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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
186-2.幸福の量り方
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(……何と言うべきか。彼の発言はいつも正しい様に思えるわ)
その物言いは厳しくあっても、思い返してみれば間違った事を言っている訳ではないとわかってしまう。
オリヴィエにはあまりに単純な反応を示すことや浅慮だと感じる行いも目立つ。だが周囲の者が口を揃えて馬鹿であると言う程に彼が考えなしかと言えばそうではないとクリスティーナは感じる。
馬鹿であるどころか、実は聡明なのではと思う様な部分すら見られる程だ。
「前は生きる為に必要な事以外考える余裕もなかったけど、今ここで皆と話したり、真昼間に堂々と街を歩いたり、新しい物を見つけたりするのは楽しいなぁって思う。ここに来て、初めて知ったことが沢山あるし、そういうの全部が今は大事なんだ」
ヴィートは自身の幸せについて語る。
多くの者にとっては同情し得る身の上であったとしても、当の本人が心の底から笑っている。
それを見て、彼の幸せを否定できる者が一体どこにいるというのだろう。
「だからおれ、今の居場所がすごく好きだよ」
「……そう」
クリスティーナは睫毛を伏せ、小さく微笑んだ。
彼の感じる事に対し、他者が口を挟める事は何もない。
故に口を閉ざした彼女はしかし、ふと横切った屋台を視界に捉えて足を止めた。
「……待って頂戴」
「うん?」
立ち止まったヴィートが目を丸くする。
そんな彼を無言で手招きしながらクリスティーナは屋台へと近づいた。
三人が向かったのは先程ヴィートが足を止めた場所と似た物が売られている屋台だ。
安価なアクセサリーが並ぶ屋台でクリスティーナは商品を静かに観察する。
興味津々にクリスティーナの様子を窺うヴィートの視線を間近に感じながら、彼女は暫く装飾品を見た後に一つのネックレスを手に取った。
それは美しいガラスを宝石に見立てて作られたシンプルな造りの物であり、鎖に繋がれた大きなガラス玉は黄緑色に光っている。
クリスティーナはポケットから硬貨を出すとそれを店主へ渡し、ネックレスを購入する。
そして手に握られているそれを持ったままヴィートの後ろへ回り込んだ。
「そのまま動かないで」
「え? こう?」
不思議そうにしながらも言われた通りに待つヴィートの首元へクリスティーナは手を伸ばす。
そして持っていたネックレスを彼へ掛けてやる。
「え……っ、わぁ」
「あげるわ」
ヴィートは自身の首に掛ったネックレスを片手で掬い、瞬きを繰り返す。
そして大きなガラス玉に見惚れた後、目を輝かせてクリスティーナを見た。
「いいの?」
「ええ。……お詫びのような物だから」
「ん?」
オリヴィエの言葉を思い出すと同時に生まれた小さな罪悪。自身の価値観を押し付けようとしたことに対する後ろめたさを清算する為にも、そして生まれたばかりの子供の様に無知な彼に小さな幸せを与えたいという思いから、クリスティーナは些細な贈り物を施した。
その物言いは厳しくあっても、思い返してみれば間違った事を言っている訳ではないとわかってしまう。
オリヴィエにはあまりに単純な反応を示すことや浅慮だと感じる行いも目立つ。だが周囲の者が口を揃えて馬鹿であると言う程に彼が考えなしかと言えばそうではないとクリスティーナは感じる。
馬鹿であるどころか、実は聡明なのではと思う様な部分すら見られる程だ。
「前は生きる為に必要な事以外考える余裕もなかったけど、今ここで皆と話したり、真昼間に堂々と街を歩いたり、新しい物を見つけたりするのは楽しいなぁって思う。ここに来て、初めて知ったことが沢山あるし、そういうの全部が今は大事なんだ」
ヴィートは自身の幸せについて語る。
多くの者にとっては同情し得る身の上であったとしても、当の本人が心の底から笑っている。
それを見て、彼の幸せを否定できる者が一体どこにいるというのだろう。
「だからおれ、今の居場所がすごく好きだよ」
「……そう」
クリスティーナは睫毛を伏せ、小さく微笑んだ。
彼の感じる事に対し、他者が口を挟める事は何もない。
故に口を閉ざした彼女はしかし、ふと横切った屋台を視界に捉えて足を止めた。
「……待って頂戴」
「うん?」
立ち止まったヴィートが目を丸くする。
そんな彼を無言で手招きしながらクリスティーナは屋台へと近づいた。
三人が向かったのは先程ヴィートが足を止めた場所と似た物が売られている屋台だ。
安価なアクセサリーが並ぶ屋台でクリスティーナは商品を静かに観察する。
興味津々にクリスティーナの様子を窺うヴィートの視線を間近に感じながら、彼女は暫く装飾品を見た後に一つのネックレスを手に取った。
それは美しいガラスを宝石に見立てて作られたシンプルな造りの物であり、鎖に繋がれた大きなガラス玉は黄緑色に光っている。
クリスティーナはポケットから硬貨を出すとそれを店主へ渡し、ネックレスを購入する。
そして手に握られているそれを持ったままヴィートの後ろへ回り込んだ。
「そのまま動かないで」
「え? こう?」
不思議そうにしながらも言われた通りに待つヴィートの首元へクリスティーナは手を伸ばす。
そして持っていたネックレスを彼へ掛けてやる。
「え……っ、わぁ」
「あげるわ」
ヴィートは自身の首に掛ったネックレスを片手で掬い、瞬きを繰り返す。
そして大きなガラス玉に見惚れた後、目を輝かせてクリスティーナを見た。
「いいの?」
「ええ。……お詫びのような物だから」
「ん?」
オリヴィエの言葉を思い出すと同時に生まれた小さな罪悪。自身の価値観を押し付けようとしたことに対する後ろめたさを清算する為にも、そして生まれたばかりの子供の様に無知な彼に小さな幸せを与えたいという思いから、クリスティーナは些細な贈り物を施した。
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