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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

194-1.一斉反撃2

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 不気味な笑みを湛えながらヴィートは剣士との距離を詰める。
 彼の気迫に負けた剣士は後退り、それでも縮まる距離に怯えの色を見せる。

「っ、ま、待て!」
「ん?」

 上がる生死の声に、ヴィートは素直に足を止めた。
 彼が動きを止めた事に若干の安堵を見せながら剣士は早口で捲し立てる。

「降参、降参する……! そもそも、俺はそこの魔導師達に雇われただけなんだ。こいつらの地位と報酬に目が眩んで依頼を受けただけで」

 言い訳を連ねる相手の話を退屈に思ったのか、ヴィートは口を尖らせながら首を鳴らす。
 だがその暢気な態度は次の瞬間に掻き消された。

「この辺りに潜伏してる魔導師、オリヴィエ・ヴィレットを――」

 剣士がそう口走ったその時、ヴィートの表情が強張る。
 刹那、彼は地面を蹴って姿を消すと目にも止まらぬ速さで剣士の懐に潜り込む。
 そして剣士の鳩尾に自身の肘を深く突き立てた。

「がぁ……っ」

 低い呻き声と共に胃の中をひっくり返す剣士。
 彼は地面に両膝をつくとそのままうつ伏せに倒れて動かなくなった。

「だぁれ? それ」

 相手の意識が失われたことを確認したヴィートは剣士の体を見下ろしながら再び笑みを浮かべる。
 冷たく、怪しく光る目を細めながら彼はのんびりとした口調で呟いた。

「知らないなぁ、そんな人」


***


 注意の逸れた相手の隙を衝くべくエリアスは地面を蹴る。
 だが相手との距離が剣のリーチ内に届くよりも先、魔導師が彼の接近に気付く。

 しかしそれはエリアスの想定内だ。
 魔導師らがエリアスに向き直って杖を振るうよりも早く、彼は剣を振るった。

「フレイム・スラッシュ」

 握った剣が炎に包まれる。
 剣がその場の景色を横真っ二つに切り裂く様に振るわれると同時、その刃に絡んでいた炎が魔導師達目掛けて放たれる。

 自立した一つの刃と化した炎。魔導師は向かってくるそれを打ち消すべく水魔法を放つ。
 放った炎は音を立て、蒸気を伴いながら姿を消した。

 だがエリアスの狙いは魔法の命中ではない。
 防御へ転じた魔導師らを見た彼は自身の勝ちをより一層強く確信した。

「……っ!」

 魔導師達が顔色を変え、エリアスの思惑に気付いた時。
 彼は既に自身の間合いまで距離を詰めていた。

 数えきれない程剣を振るってきたエリアスは自身の間合いを正確に理解している。
 故に自身の武器が相手へ届く範囲へ入った瞬間、彼は躊躇いなく剣を振るった。
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