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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

189-1.敵意の矛先

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 親子が立ち去ったのを見送った後、ヴィートは抑える気のない深い溜息を吐いた。
 そしてクリスティーナの腕を引くと焦りをにじませた形相のまま小声で捲し立てる。

「もー! びっ、くりしたよ。ニコラの事バラすんじゃないかって……!」

 クリスティーナを引き寄せ、小声で話しているのはブランシュに会話の詳細を聞かれない為だろう。
 念の為、彼女が聞いていないことをクリスティーナ自身も確認してから

「まさか。名の知れた怪盗と知人だと主張しても大抵は嘘か誇張だと思うでしょう。焦るのは事実である事を知っている場合だけだわ」
「うーん、確かに。実際それは正しかった訳だし。……おれはびっくりしたけどね!」

 クリスティーナから手を放しながらヴィートは口を尖らせる。
 だがその視線がクリスティーナからブランシュへと移動したところで、彼は不思議そうに首を傾けた。

「……ブランさん? どうかした?」
「え……あっ」

 クリスティーナとヴィートが声を潜めて話す間、ブランシュは一人考え込む様に難しい顔をして黙っていた。
 それに気付いたヴィートに声を掛けられると彼女ははっと我に返り、やや動揺を見せる。

「いえ、大したことではないんですけど。『遊翼の怪盗』はどんな人なんだろうと。皆さんのお仕事と『遊翼の怪盗』の目的を鑑みるに、彼も皆さんのお仲間なんですよね?」
「あー……まあ、そうだね。協力関係ではあるかな」

 取締局の素性をブランシュがどれだけ把握しているのかが定かでない以上、それに関わる問いを投げられたとしても遠回しな言葉で誤魔化すしかない。
 故にヴィートは『遊翼の怪盗』が仲間であるとは断言しなかった。
 ブランシュもまたそれを言及することはせず、自身の中に生まれた疑問に頭を悩ませている様だ。

「……私、『遊翼の怪盗』は傲慢で自分勝手な人だと思っていたんです」
「おー」

 クリスティーナとヴィートはオリヴィエの姿を思い浮かべながら否定できない事実に口を噤む。
 ブランシュはワンピースの裾を両手で握りながら視線を落とした。

「父は、皆さんや『遊翼の怪盗』の為に手を貸すことを惜しまなかったはずです。父の協力が役立つ場面もきっとあった事でしょう。……ですが父が不自然な失踪を遂げた後、父を助けようという動きは殆ど見られなかった」
「言っとくけど、おれ達は探してたからね? 表立って動けない事、成果が上手く出てない事は申し訳ないと思うけどさぁ」
「わかっています。ディオンさんとお話をさせていただいた事や、こうして私の気持ちを尊重して無理を通してくださっているという事実で皆さんに対する疑念は完全に消えていますから」

 ヴィートは不貞腐れ、口を尖らせる。気を悪くしたことがすぐにわかるその態度を見たブランシュはすぐに頭を下げた。

「……ただ、『遊翼の怪盗』に対してはどうしても良い印象を抱けないんです」

 ブランシュは視線を落としたまま顔を歪める。
 葛藤や拒絶、願望、必死さ。それらが入り混じった表情の中、クリスティーナは僅かな違和感を感じる。

「『遊翼の怪盗』はその間も古代魔導具の回収の為に街中を駆け回る癖、その力を父の為には使ってくれない。……だから、自身の目的さえ果たすことが出来るならばその為に手を貸していた者がどうなろうとも気に掛けない人なのだと」
「それは少し……主観が入り過ぎな気がするわ」

 違和感の正体を探りながら、クリスティーナは口を挟む。そしてブランシュの発言に一つの指摘を落とし込もうとした時。ブランシュはクリスティーナの話を待つことなく自らの発言を続けた。
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