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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
199-3.舞台裏
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小さく柔い手が自分の手を引く。花の様な愛らしい笑顔を称える少女が長い髪を揺らす。
彼女につられるように自分も大きく笑って駆け出す。
温かな日差しを全身に受けて走り回る二人。それを後ろから呼び止める声がした。
素直に足を止めて振り返る。自分達の元へ近づくのは見覚えがあったはずの『誰か』。
朗らかな笑顔、優しい声で誰かが頭を撫でる。
くすぐったくもあり、温かくもある手。撫でられる感覚はどこか照れ臭さを与えつつも、好ましい物であり、自分は笑顔を咲かせる。
自分へ向けられた優しい手、そして自分を呼ぶ声。
それが自分は――
場面が転換する。
赤く染まった両手、咽返る様な血の臭い。
自分の足元に転がるのはかつてあれ程までに愛らしかった幼き少女。
それは腕の関節が捻じれ、骨を潰されたままか細い息をしている。
その様はさながら、無残に踏みつぶされた野花の様。
あまりに凄惨な光景。何が起きたのかを理解することも出来ず、答えを求める様に後ろを振り返る。
かつて、自分の頭を撫でた誰かは呆然と立ち尽くしていた。そして自分がその人物へ近づこうとした瞬間、甲高い悲鳴を上げる。
そうしてこちらを指さし、何かを叫んだ。
「――ニコラ」
抑揚のない声がオリヴィエを呼ぶ。
同時に彼の意識は浮上した。
取締局の新たな拠点、その壁に凭れ掛かり時を待っていたオリヴィエはどうやらそのまま居眠りをしていた様だ。
声を掛けたのはヘマ。彼女は自身の色濃い肌をフォルトゥナ民の肌の色へと変え、更に普段の身軽な格好とは打って変わったドレスに身を包んでいる。派手ではないが品がある暗い色のドレス。それがオークションに潜入する際の彼女のドレスコードだ。
そしてオリヴィエもまた、以前民間オークションへ潜入した際と同じ様なタキシードに身を包み、更に髪色や瞳の色を昼間とはまた違う色へ変えている。
「……そろそろか」
「ああ」
オリヴィエは懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。
ヘマは彼の言葉に頷きながらも、気に掛けるような視線を向けた。
任務の直前に転寝をしてしまう程溜まっているらしい疲労、そして目を覚ましてからのオリヴィエの顔色が悪い事に気付いたからだ。
「大丈夫なのか? 最近ろくに眠れてないんだろう」
「問題ない」
だが彼は彼女の気遣いを短い返事で突っぱね、壁から離れる。
彼が一歩踏み出す度、踵が小気味いい音を鳴らす。
オリヴィエは今一度自身の服装を確認し、最後にタイの形を整えてから出口である扉まで速足で向かう。
今晩の任務に参加するのはオリヴィエやヘマだけではない。だが皆散って各々の役割を熟している為、固まって行動するのはオリヴィエとそのパートナー役であるヘマくらいである。
オリヴィエはヘマが後ろからついてきていることを確認すると、扉を押し開けた。
「――行くぞ」
彼女につられるように自分も大きく笑って駆け出す。
温かな日差しを全身に受けて走り回る二人。それを後ろから呼び止める声がした。
素直に足を止めて振り返る。自分達の元へ近づくのは見覚えがあったはずの『誰か』。
朗らかな笑顔、優しい声で誰かが頭を撫でる。
くすぐったくもあり、温かくもある手。撫でられる感覚はどこか照れ臭さを与えつつも、好ましい物であり、自分は笑顔を咲かせる。
自分へ向けられた優しい手、そして自分を呼ぶ声。
それが自分は――
場面が転換する。
赤く染まった両手、咽返る様な血の臭い。
自分の足元に転がるのはかつてあれ程までに愛らしかった幼き少女。
それは腕の関節が捻じれ、骨を潰されたままか細い息をしている。
その様はさながら、無残に踏みつぶされた野花の様。
あまりに凄惨な光景。何が起きたのかを理解することも出来ず、答えを求める様に後ろを振り返る。
かつて、自分の頭を撫でた誰かは呆然と立ち尽くしていた。そして自分がその人物へ近づこうとした瞬間、甲高い悲鳴を上げる。
そうしてこちらを指さし、何かを叫んだ。
「――ニコラ」
抑揚のない声がオリヴィエを呼ぶ。
同時に彼の意識は浮上した。
取締局の新たな拠点、その壁に凭れ掛かり時を待っていたオリヴィエはどうやらそのまま居眠りをしていた様だ。
声を掛けたのはヘマ。彼女は自身の色濃い肌をフォルトゥナ民の肌の色へと変え、更に普段の身軽な格好とは打って変わったドレスに身を包んでいる。派手ではないが品がある暗い色のドレス。それがオークションに潜入する際の彼女のドレスコードだ。
そしてオリヴィエもまた、以前民間オークションへ潜入した際と同じ様なタキシードに身を包み、更に髪色や瞳の色を昼間とはまた違う色へ変えている。
「……そろそろか」
「ああ」
オリヴィエは懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。
ヘマは彼の言葉に頷きながらも、気に掛けるような視線を向けた。
任務の直前に転寝をしてしまう程溜まっているらしい疲労、そして目を覚ましてからのオリヴィエの顔色が悪い事に気付いたからだ。
「大丈夫なのか? 最近ろくに眠れてないんだろう」
「問題ない」
だが彼は彼女の気遣いを短い返事で突っぱね、壁から離れる。
彼が一歩踏み出す度、踵が小気味いい音を鳴らす。
オリヴィエは今一度自身の服装を確認し、最後にタイの形を整えてから出口である扉まで速足で向かう。
今晩の任務に参加するのはオリヴィエやヘマだけではない。だが皆散って各々の役割を熟している為、固まって行動するのはオリヴィエとそのパートナー役であるヘマくらいである。
オリヴィエはヘマが後ろからついてきていることを確認すると、扉を押し開けた。
「――行くぞ」
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