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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
201-1.浅はかな罠と胸騒ぎ
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床を踵で叩きながらオリヴィエは先を急ぐ。
前方、後方共に次々と現れるオークション関係者。それを次々と往なし、彼は着実に舞台裏へと近づく。
「ま、待て……!」
押し寄せる関係者。それをギリギリまで引き寄せ、オリヴィエは地面を蹴った。
彼の体は重力を無視して浮き上がり、集まる男達の頭上を通過した。
軽快な音を伴い、華麗に着地する。
自身の進行方向且つ、関係者らの背後に立つと彼は相手を挑発する様に軽く手を振った。
そして煙玉を投げ捨てると煙の中へ飛び込み、追手を撒く。
やがて彼は壇上の真裏である広い空間まで出る。舞台から聞こえる声に耳を傾ければ、丁度今晩のオークション最大の目玉にして最後の商品の紹介が為されている最中であった。
最大の大目玉とは言わずもがな、オリヴィエ達の回収対象である古代魔導具の事。
だが侵入者の動きを阻止すべく、その場に居合わせた者や騒ぎに駆け付けた者達が彼を取り囲み始めた。
離れた位置から聞こえる魔導具の紹介は大詰め。まもなく競りが始まるという頃合いだ。
(ったく、面倒だな)
「申し訳ありません。少々先を急いでおりますので、道を開けていただきたく――」
内心舌打ちでもしてやりたい気持ちになりつつもオリヴィエは怪盗としての自分を演じる。
そして自身の台詞を最後まで言い切るよりも先、彼は動き出した。
手を伸ばす事でまず三人に触れる。更に自らを捉えようと逆に手を伸ばしてきた四名の腕を弾いて避ける。
加えて後方、逃げ道を塞ぐ様に立つ三名へ距離を詰めると回し蹴りを放ち、その爪先で接触を果たす。
おまけに次々とやって来る有象無象。彼は天井の高い舞台裏を自由に飛び回っては着地し、追手一人ひとりへ確実に接触をする。
指先で、爪先で、時に伸ばされる手を敢えて避ける事無く。そしてその場の二、三十程の相手全員に短時間で接触した彼は押し寄せる人々の中央に降り立つと不敵に笑って床を指さした。
「”跪け”」
刹那、関係者らは一人残さずその場に這いつくばる事を強制される。
途轍もない重圧。目に見えない何かに押し潰されるような圧倒的な力に彼らはなす術もない。
大きな数の差。それをものともせず、たった一言でその場にいた全員の自由を奪い去った彼は、足元で呻く大勢には見向きもせず、涼しい顔で舞台袖へと足を進めていく。
しかしその足は舞台へと踏み出すより先、彼が視界に何かを捉えたことで止められる。
舞台裏に複数存在する廊下。その内の一本、とある扉から素早く飛び出す人影を彼は見た。
フードを深く被った小柄な人影。その片手には金色の鎖に繋がれたロケットペンダントが握られている。
ペンダントを握った相手もまたオリヴィエの視線に気付いたらしく、出口へ向けた爪先をそのままに振り返る。
そしてフードの下で口に大きな弧を描きながら、手元にあるそれを見せびらかす様に掲げた。
フードの下から覗くのはあどけなさの残る少年の顔。日中行動を共にした仲間の顔だ。
ヴィートはオリヴィエに片目を瞑る。その視線に応えるように小さく頷いてからオリヴィエは進行方向へと向き直った。
ヴィートもまたフードを被り直すと今度こそ出口へと向かって走り去っていく。
それを視界の端に留めつつ、オリヴィエは舞台へと一歩踏み出した。
コツン、と小気味いい音が響いた。
前方、後方共に次々と現れるオークション関係者。それを次々と往なし、彼は着実に舞台裏へと近づく。
「ま、待て……!」
押し寄せる関係者。それをギリギリまで引き寄せ、オリヴィエは地面を蹴った。
彼の体は重力を無視して浮き上がり、集まる男達の頭上を通過した。
軽快な音を伴い、華麗に着地する。
自身の進行方向且つ、関係者らの背後に立つと彼は相手を挑発する様に軽く手を振った。
そして煙玉を投げ捨てると煙の中へ飛び込み、追手を撒く。
やがて彼は壇上の真裏である広い空間まで出る。舞台から聞こえる声に耳を傾ければ、丁度今晩のオークション最大の目玉にして最後の商品の紹介が為されている最中であった。
最大の大目玉とは言わずもがな、オリヴィエ達の回収対象である古代魔導具の事。
だが侵入者の動きを阻止すべく、その場に居合わせた者や騒ぎに駆け付けた者達が彼を取り囲み始めた。
離れた位置から聞こえる魔導具の紹介は大詰め。まもなく競りが始まるという頃合いだ。
(ったく、面倒だな)
「申し訳ありません。少々先を急いでおりますので、道を開けていただきたく――」
内心舌打ちでもしてやりたい気持ちになりつつもオリヴィエは怪盗としての自分を演じる。
そして自身の台詞を最後まで言い切るよりも先、彼は動き出した。
手を伸ばす事でまず三人に触れる。更に自らを捉えようと逆に手を伸ばしてきた四名の腕を弾いて避ける。
加えて後方、逃げ道を塞ぐ様に立つ三名へ距離を詰めると回し蹴りを放ち、その爪先で接触を果たす。
おまけに次々とやって来る有象無象。彼は天井の高い舞台裏を自由に飛び回っては着地し、追手一人ひとりへ確実に接触をする。
指先で、爪先で、時に伸ばされる手を敢えて避ける事無く。そしてその場の二、三十程の相手全員に短時間で接触した彼は押し寄せる人々の中央に降り立つと不敵に笑って床を指さした。
「”跪け”」
刹那、関係者らは一人残さずその場に這いつくばる事を強制される。
途轍もない重圧。目に見えない何かに押し潰されるような圧倒的な力に彼らはなす術もない。
大きな数の差。それをものともせず、たった一言でその場にいた全員の自由を奪い去った彼は、足元で呻く大勢には見向きもせず、涼しい顔で舞台袖へと足を進めていく。
しかしその足は舞台へと踏み出すより先、彼が視界に何かを捉えたことで止められる。
舞台裏に複数存在する廊下。その内の一本、とある扉から素早く飛び出す人影を彼は見た。
フードを深く被った小柄な人影。その片手には金色の鎖に繋がれたロケットペンダントが握られている。
ペンダントを握った相手もまたオリヴィエの視線に気付いたらしく、出口へ向けた爪先をそのままに振り返る。
そしてフードの下で口に大きな弧を描きながら、手元にあるそれを見せびらかす様に掲げた。
フードの下から覗くのはあどけなさの残る少年の顔。日中行動を共にした仲間の顔だ。
ヴィートはオリヴィエに片目を瞑る。その視線に応えるように小さく頷いてからオリヴィエは進行方向へと向き直った。
ヴィートもまたフードを被り直すと今度こそ出口へと向かって走り去っていく。
それを視界の端に留めつつ、オリヴィエは舞台へと一歩踏み出した。
コツン、と小気味いい音が響いた。
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