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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

195-2.特別という免罪符

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「特別……というのは彼の扱う魔法の事?」
「ああ」

 冷えた空気が四人の頬をなぞる。
 夜が近づくにつれて静けさを増す道を進みながらヘマは一つ息を吐いた。

「あいつは教員の制止を振り切って魔法学院を抜け出している。生徒一人が無断で学院を出て行く程度なら大した騒ぎにもならないだろうが、あいつは別だ」

 神の賜物ギフト。それがただの言い伝えとしてしか認識されない程、希少な存在であることをクリスティーナは知っている。
 迷宮『エシェル』からの脱出案を出された際、オリヴィエはノアの提案を呑むことを渋った。それも彼が学院を抜け出した事と関りがあるのだろう。

「あいつが『特別』だから、国や学院は自身の目の届く範囲にあいつを置いておきたい。だからあいつを連れ戻しに来たんだろう」

 魔法の研究者としての視点から見ればオリヴィエの存在を重要視する考えも理解は出来るとクリスティーナは思った。
 魔法適性に縛られない魔法を扱う存在。その仕組みが理解出来れば人類の魔法に更なる可能性が生まれる。
 そしてその貴重な研究対象であるオリヴィエの身に何かが起きれば替えは利かないのだ。それに、例え研究対象が無事であったとしても手に届かない場所まで離れてしまえば魔導師達にとっては大きな痛手だろう。

(……考えは、理解できる。でも)

 クリスティーナは目を伏せる。
 研究の為と自身が特別であることを理由に行動を制限され、自由を求めればそれを奪うべく追いかけられる。本人からすればたまったものではないだろう。

(許容など到底出来ようもないわ)

 国家魔導師達のオリヴィエの扱いは人としての尊厳を軽視した行いだと彼女は感じる。
 自分であれば憤りを覚えるだろうし、それはきっとオリヴィエも同じであるはずだ。
 クリスティーナは胸の内に淀む仄暗い感情を静かに呑み込んだ。

 そして視線を落とし、口を閉ざしたヘマへ声を掛ける。

「……そう。貴女達は彼の自由を守る為に逆らったのね」

 ニコラを慕っているからこそ彼の意志を尊重した。
 罪人と国家魔導師。自らの正体に気付かれれば罰せられる立場でありながらも逆らうことを選んだ。

 クリスティーナの指摘にヘマは小さく笑う。
 そしてゆっくりと口角を持ち上げると彼女は不敵な笑みを浮かべた。

「アタシ達は奴らの立場に気付かなかったし、奴らが口にした名前も聞いたことがなかった。だからうっかり反撃してしまったのさ」
「……そう」

 無茶苦茶な言い訳だ。だがクリスティーナはそんな彼女の主張が嫌いではなかった。
 クリスティーナは睫毛を伏せ、静かに微笑んだ。
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