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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
186-3.幸福の量り方
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詫びられる覚えがないヴィートは首を傾げたが、浮かんだ疑問もすぐに喜びが掻き消していく。
「……おれ、プレゼント貰ったの初めてだ。ありがと、クリスさん」
「いいえ」
「大事にするね。ずっと付ける!」
「飽きたら外してもいいのよ」
「そんな日来ないよ」
本当に些細な物。だが彼はわかりやすく喜んで見せた。
ガラス玉を何度も指で撫でては照れ臭そうにはにかむ。その姿を見ながらクリスティーナもまた、ネックレスを改めて観察した。
出会って間もないヴィートの好みをクリスティーナは正しく把握していない。
輝く物が好きで、クリスティーナやオリヴィエの瞳を気に入っている。その程度の情報でプレゼントを選ぶのであれば自ずと選択肢は狭まる。
自分の瞳の色かオリヴィエの瞳の色のどちらに寄せるべきか迷いはしたが、結果クリスティーナはオリヴィエの瞳に似たアクセサリーを選んだ。
とは言えそこに特に深い意味はなく、ただ自分の瞳の色の物を他者へ押し付ける事が恥ずかしいと感じた為である。
「ニコラの目に似てるね。やっぱりキレイだ」
「そうね」
「……クリスさん達は、ニコラの事あんまり好きじゃない?」
未だガラス玉をまじまじと見つめながら、突如そんな問いが投げられる。
それにクリスティーナが目を丸くするとヴィートが肩を竦めた。
「皆、最初はニコラの事が好きじゃないって言うんだ。いつも怒ってるみたいだし、気難しい感じがするんだって」
「否定はしないし、確かに好意を持っている訳ではないわ」
「やっぱり! いい奴なんだけどなぁ……どうしたら誤解が解けるんだろ」
「悪い人だと思っている訳ではないのよ」
誤解しているという考えがまず誤解であるとクリスティーナが主張するものの、ヴィートは聞く耳を持っていない。
ヴィートは腕を組んで唸りながら考え込んでしまい、クリスティーナとエリアスは彼のどう声を掛けて彼の考えを中断させるべきかと互いに顔を見合わせる。
だが二人が口を挟むよりも前、ヴィートは屋台に置かれていたお洒落用の眼鏡に目を付け、一人納得したように声を掛けた。
「……あ! これ」
「眼鏡がどうかしたのか?」
「ニコラって普段眼鏡をかけてるでしょ? でもあいつ、目は良い方なんだよね」
「なら、お洒落のつもりなのかもしれないわね」
「ううん。前なんでって聞いたんだよ。そしたらさ」
ヴィートは咳払いを一つして、眼鏡を押し上げる仕草をする。
恐らくはオリヴィエの真似をしているつもりなのだろう。
「『頭が良さそうに見えるから』って!」
「……ああー…………」
「ね、ちょっとイメージ変わるでしょ?」
「あーウンウン、親しみやすさみたいなねー」
エリアスが妙に納得した様に間の抜けた声を漏らし、ヴィートの言葉に適当な肯定を示す。
その傍らではクリスティーナがため息を吐いていた。
「やっぱり彼は大馬鹿者なのね……」
呟かれた声には呆れる思いが多分に含まれている。
見栄を張り、堂々とそれを公にする。その発言自体がそもそも頭の悪そうな物であるという事実に気付いていなかったのだろう。
クリスティーナはつい先程、彼の事を聡明と評してしまった事実を大きく恥じるばかりであった。
「……おれ、プレゼント貰ったの初めてだ。ありがと、クリスさん」
「いいえ」
「大事にするね。ずっと付ける!」
「飽きたら外してもいいのよ」
「そんな日来ないよ」
本当に些細な物。だが彼はわかりやすく喜んで見せた。
ガラス玉を何度も指で撫でては照れ臭そうにはにかむ。その姿を見ながらクリスティーナもまた、ネックレスを改めて観察した。
出会って間もないヴィートの好みをクリスティーナは正しく把握していない。
輝く物が好きで、クリスティーナやオリヴィエの瞳を気に入っている。その程度の情報でプレゼントを選ぶのであれば自ずと選択肢は狭まる。
自分の瞳の色かオリヴィエの瞳の色のどちらに寄せるべきか迷いはしたが、結果クリスティーナはオリヴィエの瞳に似たアクセサリーを選んだ。
とは言えそこに特に深い意味はなく、ただ自分の瞳の色の物を他者へ押し付ける事が恥ずかしいと感じた為である。
「ニコラの目に似てるね。やっぱりキレイだ」
「そうね」
「……クリスさん達は、ニコラの事あんまり好きじゃない?」
未だガラス玉をまじまじと見つめながら、突如そんな問いが投げられる。
それにクリスティーナが目を丸くするとヴィートが肩を竦めた。
「皆、最初はニコラの事が好きじゃないって言うんだ。いつも怒ってるみたいだし、気難しい感じがするんだって」
「否定はしないし、確かに好意を持っている訳ではないわ」
「やっぱり! いい奴なんだけどなぁ……どうしたら誤解が解けるんだろ」
「悪い人だと思っている訳ではないのよ」
誤解しているという考えがまず誤解であるとクリスティーナが主張するものの、ヴィートは聞く耳を持っていない。
ヴィートは腕を組んで唸りながら考え込んでしまい、クリスティーナとエリアスは彼のどう声を掛けて彼の考えを中断させるべきかと互いに顔を見合わせる。
だが二人が口を挟むよりも前、ヴィートは屋台に置かれていたお洒落用の眼鏡に目を付け、一人納得したように声を掛けた。
「……あ! これ」
「眼鏡がどうかしたのか?」
「ニコラって普段眼鏡をかけてるでしょ? でもあいつ、目は良い方なんだよね」
「なら、お洒落のつもりなのかもしれないわね」
「ううん。前なんでって聞いたんだよ。そしたらさ」
ヴィートは咳払いを一つして、眼鏡を押し上げる仕草をする。
恐らくはオリヴィエの真似をしているつもりなのだろう。
「『頭が良さそうに見えるから』って!」
「……ああー…………」
「ね、ちょっとイメージ変わるでしょ?」
「あーウンウン、親しみやすさみたいなねー」
エリアスが妙に納得した様に間の抜けた声を漏らし、ヴィートの言葉に適当な肯定を示す。
その傍らではクリスティーナがため息を吐いていた。
「やっぱり彼は大馬鹿者なのね……」
呟かれた声には呆れる思いが多分に含まれている。
見栄を張り、堂々とそれを公にする。その発言自体がそもそも頭の悪そうな物であるという事実に気付いていなかったのだろう。
クリスティーナはつい先程、彼の事を聡明と評してしまった事実を大きく恥じるばかりであった。
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