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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

199-1.舞台裏

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 眠気がやって来たのか、欠伸を噛み殺しながらシャルロットが頷く。

「うん。本当に大したことなかったんだよ? どこかのささくれで引っ掻いちゃったくらいの傷で。私自身もどこで怪我したんだろーくらいの気持ちだったのに」

 シャルロットは白く骨ばった手を持ち上げ、その甲を眺める。
 彼女の容態が芳しくないことを悟らせる以外、特段異変は見当たらない手。恐らくは当時怪我をした箇所なのだろう。

「けどマノンったら、久しぶりに家に帰った事もあって心配性に拍車がかかったみたいで。私の手の甲から血が出てるのを見た瞬間、『お帰りになられた途端、やんちゃをなさるのはおやめくださいまし!』……って! 酷いでしょ、まだ何もしてなかったのに!」

 シャルロットは咳払いを一つしてマノンの声を真似る。
 それがあまりにも似ておらず、ジルベールは不意を衝かれて思わず吹き出しそうになった。

 込み上げる笑いを堪えるも、シャルロットが悪戯の成功した子供の様に笑みを深める様を見れば、自身の誤魔化しが通用しなかった事をジルベールは悟らされる。
 やや居心地の悪さを感じながら、彼もまた咳払いを一つ落とした。

「……大変お言葉ではありますが、シャルロット様の今までの行いが招いた結果ではないかと」
「ジルまで味方してくれないの!? ひどい!」
「ふふっ」

 抗議するシャルロットの声に耳を傾けたまま笑いを零す。
 その後も暫く彼女はオリオール邸での思い出話を語らった。
 彼女の口から出る名前の中には失踪者も含まれている。
 失踪者の名が出る度、彼らの迎えた最期が頭を過り、ジルベールの心中を複雑化した。


「……皆、いなくなっちゃったね」
「シャルロット様……」

(皆、シャルロット様や旦那様に親身にお仕えしてきた者だ。お体の調子も優れない中、そんな彼らが次々と姿を消せば不安に思うのも仕方のない事だ。そして私も……)

 複雑な感情を抱えながら聞き手に回っていたジルベールはそう呟いた彼女の思いを理解する。
 そして主人の心中を察することが出来るからこそ、彼は自身が告げなければならない話に躊躇してしまう。

 しかし躊躇いこそあれど、足踏みをする暇がない程状況が緊迫している事はわかっている。故にいつまでも迷っている場合ではないとジルベールは考え込んだ末に口を開いた。

「シャルロット様――」

 だがその時。力が抜けたようにシャルロットは項垂れた。
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