553 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
197-2.主従の対話
しおりを挟む
「シャルロット様は最近旦那様が大切にされている宝石をご覧になられた事はありますか? 最近使用人の間で噂になっていて」
「宝石? どんな?」
「何でも両手にすら収まらない程大きな、橙の宝石だとか」
「橙……あ。あれかな」
「お心当たりが?」
ジルベールの言葉に耳を傾け、記憶を辿ったシャルロットはふと声を漏らす。
そして再度投げられた問いに頷きを返した。
「うん。多分。とは言っても一回だけだったし、見たのは結構前……一年前とかだけど」
「一年前と言うと……シャルロット様が休学された頃の事ですか?」
「うん。ほら、休暇で戻って来た時かな。全然元気だった頃に」
(古代魔導具に干渉した経験がある。時期も体調を崩された頃と同じ……やはり)
「ジル……?」
シャルロットの不調が古代魔導具によるものである推測は正しい物であった。
黙りこくった相手の様子を不思議に思ったのか目を丸くするシャルロットの声にジルベールは我に返る。
「もしかして疲れてる?」
「いいえ」
「そう? ならいいけど」
シャルロットは当時の事を更に詳しく思い返す。
自身の記憶を整理する為か、彼女は当時についてぽつぽつと語り出した。
「ほら。私が家を離れてから、お父様は骨董品を集めるのが趣味になったでしょ? その延長で、自慢のコレクションを見せたいって言って見せてくれたことがあって」
ジョゼフは娘が遠方へ旅立ってから、その寂しさを埋める為か別の趣味を見つけた。それが骨董品集めであった。
最初は軽い趣味や娯楽程度で家系に影響を与える程の物ではなかったはずだ。知り合いの貴族らとの世間話として使う程度の話題のネタ。
それが気付けば骨董品へ向ける熱情をどんどん高めていきそれは次第に執着へと変わり、やがて家や治める領地にまで良からぬ影響を与える様になっていった。
「確かに大きくて綺麗だったかも? 正直手放しに喜べなかったし……そんな宝石を手に入れる余裕が家にあるとも思えなかったから凄い複雑な気持ちだったけど」
オリオール家の財政状況は大雑把にではあれどシャルロットも理解している。いくら慕っている父とは言え、自身の欲に塗れて財を消耗する姿は許容できるものではないだろう。
それでも彼女がオリオール家の財政状況を改善させることが出来ないのは彼女自身が未熟な学生であり、女性であり、ジョゼフが彼女の意見に耳を傾ける事をしないからだ。
「……噂になってるのってもしかして、うちの財政状況で明らかに高価な物を所持している状況に不信感が募ってる……とか?」
「い、いえ、そんな事は」
「ふふ、気遣わなくていいよ。うちの状況がまずいって事は……流石にわかるから」
咄嗟に否定の言葉が飛び出すも、オリオール家の現状とここまでの話の流れを鑑みればシャルロットがそう考えるのも自然であり、下手に別の理由を取ってつける方が不自然だ。
気落ちし、眉を下げてはにかむシャルロットの表情に声を掛けてやりたくなる事を堪え、ジルベールは口を閉ざす。
しかしシャルロットもそれ以上は何も語る事をせず、時間だけが過ぎていくことになる。
情報は得られた。だがまだ確認しなければならないことはある。
ジルベールは出来る限り会話が不自然にならない様、そして重苦しい空気にならない様気を遣いながら口を開いた。
「宝石? どんな?」
「何でも両手にすら収まらない程大きな、橙の宝石だとか」
「橙……あ。あれかな」
「お心当たりが?」
ジルベールの言葉に耳を傾け、記憶を辿ったシャルロットはふと声を漏らす。
そして再度投げられた問いに頷きを返した。
「うん。多分。とは言っても一回だけだったし、見たのは結構前……一年前とかだけど」
「一年前と言うと……シャルロット様が休学された頃の事ですか?」
「うん。ほら、休暇で戻って来た時かな。全然元気だった頃に」
(古代魔導具に干渉した経験がある。時期も体調を崩された頃と同じ……やはり)
「ジル……?」
シャルロットの不調が古代魔導具によるものである推測は正しい物であった。
黙りこくった相手の様子を不思議に思ったのか目を丸くするシャルロットの声にジルベールは我に返る。
「もしかして疲れてる?」
「いいえ」
「そう? ならいいけど」
シャルロットは当時の事を更に詳しく思い返す。
自身の記憶を整理する為か、彼女は当時についてぽつぽつと語り出した。
「ほら。私が家を離れてから、お父様は骨董品を集めるのが趣味になったでしょ? その延長で、自慢のコレクションを見せたいって言って見せてくれたことがあって」
ジョゼフは娘が遠方へ旅立ってから、その寂しさを埋める為か別の趣味を見つけた。それが骨董品集めであった。
最初は軽い趣味や娯楽程度で家系に影響を与える程の物ではなかったはずだ。知り合いの貴族らとの世間話として使う程度の話題のネタ。
それが気付けば骨董品へ向ける熱情をどんどん高めていきそれは次第に執着へと変わり、やがて家や治める領地にまで良からぬ影響を与える様になっていった。
「確かに大きくて綺麗だったかも? 正直手放しに喜べなかったし……そんな宝石を手に入れる余裕が家にあるとも思えなかったから凄い複雑な気持ちだったけど」
オリオール家の財政状況は大雑把にではあれどシャルロットも理解している。いくら慕っている父とは言え、自身の欲に塗れて財を消耗する姿は許容できるものではないだろう。
それでも彼女がオリオール家の財政状況を改善させることが出来ないのは彼女自身が未熟な学生であり、女性であり、ジョゼフが彼女の意見に耳を傾ける事をしないからだ。
「……噂になってるのってもしかして、うちの財政状況で明らかに高価な物を所持している状況に不信感が募ってる……とか?」
「い、いえ、そんな事は」
「ふふ、気遣わなくていいよ。うちの状況がまずいって事は……流石にわかるから」
咄嗟に否定の言葉が飛び出すも、オリオール家の現状とここまでの話の流れを鑑みればシャルロットがそう考えるのも自然であり、下手に別の理由を取ってつける方が不自然だ。
気落ちし、眉を下げてはにかむシャルロットの表情に声を掛けてやりたくなる事を堪え、ジルベールは口を閉ざす。
しかしシャルロットもそれ以上は何も語る事をせず、時間だけが過ぎていくことになる。
情報は得られた。だがまだ確認しなければならないことはある。
ジルベールは出来る限り会話が不自然にならない様、そして重苦しい空気にならない様気を遣いながら口を開いた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。
あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。
貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。
…あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?
前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・
y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える!
てってれてーてってれてーてててててー!
やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪
一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ
この小説の主人公は神崎 悠斗くん
前世では色々可哀想な人生を歩んでね…
まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪
前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる
久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく
色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー
友情、熱血、愛はあるかわかりません!
ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる