災いは自分一人でどうにかするしかない」
彼の傷口から血が溢れ、指先を伝って地面を汚していく。
オリヴィエは指輪に魔力を籠める。すると彼の衣服が淡く光を帯び、瞬く間に指輪へと吸い込まれて消える。
代わりに彼の身を包むのは彼が日頃着用している物だ。
更にオリヴィエは仮面を外し、懐へしまい込むと立ち尽くすブランシュの横を通り過ぎる様に歩き出す。
「精々、自身の行いを悔いる事がない様足掻いてみせるんだな」
耳元で囁き、彼女の横をすり抜けたオリヴィエはしかし、彼女の後方で直ぐに足を止めた。
「それを持って行けば奴も満足するだろう」
「え……」
「何を驚いてるんだ。お前の目的は僕を殺す事じゃあない。そいつで僕に傷をつける事なんだろ?」
ブランシュは驚愕し、弾かれたように振り返る。
その様子にオリヴィエは肩を竦め、怪我を負っていない方の手でナイフを指さした。
「……ジョゼフ・ド・オリオールの性格からして、奴は散々恥をかかされた僕に直接手を下したがるはずだ。だからお前が受けた指示は暗殺ではない。にも拘らずお前に武器を持たせたのは――恐らく毒物の類を仕込んでいるからだ」
図星だったのだろう。ブランシュの顔色が見る見る内に青くなっていく。
それに構うことなく、オリヴィエは話しを続ける。
「直に別の追手が来るな。弱った僕を取り囲み、捕縛する。恐らくはそういう算段だ」
「そ……そこまでわかっていたのに、どうして……」
「目的はあくまで弱らせる事。なら殺傷能力の高すぎる毒は選ばないだろう。死にはしないと判断しただけだ」
淡々と語る彼はしかし、途中で大きな眩暈に襲われ息を詰める。
長居をすれば控えている追手に追いつかれる可能性も高まる。それまでに拠点へ転がり込まなければと彼は再び歩を進めた。
「違う、そうじゃない!」
後方で叫ぶ声が聞こえたが、それに足を止めてやる余裕はない。
彼が背を向けたままブランシュから距離を取り続ければ、彼女の声が再び届いた。
「……どうして、ナイフを受けたの…………?」
大きく歪み続ける視界、内側を直接殴られているかのような頭痛。
着実に悪化していく体調を抱え、額に汗を掻きながらもオリヴィエは喉の奥で笑って振り返った。
「僕はな、女性に弱いんだ」
肉が貫かれ、破れた血管から血が溢れ出す。
走る痛みにオリヴィエは歯を食いしばり、顔を顰めた。
突き出されたナイフは彼の掌を貫いていた。
「――なんで」
ブランシュは呆然としながら呟く。
オリヴィエが避けようとする素振りすら殆ど見せなかった事に対する言葉だろう。
オリヴィエは冷や汗を滲ませながら口角を上げる。
だが彼女の問いには答えなかった。
「お前がお前自身の正しさを貫くという事自体に文句をつけるつもりはない。……けどな。後戻りできない選択をする時、後悔しないと言い切れるくらいの覚悟は持っておけ。揺らぐ程度の信念であるならその手前で踏み止まるべきだった」
オリヴィエはナイフを握る手が震えているのを視界に捉える。
突き刺さったナイフから自身の手を引き抜きながら彼は呟く。
「……お前は僕に刃を向けた。そうした以上、今後僕達に協力を仰ぐことは出来ない。今後降り掛かる災いは自分一人でどうにかするしかない」
彼の傷口から血が溢れ、指先を伝って地面を汚していく。
オリヴィエは指輪に魔力を籠める。すると彼の衣服が淡く光を帯び、瞬く間に指輪へと吸い込まれて消える。
代わりに彼の身を包むのは彼が日頃着用している物だ。
更にオリヴィエは仮面を外し、懐へしまい込むと立ち尽くすブランシュの横を通り過ぎる様に歩き出す。
「精々、自身の行いを悔いる事がない様足掻いてみせるんだな」
耳元で囁き、彼女の横をすり抜けたオリヴィエはしかし、彼女の後方で直ぐに足を止めた。
「それを持って行けば奴も満足するだろう」
「え……」
「何を驚いてるんだ。お前の目的は僕を殺す事じゃあない。そいつで僕に傷をつける事なんだろ?」
ブランシュは驚愕し、弾かれたように振り返る。
その様子にオリヴィエは肩を竦め、怪我を負っていない方の手でナイフを指さした。
「……ジョゼフ・ド・オリオールの性格からして、奴は散々恥をかかされた僕に直接手を下したがるはずだ。だからお前が受けた指示は暗殺ではない。にも拘らずお前に武器を持たせたのは――恐らく毒物の類を仕込んでいるからだ」
図星だったのだろう。ブランシュの顔色が見る見る内に青くなっていく。
それに構うことなく、オリヴィエは話しを続ける。
「直に別の追手が来るな。弱った僕を取り囲み、捕縛する。恐らくはそういう算段だ」
「そ……そこまでわかっていたのに、どうして……」
「目的はあくまで弱らせる事。なら殺傷能力の高すぎる毒は選ばないだろう。死にはしないと判断しただけだ」
淡々と語る彼はしかし、途中で大きな眩暈に襲われ息を詰める。
長居をすれば控えている追手に追いつかれる可能性も高まる。それまでに拠点へ転がり込まなければと彼は再び歩を進めた。
「違う、そうじゃない!」
後方で叫ぶ声が聞こえたが、それに足を止めてやる余裕はない。
彼が背を向けたままブランシュから距離を取り続ければ、彼女の声が再び届いた。
「……どうして、ナイフを受けたの…………?」
大きく歪み続ける視界、内側を直接殴られているかのような頭痛。
着実に悪化していく体調を抱え、額に汗を掻きながらもオリヴィエは喉の奥で笑って振り返った。
「僕はな、女性に弱いんだ」
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