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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

185-2.ガラス玉と瞳

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「まあ今でもおれを初めて見る人の中には凄い嫌な顔をする人も少なくないんだけどね。ジルさんとか……それこそエリーさん達とか」
「うっ……。でもあれは正直オレは悪くないと思うぞ」
「冗談だよー。文句が言いたい訳じゃないし、おれのうっかりのせいだってのはわかってるから別に気にしてないしね?」

 バツが悪そうに顔を顰めるエリアスの反応を面白がるように、けらけらと笑いが漏れる。
 ヴィートはエリアスへ視線を向けると意地悪く口角を上げた。

「だからこそ、初めましてでおれの事を真っ直ぐ見てくれる人とかの目は印象に残りやすいし、その目を通して向けられる気持ちが悪い物じゃなかった時は尚更キレイだなって思うんだ」

 商品を元に戻したヴィートはクリスティーナの顔を覗き込む。
 彼は先程まで装飾品に向けていた瞳でクリスティーナの瞳を映す。

「だからおれはクリスさんの目が好き」

 彼はそう言って満面の笑みを咲かせたかと思えば、クリスティーナが何か反応を返すよりも先に離れてしまう。
 そして屋台の店主に礼を述べるとその場を離れた。

 クリスティーナとエリアスもそれに続いて屋台を後にする。

「あとね、おれはニコラの目も好きだよ」
「彼の?」

 クリスティーナ達が付いてきている事を振り返って確認しながら、ヴィートは続ける。
 聞き返された声には大きな頷きが一つ返された。

「うん。ニコラもね、人を良く見てるんだよ。それに、自分の見た物を一番に信じる質だから、おれの事を知っても一切動じなかったんだ」

 彼の顔に浮かぶのはオリヴィエに対する思い。憧れと大きな好意だ。
 それを見ながらクリスティーナの胸の内には疑問が浮かぶ。
 オリヴィエの冷たい言動は他者の顔を引き攣らせる事になり得る物ばかりだが、その一方で彼を強く慕っている者達も確かにいる事をクリスティーナは知っている。
 ノアやレミ、シャルロット、宿屋の夫婦、そしてヴィート。

 だがそう至るだけの理由にクリスティーナはまだ辿り着けていなかった。
 クリスティーナが理解していない彼の人となり。それがどんなものであるのか、クリスティーナの中には僅かな関心が生まれていた。

「今まで通り接してくれるもんだから、怖くないのかって聞いたことがあったんだけど。そしたらさ、『僕が何かされたわけでもないのに怖がる必要がどこにあるんだ』って。心の底から不思議そうな顔で聞き返されちゃった」

 ヴィートは照れ臭そうにはにかむ。
 そして僅かな間が三人の間に訪れた後、ヴィートは明るい表情を潜めて小さく呟いた。

「おれね、人を殺したんだ」
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