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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
190-2.静観の終わり
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「……襲撃か」
「ああ」
倒れた二人を縄で拘束するリオ、一行を睨みつける三人と対峙するヴィートの姿を見ながらオリヴィエが呟く。
それに対しヘマが頷く。
「奇襲狙いの魔法を放とうとしたんだろう。幸い魔法が発現するより先に二人が仕留めた様だが」
冷静に状況を説明しつつも、彼女は後ろを振り返る。そしてそれはエリアスも同じであった。
刹那。エリアスが前に出る。
彼は腰を深く落とし、構えていた剣を振り上げた。
瞬間、何かを弾くような音が響く。
剣に弾かれ、霧散したのは氷の矢だ。それは破片となって辺りへと舞った。
エリアスとヘマの視線の先にはローブを身に纏う男が二人と剣を構える男が一人立っている。
「こちらも対応しなければな。――ニコラ」
ヘマは道を塞ぐ様に立つ三人へ顔を向けたままオリヴィエを呼んだ。
何故名を呼ばれたのかを理解しているのだろう。オリヴィエは深く息を吐くと小さく頷く。
「……わかっている。時間を作ってくれ」
「ああ」
ヘマは短く返事を返すと、両手に拳を作りながら身構える。そして前方で相手を警戒しているエリアスへ声を掛ける。
「素手と魔法では流石に分が悪い。援護を頼んでもいいか」
「勿論」
「それと、ニコラに手を貸してやってくれ」
「んぁ? それってどういう――」
二つ目の指示にエリアスが首を傾げるも、言葉は返されない。ヘマは地面を蹴り、彼の脇をすり抜けていった。
ヘマは剣士の元へと距離を詰める。
だが彼女が一歩先へと足を踏み出した時、その足先が突如盛り上がる。
彼女の前進を阻止する様に持ち上がった地面はレンガを突き抜け、鋭く尖った土塊を形成する。
しかしその存在にいち早く気付いたヘマは素早く横へ滑り込むと土塊を躱しながら三人との距離を的確に詰めた。
そこへ数十もの氷の矢が彼女の頭上で形成される。
その一つ一つの大きさは大した物でなく、命を奪おうとする規模の魔法ではない。だが、攻撃を受けてしまえば傷を負い、体の動きは鈍るだろう。
だがそれでもヘマが怯むことはない。
彼女は迷うことなく直進を選択した。
同時に足止めをすべく落下する氷。だがそれがヘマへと向かったその瞬間。周囲の熱気が急激に上昇した。
「――フレイム・ヴェイル」
ヘマの頭上を赤い刃が通過する。それは彼女へと迫る槍を瞬く間に溶かしていく。
蒸気を放ちながら脅威が消えていく。
ヘマの後方、己の武器に炎を宿したエリアスはその様を静かに睨みつけていた。
「ああ」
倒れた二人を縄で拘束するリオ、一行を睨みつける三人と対峙するヴィートの姿を見ながらオリヴィエが呟く。
それに対しヘマが頷く。
「奇襲狙いの魔法を放とうとしたんだろう。幸い魔法が発現するより先に二人が仕留めた様だが」
冷静に状況を説明しつつも、彼女は後ろを振り返る。そしてそれはエリアスも同じであった。
刹那。エリアスが前に出る。
彼は腰を深く落とし、構えていた剣を振り上げた。
瞬間、何かを弾くような音が響く。
剣に弾かれ、霧散したのは氷の矢だ。それは破片となって辺りへと舞った。
エリアスとヘマの視線の先にはローブを身に纏う男が二人と剣を構える男が一人立っている。
「こちらも対応しなければな。――ニコラ」
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何故名を呼ばれたのかを理解しているのだろう。オリヴィエは深く息を吐くと小さく頷く。
「……わかっている。時間を作ってくれ」
「ああ」
ヘマは短く返事を返すと、両手に拳を作りながら身構える。そして前方で相手を警戒しているエリアスへ声を掛ける。
「素手と魔法では流石に分が悪い。援護を頼んでもいいか」
「勿論」
「それと、ニコラに手を貸してやってくれ」
「んぁ? それってどういう――」
二つ目の指示にエリアスが首を傾げるも、言葉は返されない。ヘマは地面を蹴り、彼の脇をすり抜けていった。
ヘマは剣士の元へと距離を詰める。
だが彼女が一歩先へと足を踏み出した時、その足先が突如盛り上がる。
彼女の前進を阻止する様に持ち上がった地面はレンガを突き抜け、鋭く尖った土塊を形成する。
しかしその存在にいち早く気付いたヘマは素早く横へ滑り込むと土塊を躱しながら三人との距離を的確に詰めた。
そこへ数十もの氷の矢が彼女の頭上で形成される。
その一つ一つの大きさは大した物でなく、命を奪おうとする規模の魔法ではない。だが、攻撃を受けてしまえば傷を負い、体の動きは鈍るだろう。
だがそれでもヘマが怯むことはない。
彼女は迷うことなく直進を選択した。
同時に足止めをすべく落下する氷。だがそれがヘマへと向かったその瞬間。周囲の熱気が急激に上昇した。
「――フレイム・ヴェイル」
ヘマの頭上を赤い刃が通過する。それは彼女へと迫る槍を瞬く間に溶かしていく。
蒸気を放ちながら脅威が消えていく。
ヘマの後方、己の武器に炎を宿したエリアスはその様を静かに睨みつけていた。
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