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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
198-2.変化の予兆
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(いや。シャルロット様は古代魔導具と接触した当時の事があまり印象に残っていない様子。
それは裏を返せば、明らかな不信感を与えず接触する方法があるという事か?)
リオの話では古代魔導具を保管している小部屋一帯には植物が張り巡らされていたという。恐らくは自身が目の当たりにした倉庫と同じ様な状態であったはずだ、とジルベールは考える。
であるならば、シャルロットがそれに対し何の言及もしないのはおかしい。加えて、蔦が意志を持って襲い掛かって来るという状況を目の当たりにしたのであればその場で騒ぎになっているだろう。
(シャルロット様が何かを隠していらっしゃる様子もない)
主人の顔色を窺いながらジルベールは情報を整理する。
シャルロットが古代魔導具と接触したのは古代魔導具の力が現在に比べて非常に弱々しい物であったころだ。そしてまだ館に失踪者が出ていなかった頃。
(恐らく部屋に張り巡らされていたという植物は他者を植物化した際に生まれた物……。シャルロット様が接触した後に発生した物なのだ。そうであればシャルロット様が『宝石』を不審に思わなくてもおかしくはない。……しかし)
ジルベールの中に新たな疑問が生まれる。
だが、それについて深く掘り下げるよりも先、過去を懐かしみ、微笑んでいたシャルロットが何かを思い出したように声を漏らした。
「……そうだ。付き合いの長い使用人で思い出した」
「いかがされました?」
「ほら、マノンってすごい心配性な上に神経質だったでしょ」
マノンと言うのはオリオール邸に仕えていたメイド長だ。ジルベールが使用人として未熟だった頃から世話になった人物であり、厳しくも人情に溢れた女性であった。
彼女は半年ほど前に突然離職し、以降はその名を耳にする事も殆どなかったが……。
「私がやんちゃするとめちゃくちゃ怒るけどその分沢山心配してくれて」
マノンにこっぴどく叱られた話をいくつか語るシャルロットの声に耳を傾け、ジルベールは微笑を浮かべる。
だがその胸中に渦巻くのは酷く濁った重い感情だ。
ジルベールは知っている。姿を消した彼女のその後を。
倉庫に広がる光景が彼の脳裏を過る。無残にも植物と化した者達の姿。その中にはメイド長の証である記章を付けた物が紛れていた。
胸の内に秘めた感情が溢れてしまわぬ様、ジルベールは静かに目を閉じる。
幸いにもシャルロットがジルベールの感情に気付くことはなかった。
彼女は穏やか且つ明るい声を保ちながら話を続ける。
「確かにその頃、怪我をして小言を言われた気がするんだよね」
「本当ですか?」
何気なく呟かれた言葉。それに食いつきそうになるのを何とか堪えながらジルベールは自身の声音を保ちつつ彼女へ聞き返した。
それは裏を返せば、明らかな不信感を与えず接触する方法があるという事か?)
リオの話では古代魔導具を保管している小部屋一帯には植物が張り巡らされていたという。恐らくは自身が目の当たりにした倉庫と同じ様な状態であったはずだ、とジルベールは考える。
であるならば、シャルロットがそれに対し何の言及もしないのはおかしい。加えて、蔦が意志を持って襲い掛かって来るという状況を目の当たりにしたのであればその場で騒ぎになっているだろう。
(シャルロット様が何かを隠していらっしゃる様子もない)
主人の顔色を窺いながらジルベールは情報を整理する。
シャルロットが古代魔導具と接触したのは古代魔導具の力が現在に比べて非常に弱々しい物であったころだ。そしてまだ館に失踪者が出ていなかった頃。
(恐らく部屋に張り巡らされていたという植物は他者を植物化した際に生まれた物……。シャルロット様が接触した後に発生した物なのだ。そうであればシャルロット様が『宝石』を不審に思わなくてもおかしくはない。……しかし)
ジルベールの中に新たな疑問が生まれる。
だが、それについて深く掘り下げるよりも先、過去を懐かしみ、微笑んでいたシャルロットが何かを思い出したように声を漏らした。
「……そうだ。付き合いの長い使用人で思い出した」
「いかがされました?」
「ほら、マノンってすごい心配性な上に神経質だったでしょ」
マノンと言うのはオリオール邸に仕えていたメイド長だ。ジルベールが使用人として未熟だった頃から世話になった人物であり、厳しくも人情に溢れた女性であった。
彼女は半年ほど前に突然離職し、以降はその名を耳にする事も殆どなかったが……。
「私がやんちゃするとめちゃくちゃ怒るけどその分沢山心配してくれて」
マノンにこっぴどく叱られた話をいくつか語るシャルロットの声に耳を傾け、ジルベールは微笑を浮かべる。
だがその胸中に渦巻くのは酷く濁った重い感情だ。
ジルベールは知っている。姿を消した彼女のその後を。
倉庫に広がる光景が彼の脳裏を過る。無残にも植物と化した者達の姿。その中にはメイド長の証である記章を付けた物が紛れていた。
胸の内に秘めた感情が溢れてしまわぬ様、ジルベールは静かに目を閉じる。
幸いにもシャルロットがジルベールの感情に気付くことはなかった。
彼女は穏やか且つ明るい声を保ちながら話を続ける。
「確かにその頃、怪我をして小言を言われた気がするんだよね」
「本当ですか?」
何気なく呟かれた言葉。それに食いつきそうになるのを何とか堪えながらジルベールは自身の声音を保ちつつ彼女へ聞き返した。
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